12 / 19
二章 王都と精霊術士
2
しおりを挟む先頭にいた精霊術士が、一瞬だけ俺の方をチラッと振り返った。
こちらを気にしていたようだけど、師匠が「俺はここだ」と声を出すとそっちに視線を引き寄せられてしまう。そして彼はもう、俺の方を振り返ることはなかった。
彼以外に俺へ注意を払う精霊術士は一人もいない。……なんとなく、これは異常だと思った。
たぶん師匠は、家を出てきたときここら一帯に目をくらましのような魔法を使ったんだと思う。魔力を封じられてもしばらくは保つような持続系のやつだ。
そうじゃなければ、あれだけの数いる精霊術士たちがほとんど俺と師匠の家に注意を払わなかったなんて、あり得ない。師匠の力が欲しいなら、家を荒らしたり身内を人質にとったりとか、やり方があるよね。
「……俺がフィルに『魔術師』のことを漏らしたから? 師匠ってお尋ね者だったりするの?」
日が暮れて、いつの間にか森の中は真っ暗になっていた。
師匠の灯りがないと森の中は一層寒々しくて薄暗い。俺は急いで家の中に入り、ランタンに火を入れた。そして窓の戸締まりをし、暖炉の火を落としてからベッドの下に呼びかける。
「……エレン。エレン、いる?」
『あら、ルイス。まだ日が暮れたばかりなのに珍しいわね。今日の夕食は時間のかかるものなの?』
ぴょこっとベッドの下からエレンが顔を出した。師匠とあんまり仲が良くないから、俺が外にいるうちはいつもここに隠れている。たまにシレッと散歩に出ているときもあるけど、基本的には俺の側を離れたことはなかった。
『私、今日はちゃんと大人しくしていたわよ』
「隠れててくれてよかったよ。大変なんだよエレン!」
『あら、あら、なあに?』
鼻先をヒクヒクさせて白いヒゲを動かし、エレンが首を傾げた。
師匠を追いかけるなら、王都までは相当な遠出になるからエレンも連れて行かないといけない。昔からエレンはかくれんぼが得意だから道中も問題ない。……そもそもエレンは、孤児院にいるときから『俺にしか見えない不思議な猫』だった。
師匠は難なく見破ったけど、精霊っていうのはそういう特殊な存在なんだって。
この猫が精霊だとわかったのは師匠が見つけてくれたからで、それまで俺はエレンを頭の中で作り出した幻の友達だと思っていた。
ここにいるよって言っても、孤児院内の誰一人信じてくれなかった。頭がおかしいのかと言われたこともあったっけ。師匠が見えるって言ってくれたときは嬉しかったな。
エレンは土や水などの一般的な精霊とは種類が違うらしく、師匠はしつこく「あまり外に出すと他の精霊に影響がある」と言っていた。だから、家の中でベッドの下に隠れてもらっている。
俺と話すのは、起きたばかりの朝と、寝る前のわずかな時間だけ。それでもエレンは文句も言わず、いつも俺と一緒にいてくれた。
今も何の精霊だか自分では言わないので、謎の存在のままだけど、俺の一番の友達だ。毎日精霊術を失敗したことや、今日あったこと、嬉しかったことも悩みも全部エレンに話してしている。
……そう、つまり俺が泣きつく相手はもうエレンしかいないんだよ! 聞いてよエレン!
「師匠がさらわれたんだよ!」
『はあ? あのワガママ俺様男が? いい気味じゃないの』
「王都まで連れて行かれちゃうんだって。だから追いかけないと!」
『ルイスにどうにかできる相手なの? あのゲニウスが大人しくついて行ったんでしょ』
「……それは」
確かに人数が多くて、俺ではとても敵わなそうな相手だ。精霊術士はあまり肉体を鍛える必要がないはずなのに、彼らは剣士みたいに屈強な身体をしていた。だから師匠も大人しくしてろって言ったんだろう。
暴れても意味がないと思ったから師匠は自ら捕まったのだろうか?
「でも、助けられる機会がどこかにあるかも。ついて行きたいんだよ。手伝って」
『仕方ないわね……』
エレンは黒い尻尾をブンブンと振り回すと、俺の手首を叩いた。ふわふわ過ぎて全く痛くないけど、叩かれた場所から俺の身体がスウッと透き通っていくのが見える。
ピョンと跳躍したエレンが肩に乗ってきたのと同時に、俺の身体は窓にも映らなくなった。それを確かめてから、俺は薬草採取や村に出かけるときに使うバッグを引っ掴む。この鞄には少しのお金と携帯食料と、便利道具が詰まっていた。数日の野宿でも保つだろう。
小屋の入り口の扉にもしっかり鍵をかけ、カンテラを持って俺は外に飛び出した。そしてさっきの一団を追いかける。この森で人の歩ける道は全て俺が通したものだから当然知り尽くしてるし、森を出る前ならきっと追いつける。
近道をいくつも駆使して、俺はやっと師匠の姿を見つけた。こんな夜の暗闇の中でも師匠の金髪は月の光に煌めいて見えるから、探しやすい。
「おい、何とか言ったらどうなんだ!」
2
あなたにおすすめの小説
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
英雄の溺愛と執着
AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。
転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。
付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。
あの時までは‥。
主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。
そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。
そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる