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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第150話 背負う責任と魔物の襲撃
しおりを挟む不安を抱えながらも、トーラスとウィルソンを伴い、王都を出発した私は馬車に揺られながら目的地である南の村跡地に向かっていた。
「――――で、今回の依頼内容の再確認なんだが、今から向かう場所に討伐対象である新種の魔物がいるんだよな?」
長時間馬車に揺られて話題も尽きる中、頭を掻きながらウィルソンがそう尋ねてくる。
事の始まりは私が特例試験に合格して少し経った頃、王都の南方にある小さな集落が謎の魔物に襲撃された。
小さな集落と言っても付近には魔物も出るため、仮の拠点として宿を利用する関係で頻繁に冒険者も出入りしており、問題の襲撃があった日もいくつかのパーティが滞在していたらしい。
そんな中で起こった魔物の襲撃……当然、滞在していたパーティがそれに対応したのだが、結果は大敗。どうにか逃げ帰ってきた数人を残して魔物にやられてしまった。
そして生き残った数人の証言によると、魔物は冒険者パーティを壊滅させた後、姿を消し、村の付近に居座っているとの事だった。
「……みたいですね。新種かどうかは目撃した冒険者の主観ですから何とも言えませんけど、少なくとも、熟練の冒険者パーティを壊滅させるくらいの力を持っている事は確かです。だから今回の依頼は気を引き締めないと――――」
「……気負い過ぎて空回るなよ。今回、僕達の命はお前に預けてるんだ。それをきちんと自覚しろ」
鋭い視線を私に向けたトーラスが真剣な表情でそう忠告してくる。というのも、今回はあくまで魔術師になった私への依頼……つまり、私がこのパーティの指示役という事になるのだ。
だから一見、いつもの嫌味を言っているように聞こえるが、今回ばかりはトーラスの言葉を重く受け止めなくてはならない。
なにせ、私の失敗一つでトーラスとウィルソンが危険な目に合うかもしれないのだから。
「はぁ……どうしてお前さんはそう喧嘩腰な物言いになるんだよ。素直に大丈夫だから落ち着けって言ってやったらどうだ?」
「……別に僕はそんなつもりは……まあ、いい。ともかく、お前は臨時とはいえ、僕達を率いるリーダーだ。アライアさんのようになれとまでは言わないが、いつものように戦うだけじゃ駄目だというのは覚えておけ」
「…………分かりました。自信はありませんけど、善処しま――――わっ!?」
返事をしようとしたその瞬間、馬車が急に止まった事で私の身体が投げ出され、窓に思いっきり鼻をぶつけてしまう。
「いっ……つつ…………どうして急に…………」
「……たぶん、進路上に問題が起きたんだろうな。盗賊か、それとも魔物か」
「どっちにしてもこのままじっとしてるわけにもいかないだろ。御者が殺されるかもしれないからな」
戸惑う私と違って二人は冷静に状況を分析し、次の行動を示唆する。
盗賊でも、魔物でも、助けに行かないと御者の命が危ないのは確か……なら急がないとまずいだろう。
まだ痛みでじんじんする鼻を押さえながらも、外に飛び出し、状況を確認すると、馬車の周りを黒い四足歩行の魔物が囲んでいた。
「あれはグラヴォルフ……面倒な魔物に絡まれちまったな」
「グラ……ヴォ……どんな魔物なんですか?」
「……グラヴォルフ、黒い体毛に鋭い牙と爪が特徴的な魔物で、基本的に群れで行動する習性を持っているんだが……この辺りで出るなんて話は聞いた事ないぞ」
戦闘態勢を取りつつ、話を聞いた私はひとまず、御者の安全を確保すべくその姿を探す。
「ひっ……た、助けて――――」
「っ……!?」
視界の端に今にも襲われそうな御者の姿が映り、慌てて駆け出そうとするも、咄嗟の出来事に一歩で遅れてしまった。
