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騎士団のエースに捕縛された盗賊の頭領ですが尋問も拷問もなく囲われて溺愛されています。
十四話
しおりを挟むこういうのは時間との勝負だからな。頂くモン頂いて早く逃げよう。
「ルーファス!」
割れた窓の破片を斧で払い除け、部屋に踏み込むと目的の男はソファに座ってぼんやりとしていた。こちらの呼びかけに応える様子はない。
「ルーファス?」
「ルーファス様?」
後ろからついてきたジョシュアが慌てて駆け寄っているが、やはりルーファスに反応はなかった。ぼんやりと空中を見つめているだけで、一言も発さない。
「これは……」
「なんだ?麻薬か?」
「滅多なことを言わないでください。これは闇の精神魔法だと思います。……この部屋には香が焚かれているようですし……」
「ん、じゃあまあ正気付かせるのは後だな!後!」
「は?え、ザザ様?」
「オラ行くぞルーファス!」
バタバタとこの部屋に近づいてくる足音がしていた。適当にぶん投げた家具や脚で移動させたソファを扉の前に置いて開かないようにすると、ガチャガチャとドアノブを回す耳障りな音が響く。
俺はすぐにルーファスを肩に担ぎ上げると、窓から伸びる大木の坂を駆け下りた。外から守衛が犬を連れてきているのが気配でわかり、俺は片手でルーファスを抱えたまま斧を振り上げる。
「オオオオオォォ!!!」
ガァン、と雄叫びと共に叩き下ろした斧は大木を真っ二つにした。もう既に半分折れてたんだが、それに気付かない守衛達はこちらを見つめたまま足を止めた。犬は俺の威嚇の声に気圧されたのか、尻尾を股に挟んで身体を伏せてしまう。
「ハッ、腰抜け共が!」
せいぜい悪役ぽく見えるように笑い声を上げて、俺は勢いのまま走り出した。馬の居る場所まではそう遠くはない。守衛達が正気づく頃には馬上にいられるだろう。
「ザザ様、今のは」
「賊に手も足も出ずお宝を奪われたとなりゃあ、あいつらはメンツ丸つぶれだ。賭けてもいいが、絶対公表はしねえぞ」
「……ルーファス様があの屋敷にいると見せかけたまま、捜索するという事ですね」
「おう。流石に王都の戦力で誘拐犯の包囲網でも作られたら逃げ切れないが、それは絶対にない。……俺は貴族の事はよく知らねーけど、今の騎士団ってのは貴族達と仲悪いだろ」
「身も蓋もない言い方ですが、確かにそうです」
「じゃあ自分の落ち度で尻拭いなんてさせられねぇな。貴族ってのは本当にメンツばっかで、駄目なやつらだ」
水を飲んで休憩していた馬に飛び乗り、未だにぼんやりしたルーファスを前に抱いて手綱を握る。夜明けが近いが、この微妙な薄暗闇が一番人の目を欺くことができた。夕闇と同じ現象だ。
「ジョシュア、道が判らん。先導を頼む」
「お任せ下さい」
恭しく胸に手をあて、礼をしたジョシュアは馬の手綱を握って王都への道を走り出した。その後をぴったりとついて馬を走らせながら、腕の中の微動だにしないルーファスを覗き込む。
「……」
「人形みてぇになっちまってなあ……」
元々整った顔をしていると思っていたが、表情がないだけで印象がだいぶ変わる。眠っている時とはまた違って、酷く触れ難い美しさだ。これでは、見目の良いモノを飾っておきたい貴族のご令嬢には大人気だろう。
ルーファスの瞳は濃い緑色で、白銀の髪と相まって少しばかり冷たく見える。白磁の肌はきめ細かく、形の良い鼻やくっきりとしたアーモンド型の目元、誰もが理想とするような整い方だ。
ヒトってのは、たぶん完璧なモノに畏れを抱くのかも知れないな。ふと、そんなことを思う。ルーファスは子供の頃、そういう偏見とかで苦労しなかっただろうか。まあ、今はこんなに人気者だから、心配はないか。人気者過ぎて誘拐される始末だが。
そもそも、闇魔法ってのがどういうものなのか、俺は良く知らない。こういう風に他人の意志を奪うことが、世の中的にはどうなのかとか。魔法ってものが身近でないから判らなかった。
「犯罪ですよ。これは完全に犯罪です。たとえ宰相の娘であろうと、裁判では負けます」
「なんかこう、金握らせて裁判が覆されるとかねーのか」
「ルーファス様は貴族ですよ。相手が平民ならいざ知らず、ルーファス様相手にそれはあり得ません。騎士団からも抗議が来ますし、市民の人気もとても高いお方ですから」
「……ん、まあそうだなー。で、ジョシュア。このまま家に帰っても、なんかこう理由つけてあの宰相の娘とかいうのの手が伸びてくる気がするんだわ。このまま騎士団に行かねーか」
「青風騎士団ですか」
「治癒とか上手いヤツいないの?闇魔法ってのはちゃっちゃと消せねーの?」
「……ルーファス様の光魔法は類い稀なる才能ですので……ルーファス様以上の使い手はおりませんよ」
あ、思ったよりルーファス主義だこの執事。
俺は首を竦めて言葉を濁したが、ジョシュアも行き先は騎士団のほうがいいと判断したのだろう。朝焼けが山の縁を照らす道を、俺達は最短ルートで駆け抜けた。
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