落ちこぼれ精霊術士はドSなお師匠様に執着されてたみたいです

天城

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二章 王都と精霊術士

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 先頭にいた精霊術士が、一瞬だけ俺の方をチラッと振り返った。

 こちらを気にしていたようだけど、師匠が「俺はここだ」と声を出すとそっちに視線を引き寄せられてしまう。そして彼はもう、俺の方を振り返ることはなかった。
 彼以外に俺へ注意を払う精霊術士は一人もいない。……なんとなく、これは異常だと思った。
 たぶん師匠は、家を出てきたときここら一帯に目をくらましのような魔法を使ったんだと思う。魔力を封じられてもしばらくは保つような持続系のやつだ。
 そうじゃなければ、あれだけの数いる精霊術士たちがほとんど俺と師匠の家に注意を払わなかったなんて、あり得ない。師匠の力が欲しいなら、家を荒らしたり身内を人質にとったりとか、やり方があるよね。

「……俺がフィルに『魔術師』のことを漏らしたから? 師匠ってお尋ね者だったりするの?」

 日が暮れて、いつの間にか森の中は真っ暗になっていた。
 師匠の灯りがないと森の中は一層寒々しくて薄暗い。俺は急いで家の中に入り、ランタンに火を入れた。そして窓の戸締まりをし、暖炉の火を落としてからベッドの下に呼びかける。

「……エレン。エレン、いる?」

『あら、ルイス。まだ日が暮れたばかりなのに珍しいわね。今日の夕食は時間のかかるものなの?』

 ぴょこっとベッドの下からエレンが顔を出した。師匠とあんまり仲が良くないから、俺が外にいるうちはいつもここに隠れている。たまにシレッと散歩に出ているときもあるけど、基本的には俺の側を離れたことはなかった。

『私、今日はちゃんと大人しくしていたわよ』

「隠れててくれてよかったよ。大変なんだよエレン!」

『あら、あら、なあに?』

 鼻先をヒクヒクさせて白いヒゲを動かし、エレンが首を傾げた。
 師匠を追いかけるなら、王都までは相当な遠出になるからエレンも連れて行かないといけない。昔からエレンはかくれんぼが得意だから道中も問題ない。……そもそもエレンは、孤児院にいるときから『俺にしか見えない不思議な猫』だった。

 師匠は難なく見破ったけど、精霊っていうのはそういう特殊な存在なんだって。
 この猫が精霊だとわかったのは師匠が見つけてくれたからで、それまで俺はエレンを頭の中で作り出した幻の友達だと思っていた。
 ここにいるよって言っても、孤児院内の誰一人信じてくれなかった。頭がおかしいのかと言われたこともあったっけ。師匠が見えるって言ってくれたときは嬉しかったな。
 エレンは土や水などの一般的な精霊とは種類が違うらしく、師匠はしつこく「あまり外に出すと他の精霊に影響がある」と言っていた。だから、家の中でベッドの下に隠れてもらっている。
 俺と話すのは、起きたばかりの朝と、寝る前のわずかな時間だけ。それでもエレンは文句も言わず、いつも俺と一緒にいてくれた。

 今も何の精霊だか自分では言わないので、謎の存在のままだけど、俺の一番の友達だ。毎日精霊術を失敗したことや、今日あったこと、嬉しかったことも悩みも全部エレンに話してしている。

 ……そう、つまり俺が泣きつく相手はもうエレンしかいないんだよ! 聞いてよエレン!

「師匠がさらわれたんだよ!」

『はあ? あのワガママ俺様男が? いい気味じゃないの』

「王都まで連れて行かれちゃうんだって。だから追いかけないと!」

『ルイスにどうにかできる相手なの? あのゲニウスが大人しくついて行ったんでしょ』

「……それは」

 確かに人数が多くて、俺ではとても敵わなそうな相手だ。精霊術士はあまり肉体を鍛える必要がないはずなのに、彼らは剣士みたいに屈強な身体をしていた。だから師匠も大人しくしてろって言ったんだろう。
 暴れても意味がないと思ったから師匠は自ら捕まったのだろうか? 

「でも、助けられる機会がどこかにあるかも。ついて行きたいんだよ。手伝って」

『仕方ないわね……』

 エレンは黒い尻尾をブンブンと振り回すと、俺の手首を叩いた。ふわふわ過ぎて全く痛くないけど、叩かれた場所から俺の身体がスウッと透き通っていくのが見える。
 ピョンと跳躍したエレンが肩に乗ってきたのと同時に、俺の身体は窓にも映らなくなった。それを確かめてから、俺は薬草採取や村に出かけるときに使うバッグを引っ掴む。この鞄には少しのお金と携帯食料と、便利道具が詰まっていた。数日の野宿でも保つだろう。
 小屋の入り口の扉にもしっかり鍵をかけ、カンテラを持って俺は外に飛び出した。そしてさっきの一団を追いかける。この森で人の歩ける道は全て俺が通したものだから当然知り尽くしてるし、森を出る前ならきっと追いつける。

 近道をいくつも駆使して、俺はやっと師匠の姿を見つけた。こんな夜の暗闇の中でも師匠の金髪は月の光に煌めいて見えるから、探しやすい。


「おい、何とか言ったらどうなんだ!」




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