間に合わない――――そう思った瞬間、私よりも速く駆け出したトーラスが間一髪のところで御者と魔物の間に滑り込み、剣で襲い掛かる爪を受け止める。
「ッぼさっとするな!御者と馬を守らないと俺達は足を失うぞ!!」
魔物の爪を弾き返したトーラスの怒声にも近い言葉にはっとし、私とウィルソンが御者の下へと駆け、囲うように集まり、構えを取った。
「――――で、こっからどうする?流石に全員で守るのはじり貧になる状況だぞ」
「……そんな事は分かってる。だが、それを判断するのは僕じゃない。ルーコ」
そういって私の方にちらりと視線を向けるトーラス。さっきの話ではないが、私に指示を仰いでいるという事だろう。
この状況……ウィルソンさんのいう通り、守るだけじゃなく、攻めて数を減らす必要がある……でも、人数的に配分を間違えると、一気に崩れるし……
そんな事を考えながら周囲を見回すと、魔物達は固まったこちらを警戒しているのか、襲ってはこず、包囲したままじりじりとにじり寄ってきている。
「…………ウィルソンさんはこの場で御者さんを守ってください。最悪、周りを土壁で囲っても構いません。それからトーラスさんは私と魔物の数を減らしてもらいます。連携よりも各個撃破で」
必要なのは御者と馬の安全を確保すること、そしてそのための人選としてまず私は論外。
トーラスでも護衛はできるだろうが、どちらかと言えば、土魔法で壁を作って守る事もできるウィルソンが適任だ。
「おう、分かった。嬢ちゃん達も気を付けろよ」
「……了解した。なら僕はこっちから切り崩す」
どうやら二人共私の指示に納得してくれたらしく、頷き、それぞれがそれに沿って動き始める。
まずは強化魔法で出方を窺う――――
強化魔法を纏い、こちらを警戒している魔物達との距離を一気に詰めて一番近い個体の顔面へ拳を叩き込んだ。
「っ浅い……!」
速度の乗った拳は確かに魔物を捉えたが、思いの外、軽く、打点も位置も低かったため、予想以上に威力が殺されてしまい、一撃で仕留める事ができなかった。
「グルルルッ」
「ガァッ!」
私の攻撃をきっかけにして一斉に襲い掛かってくる魔物達。その鋭い牙で、爪で、私の命を刈り取らんと次々に迫る。
っ速さも、一撃の鋭さも、今まで戦ってきた魔物の方が上なはずなのに……凄く戦いづらい…………!
四足歩行の魔物とは戦った事があるものの、それは自分よりも大きい体躯の相手ばかりだ。
だから獣と同じくらいの体躯を持った魔物と戦った経験がなく、また、今の私が銃杖を介さないと魔法が使えないのも、苦戦する要因の一つだろう。
「正面が駄目なら…………ここっ!」
迫る魔物の爪をかわし、今度は顔と胴体の付け根……首元を狙って蹴りを繰り出す。
生物である以上、首の骨を砕かれれば呼吸が困難になり、攻撃自体で仕留めきれなくても、直に死に至る……そう思って放った一撃は狙い通り、魔物の首を捉え、骨を蹴り砕く嫌な感触と共に、今度こそ、その息の根を断った。
「っ……息つく暇もない」
ようやく一匹目を倒したと思ったのも束の間、別の個体が次から次へと襲い掛かってくる。
仲間がやられて怒っているというよりは、死を厭わず、踏み台にしてこちらを仕留めるために利用しているように見えた。
たぶん、この魔物は一個体というより、群れ全体のために動く生き物だ。自らの命すら群れのために使い潰す……そういう生体の魔物がいるというのを本で読んだ事がある。
戦いにくいけど、一匹、一匹の強さはそこまでじゃない……でも、今の私との相性は悪いかも…………
ちらりとトーラスの方を見やれば、すでに数匹を切り伏せているのが目に入る。その様子をみるに、やはり打撃よりも斬撃の方が効果的なのかもしれない。
「……出し惜しみしてる場合じゃないか」
まだ目的地の道中……魔力を温存してしかるべきだと思っていたが、そうも言ってられない状況を前に、私は腰の銃杖へと手を伸ばした。
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