149 / 172
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第141話 金色の瞳と試験の決着
しおりを挟むあらゆる犠牲の末に無限に再生する肉塊の化け物を倒すため私が辿り着いた魔力の流れが見える境地。
それは後遺症で失いかけた視力を応用で補強したりと、技術として今の私の根幹を為している。
けれど、この技術にはまだ先が……いや、正確に言えば一度は辿り着いた本当の境地があった。
……あの時は本当に最後の最後、死ぬか、生きるかぎりぎりの極限状態だった。だからこそ私はあの境地……流れや強弱、そして魔法や魔術を構成する魔力の綻びさえも見抜く眼を手に入れる事ができたんだと思う。
でも、今は違う。この試験の成否がどうであれ、私は死なないし、他の誰かの命がかかっているわけでもない。
まして私の圧倒的不利ではあるものの、心身共に極限まで追い詰められているわけではない現状で、あの日以降、一度も至れていない境地に至れるのだろうか。
ここにきてまた賭け……いつもの事だけど、それでも私は負けるわけには……ううん、負けたくない!
だから私は手を伸ばす。たとえ、可能性が限りなく低くても、その先に勝利があるのなら。
「……〝集え、世界を捻じ曲げる命の光、求めるのは可能性……私の望みに応え、深淵を覗く軌跡の瞳をここに〟――――」
紡ぐ詠唱は自分の心の底から湧き上がる言霊を繋ぎ合わせたもの。上手くいく保証なんてないし、この一回が失敗した時点で私は負けるだろう。
「っ何だその詠唱は……一体何をしようとしている……!」
炎翼で煙幕を晴らしたグロウが驚愕した表情を浮かべてそう問うが、何がどうなるのかなんて私にも分からない。
私はただただ直感に従って銃口を自分のこめかみに押し当てた。
「――――『審過の醒眼』」
思い浮かんだ言霊を呪文として紡ぎ、引き金を引いたその瞬間、撃ちだされた魔力が身体中を駆け巡り、回り回って私の瞳を金色に染め上げる。
「綺麗…………」
誰かの呟きが響く中、私は金色に染まったその瞳に映る光景に思わず目を見開いた。
凄い……人も、物も、この場に漂う空気さえも、全部が色付いて視える……これが世界に満ちる魔力なんだ…………
目の前に広がる景色はあの日に見たものより鮮明で色鮮やか。
たぶん、この光景は世界の真実の姿なのだろう。
そうでなければ私の妄想という事になるけれど、どのみちそれを確かめる術はないし、なにより、今はこの試験に……グロウに勝てればそれでいい。
金色の瞳を得た私はそこ考えを止め、未だ戸惑うグロウへと真っ直ぐ駆け出した。
「ッ何をしたのかは知らないがこの炎翼を簡単に突破できると思うなよ!」
声を上げて手掌で炎翼を操ったグロウは四枚全てを以って向かってくる私を迎撃しようとしてくる。
呼吸、炎翼が震わす空気、その全ての起こりがこの眼には映る……だからさっきまで避けきれなかったこの連撃もかわせる!
身体能力が上がったわけでも、魔力が増えたわけでもない。けれど、今の私には全てが視える。
起こりが見えればその先が、疑似的な未来予知とでもいうべき精度で映る以上、私はただ必要最低限に身体を動かせばいいだけだ。
「ば、馬鹿な!?この速力、この距離で四枚羽を全てかわすだと……!?」
なおも容赦なく襲い来る炎翼を避けながら突き進み、驚愕するグロウまでの最短距離を突き進む。
もう次はない……このまま一気に決める……!
