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一章
魔王と幼い勇者・3
ソワッソワと動き回る魔王にルカの冷たい声で制止がかかる。
一度立ち上がった魔王だったが、促されてソファにまた腰掛けた。
そのうちにテーブルには色とりどりの菓子が運ばれ、茶器が用意され、すっかり簡単な茶会の用意が整ってしまった。
「失礼します」
騎士に伴われて、カーティスが現われた。慌てて立ち上がろうとした魔王は、テーブルに足をぶつけてソファに逆戻りした。
……か、かっこわるい。いつものルカの言葉じゃないけど、これじゃあ威厳もなにもあったもんじゃない。
魔王はずーんと重たい気持ちでカーティスを見遣った。
入ってきてすぐにルカが彼に近寄り、促すように魔王の前に連れてきたので、『あれ、もしかしてさっきの見られてなかったかな』と淡い期待をした。
でもチラッと心配そうに魔王の膝を見たので完全にアウトだった。
「リヴォフ伯爵家、カーティスと申します。魔王様、本日は突然のお願いにも関わらずお目通りが叶い有り難く存じます」
このこ、本当に5歳かな?え、誰が教えたの?ルカ?5歳児って教えたからってこんな挨拶できるもの?
魔王はびっくりして一瞬言葉を失ってしまったが、カーティスはその沈黙を別の意味にとったようだった。若草色の瞳が窺うように魔王に向けられ、少し怯えている風にも見える。
慌てて立ち上がった魔王は、今度は足をぶつけずに脇へ出てカーティスに歩み寄った。
長身の魔王に比べると、5歳のカーティスは膝丈くらいだ。カーティス、と呼びかけようとして『カ――』まで言って魔王はハッとした。
『俺の名前を呼ぶな!!』
激しい怒りに満ちたカーティスの声が聞こえた気がした。
それは前世の話だったが、あの時名前を呼ぶなと怒られたのは魔王には結構堪えた。
今の天使のような幼いカーティスが同じように怒ったりはしないだろうけれど、少しだけ及び腰になってしまった。
「カ――わいい、ね、ゆうしゃ?」
……ダメだ誤魔化しきれていない。
しかもちょっと噛んだ。テーブルに膝を強打したのも、挨拶で噛んでるのも、もう取り返しがつかなかった。
ルカもいつもみたいに『威厳がない!!』と怒るだろう。どうしてこう決めるべき所でばかり上手くいかないのだろうか。
カーティスと視線を合わせるためしゃがみ込んだ魔王は、髪が床に広がるのも気にせず若草色の瞳を覗き込んだ。
かわいいね、と言ったのは本心だった。
だけど何故か疑問形になってしまった。それにつられて無意識に首を傾げてしまっているため、勇者に問いかけたみたいだ。
「魔王様のほうが可愛いです」
「えっ、えっと、ありがとう、勇者」
「カーティスです、魔王様。……恐れながら、魔王様のお名前を伺ってもよろしいですか?」
なんとか軌道修正できたのかなと思ったところで、カーティスから追撃がやってきた。
うっ、と言葉に詰まった魔王は咄嗟に『アレクセイ』と名乗るかどうか迷った。
でも、ここは正直に話しておこうと決めた。もうカーティスに嘘をつきたくない。
「ごめんね、魔王には名前がないんだよ」
「そうなんですか。では、なんとお呼びすれば」
「……魔王様でいいよ」
そうなんですか、とまた気落ちしたように頷くカーティスを見てずきりと胸が痛んだ。
もう好きな名前で呼んでいいよ!と言いたくなったが横でルカが目を光らせているためそんな提案もできない。
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