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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第124話 死遊の魔女と非才の報い
しおりを挟む「……逃がしたか」
スズノの消え去った後、切り裂かれ、物言わぬ骸となったガリストを後目にレイズが残念そうに呟く。
正直、私としては向こうから退いてくれた事に安堵するばかりだが、レイズはスズノと戦いたかったらしい。
「……なんで貴女は残念そうなのよ。むしろ逃げてくれて助かったって言う場面でしょうに」
そんなレイズに私と同意見のノルンが呆れ返った様子で溜息を吐く。
あまりに唐突とはいえ、ガリストという脅威が消えて安堵したのだろう。張り詰めていた空気が弛緩していくのが分かる。
……最後は色々あったけど、ひとまず全員無事に切り抜ける事ができた――――
弛緩した空気に当てられ、そのまま疲れに任せて目を瞑ろうとしたその瞬間、ずきりとした感覚が身体の奥から湧き上がり、急激に全身が熱を帯びたように熱くなって体温が跳ね上がった。
「がッ……ぐぅぅっ……ああああぁぁぁぁぁッ!!?」
焼けつくような痛みと内側から張り裂けそうな激痛、そして全身が軋むような圧力が同時に私を襲う。
それは最早、形容できない苦痛……気絶する事すら許されず、絶え間ない激痛に私は喉が裂けんばかりの咆哮を上げた。
「ッルーコちゃん!?」
「っ何だ、一体どうした……!?」
突然の出来事に驚くノルンとレイズだが、その時の私には二人の方を気にする余裕はなく、ただただ叫び続ける事しかできない。
おそらく『痛点無否』の効果が切れたのだろう。ここまでの戦闘で蓄積された疲労に加え、『魔力集点』の反動、そして何より『魔力転延』によって生成された魔力の結晶を二度、身体に取り込んでいる。
小さな結晶を呑み込んだ時でさえ耐え難い苦痛が襲ってきたのに、その比にならない程の大きさ……それも二つだ。
呑み込んだ瞬間に身体が弾けてもおかしくはなかったのだから、むしろこの程度で済んでいるのは運がいいと言えるかもしれない。
めきめき、みしみし、おおよそ人体が立てうる音とは思えない擬音を立てる私の身体。叫び過ぎて喉が駄目になってしまったのか、声にならない咆哮を上げ続ける。
「熱っ……!?ルーコちゃんの身体、まるで燃えてるみたい」
「……おい、ノルン。ルーコはアレを倒すために何をした!」
私の体温の急上昇に狼狽えるノルンへレイズが声を張り上げて詰め寄った。
「っ私だって分からないわよ!時間稼ぎをしている間にルーコちゃんが何かしたからだとは思うけど……」
「その何かが重要だ。簡単でいい、その時の状況を教えろ!」
たぶん、この状態が長く続けば私の命がない事に二人共気付いているのだろう。レイズに迫られたノルンが表情を切り替え、短い言葉で簡潔に説明する。
「……今の話を聞いておおよそ分かった。たぶん、ルーコの奴はもう一度『魔力集点』を使ったんだろう。俺達との特訓で完成した『魔力転延』……それによって生成された魔力の結晶を使ってな」
「魔力の結晶って……少量取り込んだだけで大変な事になったあれを!?」
驚き狼狽えるノルンの言葉に頷くレイズ。特訓での出来事を知っているが故に現状の危うさに気付いたのかもしれない。
「幸いというべきか、取り入れた魔力自体はすでに使い切っているようだが、無茶をした代償は重い。このままだと全身が弾け飛ぶか、運良くそれを待逃れたとしても激痛で廃人になるだろう」
「そんな……どうにかならないの!?」
「……現状ではどうしようもないな。たとえ、アライアの奴が到着したとしてもあの程度の治癒魔法ではどうしようもない。今のルーコを治すには治癒に特化した〝魔女〟、あるいは〝賢者〟が必要だ」
知っている中でレイズの挙げた条件に該当するのは〝癒々の賢者〟であるリオーレンだが、どこにいるかも分からない彼を呼びに行っている時間はなかった。
「ッもうルーコちゃんはそんなに長い時間持たないわ……せっかく〝魔女〟との戦いを乗り越えたのに」
「……久々にできた可愛い弟子だ。むざむざ死なせるわけにはいかない。こうなったら可能性は低いが、賭けるしかないな」
力なく膝を折り、項垂れるノルンを他所に考え込むように呟いたレイズは事切れ、倒れ伏したガリストの方に足を向ける。
「――――おい、いつまで死んだふりを続けるつもりだ……〝死遊の魔女〟」
死体に向けて戦斧を振りかぶったレイズがそう言い放つと、信じられないことに事切れた筈のガリストの身体がぴくりと僅かに動いた。
「なっ……!あんな状態でまだ生きているっていうの……?」
「……アイツは命を弄んできた〝死遊の魔女〟……裏を返せばそれだけ人の命に触れてきているって事だ。自分の死を偽るのも不可能じゃない」
構えを崩さないままノルンの疑問に答えたレイズが分かりやすく殺気を放ち、さっさと反応しなければ戦斧を振り下ろすと脅しをかける。
「…………ま……さか……気付か……れるとは……ね――――」
「余計な御託はいらない。お前に聞きたいのはただ一つ、あの状態のルーコを助けられるかどうかだけだ」
これ以上、攻撃されては堪らないと言葉に応じたガリストに対して有無を言わせず、さらなる答えを求めるレイズ。
仮にここでガリストができないと答えた場合、レイズは容赦なく戦斧を振り下ろして止めを刺す事だろう。
「この……ままじゃ……無理……だね……ボクの……杖を…………」
「分かった。近くに置けばいいか?」
今にも事切れそうなガリストの指示に従い、レイズはその懐から杖を取り出して顔の近くに置いた。
「……まさか〝死遊の魔女〟のいう事を信じるつもり?元はと言えばアレが原因なのよ」
「ならどうする。このままルーコを見殺しにするのか?」
ノルンのもっともな意見にレイズが非情な問いをぶつける。
ここまでの所業を考えれば信用できないのは当然だが、他に選択肢がない以上、レイズとしてもこの可能性に賭けるしかなかった。
「言い……争うのは勝手……だけど……ボク……だって……死にたくは……ない……から……ね……きちんと……やる……さ」
残った力を振り絞って杖を咥えたガリストが地中から小さな獣の死体を呼び出し、そこに全ての魔力を込めていく――――
この後の……というか、痛みで悶え苦しんでいた時の事はノルンやレイズから聞いただけなので実際に起きたことの詳細は語れないけど、結果的に言えば私は助かった。
後日、アライアに呼ばれてきたリオーレンに見てもらった際に、助かったのが奇跡に近いと言われるほど危険な状態だったらしい。
二度の『魔力集点』と魔力の結晶を二つ呑み込むという無茶をした時点で覚悟はしていたが、それでも助かって良かったと思う。
……だからといってガリストに感謝するつもりは毛頭ないけれど。
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