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二章 王都と精霊術士
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「この馬車……シルフに頼んで速度を上げて走るのかな?」
『いいえ、今感じるのはサラマンダーの気配よ』
「え、火の――?」
側にいた若い精霊術士が、出発の号令と共に手すりみたいな物にしっかり掴まった。イヤな予感がしたので俺も同じようにしておく。何が起こるんだろう?
コソコソと会話している俺とエレンの様子は、周囲にいる他の精霊術士たちには関知できていないようだ。姿は透明になっているし、会話さえも闇の中に吸い込まれ消えてしまう仕組みだった。
エレンのこれはそういう『奇跡』で、これが結構特殊な能力だというのは俺も薄々わかっている。原理をエレン本人に聞いてみたら、『光の中にいないから、誰も認知できない』ってことだと言うんだけど……。いくらかみ砕いて話してもらっても難しくて、理解するのは諦めこういうものだと思うことにした。
師匠がいつも通りだったら簡単に見抜かれてるはずの奇跡なんだ。でもあの首の魔道具が効いてるからか全然気づいていないようだった。
「衝撃に備えよ! 行け!」
ドォン! と激しい爆発音が響いた。同時に複数の精霊の気配がして、俺たちの乗っている乗り物が凄い勢いで揺れる。
馬車だと思っていたものは、その衝撃で空高く打ち上げられたようだ。「ヒッ」と小さく叫んで俺は手すりにしがみついたまま、腕の中にエレンを抱き締めた。
謎の乗り物はシルフの風でフワッと浮き、そのまま上空で横滑りするように動き出した。風が乗り物全体を包んでいる気配がある。
後部にある窓のような隙間から外を見ると、ちょうど朝日が東の空から昇ってくるところだった。
『火の精霊だけじゃあんな爆発はできないわね。何かしら』
「水が熱せられて爆発した感じがあったから、ウンディーネも手を貸してたね。それと、この横に滑るように飛んでいるのは風で、微妙に上下しながらだけど最低限の力で横に滑っていく。……なるほど、風だけでこれだけの重みの物を上へ押し上げるのは大変だから、最初はサラマンダーとウンディーネを使った?」
『最初の一手だけは複合属性の精霊術にしたってことよね。何人もの精霊術士が協力する環境だからできることだわ。ふうん、面白いこと考えるのね。発想だけは評価してあげましょう。乗り心地はすこぶる悪いけど!』
エレンは興味深そうにしながら黒い尻尾を揺らした。師匠が乗り込んだ乗り物とは距離が離れているので、途中で別れてしまわないかとハラハラしながら様子を窺う。
――それから、数時間は乗っていただろうか。
空中飛行していた乗り物が次々に降下を始めた。風の精霊に支えられゆっくりと降りていった先は、大きな門の前だ。
そこには馬がたくさん繋がれていて、ここからは馬を繋いでちゃんとした『馬車』になるみたい。俺の乗っている乗り物も車輪を動かして、門の前へと並んだ。
「あの門の紋章……もう王都? すごく早いんだね」
俺たちのいた森から王都までは、通常は馬車で一週間以上の長旅になると聞いた。それをこんなに数時間で飛んでしまうなんて信じられないことだった。
馬車は密閉状態ではなく後ろと前に小窓がある。エレンと一緒にそこから外を観察していると、降りた場所は精霊術士たちが使う専用の入り口だったようで、見張りの兵士は車内の確認もせず通していた。
王都に入った馬車は舗装された道をガラガラと音を立てて走り、すぐに大きな通りへと出る。
「う、わぁ……!」
そこでは、目が回るほど大勢の人々が行き来していた。思わず感嘆の声が漏れる。
テントを張って野菜や果物を売る露店は、近くの村でも見たことがあった。だけど王都の露店は、その規模が全然違っている。一軒一軒が独立した形ではなく、繋がった大きな骨組みの上に布を張り、店を構えていた。店員も数人が呼び込みをしていて、大勢の客を相手にしている。
店は露店だけでなく、石造りの建物に看板を出している所もあった。道は石畳で覆われ、土が露出している道はほとんどない。
栄えている街というのは、こんなに賑わっているものなんだ。
行き交う人の流れは春の川魚の群れのように密集している。そしてそれぞれが別のことを口々に叫び、笑い、話しているので耳が痛くなりそうだった。
静かな森育ちの俺は、見たこともない光景にただひたすら圧倒される。
『ルイス。ルイス、しっかりして。このままだと一緒に閉じ込められちゃいそうよ』
ピンク色の肉球がギュッと俺の頬を押した。
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