この間にも私の魔力は凄まじい勢いで消費されている。いくら未来予知に近い精度で視えようと、魔力が尽きてしまえばそれでおしまい……つまり、この攻防で決着をつける事ができなければ私の負けという事だ。
「ッなるほど、理屈はともかく貴殿がこれをかわすのは分かった……なら奥の手だ!」
「なっ!?」
言葉と共にグロウの魔力が膨れ上がり、その背中からさらに二枚の炎翼が生えて襲い掛かってきた。
ッ分かっていてもこの距離はかわせない……!なら――――
新たに生えた二枚の炎翼を避けられないと悟った私は両の銃杖へと魔力を込め、走りながら迫る脅威へと狙いをつける。
「これが『枯紅の炎翼』本来の姿!正真正銘、私の本気だ!!」
「なら私はそれを撃ち破って勝ちます……文字通りに!!」
迫る炎翼……その魔力構成の綻びに向けて私は銃杖の引き金を引いた。
瞬間、銃口から魔力の銃弾が放たれ、過たずに対象を撃ち抜くと同時に炎翼が紅い粒子となってあっという間に霧散する。
「…………は?」
目の前で起きた現象を理解できずに驚愕の表情を浮かべるグロウの前へと躍り出た私は銃杖を逆手に構え、勢いのままに振りかぶった。
「――――これで……終わりです!!」
魔力の乱れている事をこの眼に映る情報として知り、特に薄い部分に狙いを定め、呆けるグロウの鳩尾目掛けて強化魔法と体重を乗せた拳を振り抜き、思いっきり吹き飛ばす。
「がっ……!?」
思わぬ事態に呆けてできた隙に魔力の一番薄い部分へ加速した勢いと強化魔法を乗せた一撃を受けたグロウは思いの外派手に吹き飛び、そのまま倒れ伏して動かなくなってしまった。
「――――そこまで!試験官であるグロウ=レートの戦闘不能により特例試験はルルロア二級魔法使いの勝利とします」
エリンの凛とした声音が響き、試験の終了を告げる。
「…………終わっ……た?」
その声を耳にした瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れ、私を包んでいた魔力が霧散、『審過の醒眼』によって金色に変わっていた瞳も元に戻ってしまった。
「おめでとう~!ルーコちゃん!やったね!!」
「わっちょ、サーニャさん!?」
戦闘の余韻で立ち尽くす私の下にずっと試験を見守っていたサーニャが勢いよく抱きついてくる。たぶん、物凄く心配してくれたのだろう。
よくよく見ればサーニャの目の端に涙が浮かんでいた。
「ん、おめでとうルーコちゃん。色々、言いたい事はあるけど、ひとまず身体の方は大丈夫?見た事ない魔術を使ってたみたいだけど……」
「ふぇ?あ、はい、大丈夫です。あれはあくまで視力強化の延長線上にある境地ですから」
少し困った表情のアライアに問われ、サーニャに抱きつかれながらもそう答えると、不意にぞくりとした悪寒が背筋に走る。
「――――そう。ならちょっと私とお話をしましょうか。ね、ルーコちゃん?」
私の感じた悪寒の正体……それはアライアの後ろで、物凄く良い笑顔を浮かべながら、言いようのない圧力を放つノルンだった。
「ひっ……ノ、ノルンさん?その、えっと…………」
「ねぇ、ルーコちゃん。ルーコちゃんはどうして練習した訳でも、確信がある訳でもないのにあんな危険な事をしたのかしら?」
「そ、それは……あの、ええと…………」
「その銃杖は杖である前に銃なのよ?それを自分のこめかみに向けて引き金をひくなんて……もしも弾が出ていたらどうするつもりだったの?」
そこから笑顔のまま怒るノルンの長い長いお説教が始まり、意識を失ったグロウをエリンが治療している間もずっと、私は正座でそれを受け続ける。
うぅ……せっかく合格したのにノルンさんのお説教が待ってるなんて…………
お説教を受けながら心の中でげんなりする私。もちろん、ノルンが凄く心配してくれている事は分かってるし、ぶっつけ本番であんな行動をした私が悪いというのも分かっているけれど、それでも今は合格を素直に喜びたかったなぁ……としみじみ思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜
夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。
次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。
これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。
しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。
これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる