130 / 172
第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第123話 死遊の魔女と身勝手の果て
しおりを挟む「ッありえない……!こんなの……このボクが……!!」
斜めに上半身と下半身を分断されてなお、喚き散らすガリストだが、『一閃断絶』の効果は正しく機能しているようで、再生する様子もない。
不死の特性を持つ〝醒花〟の影響で死んでこそいないものの、あんな状態で戦う事はできないだろうし、私達の勝ちと言っていいだろう。
本当ならブレリオの仇として自分の手で止めを刺したいところだけど、もうそんな力は残ってないし、色々聞かなければならない事もある。
どのみち、後は事態に気付いたアライア達がきてくれるのを待つことしかできない。
「っルーコちゃん……無事でよかった……」
「ぁ……ノルンさん…………」
もう指一本すら動かせない状態でノルンに抱きかかえられる私。いつも心配かけてばかりだなと思いながらも、安心させるように笑顔を返した。
「ッ……ふざ……けるな!何を……終わった気でいるんだ……まだボクは…………」
「――――お、こっちも終わってたか」
激昂するガリストの声をかき消すように何かを引き摺って現れたのは〝剣聖〟の死体人形と戦っていた筈のレイズだった。
「ば、馬鹿な……なんでお前が……ボクの〝剣聖〟と戦っていた筈じゃ…………」
「ん?ああ、流石に〝剣聖〟の死体人形だ。中々に楽しめたぞ――――ほら」
ガリストの疑問に一瞬、小首を傾げたレイズは意図に気付き、引き摺っていた何か……〝剣聖〟の死体人形だったものを前へ放り投げる。
「ッ…………!?」
「多少、動きが悪くはあったのが残念だが、再生力で長く楽しめたのは良かった。ま、この俺を殺すには全然、足りなかったがな」
満足げに語るレイズの言葉に絶望の表情を浮かべて絶句するガリスト。
身代わりは潰され、自身の〝醒花〟も破れた今、最後に残った切り札の〝剣聖〟までもが壊されてしまったのだから、その表情を浮かべてしまうのも無理はない。
「……もうこれで終わりだ〝死遊の魔女〟……今までお前が弄んできた人達に謝りながら後悔しろ」
私自身はもう指一本動かせないから止めを刺す事はできない。けれど、ガリストもまた、あんな状態では何もできない筈だ。
「終わり……?このボクが……?まだ何も……あの人だって…………」
目を見開き、壊れた人形のようにぶつぶつと呟くガリストの姿に少し思うところはあるが、ここまでの非道な行いや所業を考えれば同情の余地はないだろう。
「……もう少ししたらアライア……〝創造の魔女〟がくる。そうしたらお前達の事を色々喋ってもらうぞ」
さっきまで上機嫌だったレイズもガリストの様子は見るに堪えなかったらしく、声を落として淡々とそれだけ告げると踵を返して私達の方に足を向けた。
「――――それは困る。まだ私達の存在を公にされるのは勘弁願いたい」
「「っ……!?」」
突如として聞こえてきた第三者の声に私とノルンが驚き、レイズは目を細めてその方向を見やる。
「ぁ…………スズノ……?」
「……何とも無様な姿になった。滑稽過ぎて笑いも出ない」
薙ぎ倒された木々の間を縫ってやってきたのは街での騒動後に現れたガリストの仲間の一人……スズノだった。
「お前がなんでここに……?ボクは誰にも言ってないはず…………」
「貴殿の勝手な行動は目に余るとソフニル殿から監視を命じられたから。まあ、命はそれだけじゃないけど」
冷ややかにガリストを見下ろすスズノの目はおおよそ仲間に向けるのものではなく、剣呑な鋭さを孕んでいる。
「……お前が〝神速の剣鬼〟スズノ……アライアの奴に聞いてはいたが、仲間を助けに来たのか?」
「……そういう貴殿は〝絶望の魔女〟……その問いに答える義理はないけど、状況的にはそう見えるのも仕方ない」
「おいっ何を呑気に話してるんだよ!さっさとボクを助けろ!!」
少し挑発するような視線と共にぶつけたレイズの問いに対し、スズノが小首を傾げながら答えると、そのやり取りに焦れたガリストが苛立ちを露わにして声を荒げた。
「はぁ……そんな状態になっても性根は変わらないと……それじゃあ、さっさと用事を済ませるに限る」
小さな溜息を一つ吐いたスズノはそういうと、片足をとんっと鳴らして一瞬の内に倒れているガリストの側まで移動する。
その速度は〝醒花〟を使用したレイズよりも速く、私の目には何も映らなかった。
〝神速の剣鬼〟……流石に今の私やノルンさんじゃ相手にもならない……もうレイズさんに任せるしか……
身体が動かない中、新たに現れた脅威にどう対処すべきか思考を巡らせていると、傍らに立ち、ガリストを見下ろしていたスズノが思いもよらぬ行動に出る。
「がッ……!?ス……ズノ……何を…………」
一瞬、スズノの手元が動いたかと思えば真っ二つになったガリストの上半身に衝撃が走り、赤黒い血が派手に飛び散った。
「……ん?一撃で心臓を切ったのにまだ喋れるなんて……流石にしぶとい」
再び小首を傾げ、僅かに眉を吊り下げるスズノ。仲間を斬ったというのにそこには何の感慨もなく、ただ一撃で殺せなかったという不満だけが浮かんでいるように見える。
「っ……!」
「仲間を斬った……?」
「……なるほどな。それがお前の目的か」
衝撃の出来事を前に呆然とする私達とは違い、一人冷静にスズノの目的を看破したらしいレイズが呟くような声で問いを投げかけた。
「そう、私の役目はガリストが敗北した場合の後処理。止めを刺されなかった時、情報が漏れないよう口を封じるためにきた」
「かふっ……ど、どうして……ボクは……まだ何も…………」
淡々と答えるスズノに瀕死のガリストが手を伸ばしながらどうしてと尋ねる。
確かにスズノの役目が口封じだというのなら何も殺す必要はない。ただ、そのままガリストを抱えてこの場から離脱するだけでいいのだから。
あの速度ならこの場にいる誰も追いつけないし、その方がガリストという戦力を失う事もなく済む筈だ。
「……確かに貴殿は何も喋ってないし、私ならこの場から貴殿を抱えて逃げる事も可能。しかし、ソフニル殿から勝手をした末に負け帰るようなら処分するようにと言われている」
「なっ……ボクが……いなければ……これからの……計画に支障が…………」
「これはソフニル殿からの伝言。〝ガリストさん、貴女の役目はもう終わりました。ありていに言えば用済みです〟と」
スズノの口から告げられた衝撃の言葉に絶句し、口をパクパクさせるガリスト。仲間だと思っていた相手に用済みだと処分されかけているのだからそうなるのも無理はない。
「…………ッふざける――――」
「五月蠅い」
はっと我に返ったのか、ガリストが激昂して声を上げようとしたその瞬間、スズノが鬱陶しそうに呟いて腕を振るい、あっさりとその命を刈り取った。
「あのしぶとかった〝死遊の魔女〟を一撃で…………」
いくら弱っていたとはいえ、不死の〝醒花〟はまだ継続されていた。
にもかかわらず、それを関係ないと斬り殺したという事は、スズノの一撃が私の『一閃断絶』と似たような効果を持っていたのかもしれない。
「…………これで私の役目も終わり。そろそろ帰る」
「……このまま何もなく帰れると思っているのか?」
もう興味はないのか、ガリストの死体から視線を外し、踵を返してきた道を戻ろうとするスズノへ、戦斧を構えたレイズがそう言い放つ。
「うん、名残惜しいけど、今日はここまで……あ、そうだ。そこの……えーと……エルフの子。貴殿の一閃は凄かった。またその内、斬り結ぼう」
「へ……?」
向けられる殺気をどこ吹く風と受け流し、レイズの言葉にそう答えたスズノは思い出したかのようにそれだけ言い残すと音もなくその場から消えてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる