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一章
魔王と闇魔石・3
またやってしまった。
だから部屋の中にルカ以外の魔族を入れるのは嫌だったのに。
護衛がいないなんてあり得ないと押し切られてしまったのだ。
次があったら絶対に断ろうと思った。
びっくりしている商人に『なんでもないよ』と誤魔化しておいて、魔王は間繋ぎに話題を提供した。
「闇魔石は、やはり冒険者の使う小さい物が需要が高いのだろうか……?」
「いえいえ魔王様。需要が高いのはテリツヤの良いアクセサリー用の物です。良いモノがあれば貴族達はいくらかけてでも手に入れようとしますからねぇ……ああ、このくらいの玉が人気ですよ。ペンダントやブローチにぴったりだ」
「ふぅん。……ルカ、あのサイズの核はまだあった?」
「は、……ございますが」
「そう、よかった。――十日後くらいにまた買取に来てくれないかな。用意しておくよ」
是非!是非!!と目を輝かせて魔王と握手を交わした人間は、幸せそうに顔を綻ばせて馬車に乗っていった。
魔王が特別に用意した、空も走れる馬車だ。
それを使わなければ、今は魔族の住む土地に近づくことすら出来ないようになっている。
「……出回り過ぎても価値を落しますよ」
「うん、ほどほどにね。わかってるよ」
魔王には、自由に使える金がない。
衣食住は約束されているし、武器は宝物庫から選び放題だが、それらを売って金にするとかは不可能だ。
何か欲しい物があっても、魔王には私財がない。
力はあっても権力、財力を持たせないようにと過去誰かが画策したのかもしれない。
しかし想定外のことというのは、いつでも起きる。
この場合、魔王から力を削いだ過去の者の想定よりはるかに今代魔王の魔力が膨大になってしまったということだ。もう誰にも魔王は止められない。
魔王は即位したその日に、魔族の住む土地をその豊富な魔力で地下に移動させてしまった。事前の承諾もなしに突然に、である。
人間達も魔族達も、ドオンッ、という大きな音と共に空が一瞬暗くなったくらいにしか思わなかった。実はその一瞬に、魔族の土地があった場所には深く広い大穴が空き、数キロ以上地下に魔族の住み処は移動してしまった。
ゆっくり沈下したのではなく、転移のように土地が移動した。
そのため地面に穴があいた衝撃以外はなにもなく、世界は穏やかなままだった。
魔族達は家を出て空を見上げると、なんだか太陽と空の色が違うな?と思う程度だった。
魔王の力で作り出された太陽と月は、両方ともゆっくりと満ち欠けする。
その太陽のおかげで作物は育つし、生態系がかわったわけでもなく動植物は変わりなく生きている。ただ地下深くに落ちていってしまったため、人間は戦うべき魔族という仮想敵を失ったのだ。
「ねえねえ、ルカ。カーティスは学校に通うべきだよね?人間のがいいかな、魔族のがいいかな?」
「はあ、そのための金ですか。それくらいウチが用意しますけど。……学校は、行くべきでしょうね。ただ人間の方に行くのは物理的に無理です。あっちに家を構えなければ不可能だ」
「そっかあ……じゃあ魔族の学校だねぇ」
それって苛められたりしないだろうか。だって魔族の中にひとりぽつんと人間がいるわけでしょう?
ふと不安になった魔王がチラッとルカを見ると、またもや眉間に深い皺が刻まれていた。
「今現在、リヴォフ家の養子を堂々と苛める輩がいるとは思えませんが」
「えっ、かっこいい。リヴォフ伯爵すごい」
「……」
リヴォフ伯爵家が力をつけはじめたのは、ルカが当主となってからだ。
つまり魔王の側近となった後からである。
魔族の誰もが畏れて近寄れない魔王様に、唯一望まれ側近となったルカ・リヴォフ。今では魔王の耳になにか入れたければルカを通すしかないと言われている。
つまりリヴォフ伯爵家が力をつけたのは、魔王の力も同然なのだが……。
「……それで?話が途中でしたね」
「えっ」
「前世では、どうやって資金集めをしていたんですか。魔王様?」
艶然と微笑むルカを前に、魔王はあうあうと口を開いて閉じて、そして諦めたように肩を落した。
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