嫁き遅れた逞しいオメガ、龍人アルファに娶られる

天城

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4話 異変

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「スイ兄貴、ロウ将軍とは白い結婚で離縁されたことにしよう」
「……は?」
「指一本触れられなかったんだから白い結婚でいいだろう。だけど俺は屋敷に入れて貰えなかったから、実質離婚。相続もない理由がそれで成立する。……で、俺は明日から南の崔州(サイシュウ)へ行ってくるよ」
「待て、待て待て、何を言ってるのかわからんぞアーユエ」
「そうですわ崔州なんて遠いところ!」

 慌てた表情でスイ兄貴とランイェンがこちらに詰め寄ってくる。にっこり笑った俺は「名案だろう?」とでも言うように人差し指を立ててみせた。

「離縁されたオメガが田舎に籠もって心の傷を癒す、なんてよくある話だ。ついでに開墾の進み具合を見て手紙を書くよ。地ならしとかは俺も手伝ってくるし。頑張れば次の作付けには間に合うんじゃないか。あ、都の祭りの時期は何日か戻ってきた方がいい?」
「イヤですお兄様! ユエ兄様がいなくなるなんて許しません!」

 パッとスイ兄貴の腕から飛び降りたランイェンが大きな声で叫んだ。
 不意にこちらを睨み上げる瞳がギラギラと獣のように光り、俺を映した。その異様な気迫に俺もスイ兄貴も一瞬口を噤む。

「……ッ……?」

 ――刹那、ドクンと心臓が激しく打って俺はその場に崩れ落ちた。ドッ、ドッ、と早い心音が異常な速度で身体に響いている。耳元まで激しい鼓動がせり上がり、キーンと甲高い耳鳴りがしていた。

「誰か! 手を貸してくれ!」

 異変に気付いたスイ兄貴が大声で使用人を呼んだ。そしてすぐ、目の前のランイェンを腕に抱き込み首筋を押さえて気を失わせる。そのまま彼女を抱き上げたスイ兄貴は部屋の扉を開け放った。

「シャオユエ! アルファの私たちはいまお前に近寄れない! 人を呼ぶからすぐに部屋で休め!」

 血走った目をしながら、スイ兄貴はそう叫んだ。口の中を噛み切ったのか唇から血を滴らせている。兄貴はアルファだ。オメガの発するフェロモンに抗うにはかなりの精神力を必要とする。ということは、俺はいまどうなってるんだ?

「ユエ様、ユエ様をどうかあちらの塗籠へ! 皆様お早く!」

 使用人たちがバタバタと集まってきて俺を引きずり、移動させはじめた。指揮をとっているのは古参の侍女長だ。俺は男衆に持ち上げられ《塗籠》と呼ばれる窓のない特別な寝室に運ばれた。真新しい寝具に包まれ着ていた上衣を脱がされる。

「ここは奥方様が使われていたお部屋でございます。どうか明日までは、こちらでご辛抱下さいませ」
「……これ、は……薬はないのか」

「定期的な発情期は薬で抑えることができます。ですが、アルファによって引き起こされた発情には薬の効きが悪いのです。ランイェン様もあの状態では死に物狂いでユエ様を探されるでしょう。塗籠の戸には錠をかけさせて頂きます。どうか、どうかご辛抱くださいませ」

 平伏して額ずいた侍女長と使用人たちの姿が、重く分厚い扉の向こうに消える。部屋の中は真っ暗だった。
 しかしジッと息を潜めていれば暗闇にだんだんと目が慣れてくる。部屋の隅に食べ物と水、それに蝋燭が用意されていた。ランイェンから離れたおかげか息苦しいのと動悸はだいぶ収まっている。
 でも身体の中にはまだ熱が荒れ狂っていてどうにもならない。上衣を脱がされていて良かった。着込んでいる服が暑くて堪らない。

「ッ……は、ぁっ……クソ……」

 いつも薬で散らしていた発情期をそのまま感じるのはいつぶりだろう。それこそ十代の頃に数度あったかどうかだ。喉が渇くような、身体中を撫で回されているような、まぼろしの感覚がずっと俺を苛んでいる。
 帯と紐を解き、服を引きずりおろして下肢を露わにすると、俺の性器は雫を垂らし勃起していた。その奥のオメガの穴もひどく濡れている。部屋の隅にはシーツも手ぬぐいもたくさん置かれているので、ここはそういうための部屋なのだとわかった。
 オメガだった母が使っていたと、そう侍女長は言っていたか。なぜ? 父にうなじを噛まれたのならそのフェロモンは外部に漏れないはず。発情期も番と過ごせばいい。まさか父から隠されていたなんてことはないだろう……?

「どういう、ことだ……」

 発情状態が続いているせいで思考がまとまらない。考えるそばから散っていった。仕方なく自分で性器を擦り上げ始めるが、物足りない刺激で無意識に膝を擦り合わせていた。性器から濡れた音が立ち、ビクビクと身体が震える。キュウッと勝手に収縮する穴からとぷりと液体の溢れる感じがした。

「っふ、ぁ、……っんん、……」

 一度も触れたことのない場所に手が伸びる。そっと濡れた穴の入口を撫で、指の腹で押してみるとすぐにズブズブと埋まりそうになった。もどかしい感覚に熱いため息が漏れて身体を捩った時、にわかに部屋の外が騒がしくなった。


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