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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第142話 心配とお説教と試験官の矜持
しおりを挟む永遠に続くかと思うほど長いノルンのお説教だったけれど、グロウの治療を終えたエリンが流石にその辺りにしてあげてくださいと取りなしてくれた事で私はようやく解放された。
「うぅ……足が痺れて立てない…………」
長時間の正座で私の足は立つ事も困難なほど痺れてしまっており、ぷるぷると震えてその場から動けない。
「……このくらいなんでもないでしょう。本当ならまだ言い足りないのだけど?」
「…………いつも優しいノルンさんが今日は厳しいです」
「ノルンさんはそれだけルーコちゃんが心配だったんだよ。私だっていきなり銃杖を自分に向けた時はびっくりしたし、すっごく心配したんだからね?」
立てない私が恨みがましくぼやくと、腰に手を当てたサーニャがお姉さん然として頬を膨らませる。
いや、まあ、今振り返ると確かにぶっつけ本番でただただ直感に従って銃口を自分の頭に突きつけるなんて凄く危ない事をしたと私も思う。
でも、あの賭けに成功しなければ私は間違いなくグロウに勝つ事ができなかっただろう。
だからノルンやサーニャの気持ちは分かるし、心配してくれるのは素直に嬉しい……けど、それでもやっぱり正座からの長いお説教は勘弁してほしい。
「まあまあ、ひとまず何事もなく合格できたんだから良しとしよう?それよりほら、試験官殿から話があるみたいだよ」
私に詰め寄るノルンとサーニャを諫めたアライアが指さす先、そこには治療を終え、少しふらつきながらも、こちらに歩いてくるグロウの姿があった。
「――――ルルロア二等級魔法使い……いや、私に勝った時点でそう呼ぶのは正しくないか。何はともあれ、合格おめでとう。正直、本気でやって負けるとは思っていなかった。貴殿の実力は魔術師に相応しい」
ここにきた時の態度とは打って変わり、どこか憑き物でも落ちたような表情で微笑み、賞賛の言葉を贈るグロウ。もしかしたら最初の態度は私が不正をしていると決めつけていたからこそなのかもしれない。
「……ありがとうございます。その、私自身、実力が見合っているかは分からないですけど、そう言ってもらえるのは嬉しいです……たとえ貴方が全力じゃなかったとしても」
「…………気付いていたか」
お礼ついでの指摘に対し、グロウが驚いた表情を浮かべて返す。とはいえ、指摘したものの、グロウが全力を出していないのではないかという事に確信を持っていたわけではなかった。
「気付いていた……というのは少し語弊がありますね。私はただ、貴方が手を抜くのを止めた以降も、頑なに火以外の魔法、あるいは魔術を使わなかったからそうじゃないかと思っただけです」
侮る事を止め、自身の代名詞ともいえる炎翼の魔術を使っている以上、グロウが試験官として本気で戦ったのは確かだろう。しかし、いくら何でも攻め方があまりに一辺倒過ぎた。
炎の弾幕や炎翼の魔術自体は強力だし、実際に私も追い詰められ、賭けに出ざるを得なかったけど、賢者に一番近いとまで評されるグロウがそこまで単純な戦法を取るはずがない。
魔法も火だけでなく各属性を使うなり、他の現象を引き起こすなりはできるし、魔術も背中から炎翼を生やして操るというものなら空いている手で別の攻撃手段を取れたはずだ。
にもかかわらず、単純な力押しで攻めてきたという事は、本気でも全力は尽くしていないのかもしれないという結論になるのも仕方ないと思う。
「……一つ弁明させてもらうと、私は決して貴殿を侮ったから全力を出さなかったわけではない。確かに最初こそ慢心はしていたが、貴殿の実力を目の当たりにしてそれもとうに吹き飛んだからな」
「ならどうして全力を出さなかったんですか?」
こちらを侮っていないというなら全力を出してしかるべき……合格できた以上、その部分に関して私がとやかく言う事でもないけど、どうしても心にもやもやが残ってしまう。
「先程も言った通り、本気で戦ったのは間違いない。全力を出さなかったのはこれが実戦ではなく、あくまで試験……そして私が試験官だったからだ」
「……どういうことですか?」
「元々、私に下った命は不正の疑いのあるエルフの実力を見極める事。仮に不正が事実で見合っていない実力ならば容赦なく落とすつもりだったが、それでも試験官を務める以上、二級魔法使いを相手に魔術師として全力を出すわけにはいかなかった……まあ、貴殿が相手ならその縛りもいらなかったのかもしれないがな」
そう言って口の端を緩め、肩を竦めるグロウ。なるほど、言われてみれば試験なのに実力を発揮する前に倒してしまっては意味がない。
今回は特例で魔術師になるための試験だったけど、本来は二級魔法使いが一級以上の魔法使いと戦って昇級を勝ち取るためのもの……格上である試験官側が全力で潰しにかかるわけにはいかないという事か。
「……なるほどね、炎翼の魔術師殿が予想より真面目だったから救われたってとこかな」
「ん?それはどういう意味だ創造の魔女殿」
そこまで私達のやりとりを黙って見ていたアライアが納得したように首肯し、呟くと、それを聞いたグロウは怪訝な顔をして彼女へと聞き返した。
「どういう意味って……そりゃあ、上の連中はルーコちゃんを合格させたくないからこそ、次代の賢者候補である炎翼の魔術師を試験官として送り込んできたんだ。もし、君がその思惑を汲んでたら流石に合格をもぎ取るのが難しかっただろうね」
「なっ……まさかそんなわけが――――」
「ないと言い切れる?」
信じられないと言った表情で絶句するグロウに対してアライアが詰めるように問い返す。その反応を見るに外から話を聞いただけの私とそこで過ごしてきたグロウとでは認識が違うのかもしれない。
私からすればアライアの指す上の連中というのは碌でもない人達の集まりだけど、たぶん、賢者候補として才能あふれるグロウにとっては忠誠に値する存在だったのだろう。
「…………創造の魔女殿の言葉……全て鵜呑みにするわけにはいかないが、考えてみれば思い当たる節もある。私は一度、王都に戻って確認を取るつもりだ」
「……まあ、止めるつもりはないけど、行動を起こすなら慎重にね。君が思っているよりも上……いや、王宮の中は伏魔殿だから」
「忠告痛みいるが……その辺はわきまえている。というか、私の事より貴殿らは自分達の心配をすべきだ。合格した以上、近い内に王都へ呼ばれる事になるからな」
「分かってる。その辺りは私達が上手くやるから問題ないよ」
近い内に王都に呼ばれるなんて初耳なんですけど、と周りを見回すも、どうやら知らなかったのは私だけらしく、サーニャとノルンがそうだよと頷く。
「……ならいい。合格を出した手前、その相手が正式に魔術師認定される前に消されるのは御免だからな。それでは王都で待ってるぞ。魔術師ルルロア」
口の端を緩め、最後に私の方に向かってそれだけ言うと、グロウは踵を返してそのまま去っていった。
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