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二章 王都と精霊術士
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しおりを挟む「いや、殴られたら普通に痛いと思うよ」
『ルイス~。貴方ね、他人の痛みを自分のもののように感じるのはおやめなさい。そんなんじゃ身体がいくつあっても足りないわ。他人は他人、貴方は貴方よ』
「そんなんじゃないよ。俺だって師匠じゃなければこんな風には……」
俺は俯いたまま、ボソボソと言い返した。エレンの奇跡で姿も音も消えているから小声じゃなくてもいいんだけど、気分的にそうなってしまう。
『信用できないわ~。現に知らない商人の子を助けたそうじゃない。……はあ、まったく。今はゲニウス以外とほとんど関わってないのに、どうしてなのかしらね』
「……エレン?」
エレンは黒い前足を伸ばし、ピンク色の肉球で俺の顎の下をぷにっと押した。くすぐったくて「なーに?」と苦笑すると、長い尻尾がゆらゆらと揺れる。
『元気がないわ。私の可愛いルイスがしょぼくれてるなんて一大事よ』
「そりゃあ、いつもみたいに脳天気ではいられないよ……」
王都を守る結界は師匠の手によるものだとあの精霊術士が言っていた。
なんで田舎に引きこもって王都と変わりなさそうな師匠が? と思ったけど、それが取引だったというのまでわかってしまった。
親友の死体の変換を願ったって。その人は、師匠にとって大事な人だったんだろうか。
三百年も大規模な結界に魔力を吸い取られ続けてもいいくらい?
毎日夕方になると顔色が悪かったのは、魔力を使い過ぎていたからなのか。それだけの価値がある取引だと思ったから、師匠はそうしたんだよね。
――モヤモヤする。すごくイヤな気分だ。
師匠が誰かのために身を削った。それは普通なら献身的だとか優しいだとかえらいなって、そういう風に思うはずだ。だけど俺が思ったのは『どうして』だった。
その人は師匠にとってどんな存在だったの?
もう死んじゃったのにその死体を奪われたくないほど大切だったの?
呼ばれたらすぐに王都へ向かうほどその取引は大事なものなの?
浮かんでは消える俺の中のモヤモヤは言語化してみるとまるで子供のワガママみたいだった。つい、苦笑が漏れてしまう。
「――俺、思ったより師匠のこと知らないんだな」
ぽつりとそう呟くと、腕の中のエレンは白い髭をヒクヒクと揺らした。そして冷たい鼻を俺の頬へぶつけてくる。
『あら、当たり前じゃない。貴方は十八になったばかり、あっちは何百歳だと思ってるの。今度から老人扱いしてやろうかしら、このクソジジイ魔術師って……』
「年齢関係あるかなあ? 師匠はなんにも話してくれないし」
『時間というのは無情なものよ。同じときを生きてないなら、理解するのは難しいわ』
「……それは、そうだけど」
そうエレンに応えてから、俺は隊列に置いて行かれないよう黙々と歩き続けた。
俺と師匠の間には深くて広い谷があるのはわかってた。でもそれを改めて突きつけられると思ったより辛い。
……はあ、と小さくため息をつきながら俺は重い足を前に進めた。
‡
朝日が昇るまで黙々と歩き、気がついたら大きな馬車が何台も止まっている村にたどり着いた。車輪があって見た目は馬車なのに、引くための馬がいない不思議な乗り物だ。
「全員、乗り込め! 遅れれば置いていくぞ!」
あの精霊術士の親玉みたいな男が叫んだ。彼らは師匠を一番前の大きな馬車に押し込み、他の精霊術士たちは数人に別れて小さなに馬車にどんどん乗り込んでいく。
俺はエレンを抱いたまま、こっそりとその中の一つに忍び込んだ。これほどの数の精霊術士が集まっているなら協力して発動する術はかなり大規模なものなんだろう。
本で読んだ知識はあっても、俺は本物の精霊術士を見るのが初めてだった。どんな奇跡を行うんだろうと少しの期待と好奇心が生まれてしまう。
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