最強魔王の死に戻り100回目!〜そろそろ生きるの諦めていいですか?〜

天城

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番外編

苦労性とか世話焼きとか風評被害にも程がある・2

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 竜はそれでなくとも頭のいい生き物だ。罠などは見破ってしまうことがある。
 ミハイルもそれを知っているのか、何度か振り返って応戦しつつ、森の入口へと入っていった。

「リヴォフ卿!!」

 ミハイルの合図と共に、ルカは指に纏わせていた糸を一気に引き絞った。

 ギヤャァァゥゥゥゥウウウゥゥ

 地面を揺るがすような悲鳴を上げて、数十体の竜が絶命した。蜘蛛の巣のように張り巡らされていた罠に、その糸を思い切り引かれたためだ。
 ごとん、ごとん、といくつも翼竜の頭が地面に転がる。
 
 ――こんなに戦いやすい戦闘は初めてだ。

 ルカは、この武器のこともあり正直誰かと連携して戦うという意識があまりなかった。
 剣も扱えるため協力することは不可能ではないのだが、愛用の武器では、味方の首を落しかねない。
 それをミハイルは糸の場所が見えているかのようにすり抜けて……。

「ルカ様!!」

 呼ばれてハッと我に返ったルカは、顔を上げた。
 先程の群れの中では奥にいた一番大きな翼竜が、こちらに突進してきている。

 糸を緩めてもう一度引くには間に合わない。
 ルカは咄嗟に腰の剣に手を伸ばしたが、横から疾風のように槍が飛んできて翼竜の顎に突き刺さった。

「!!」

 目の前まできて、ようやくその翼竜の大きさが他の倍以上ある事に気がついた。
 ルカはすぐに糸をたぐり寄せ、ふわりと輪にして竜に被せてしまうと、キュィ、と小さな音を立てて引く。

 すぱっ、と恐ろしいほどの切れ味で竜の首が飛んだ。
 ミハイルを見るとホッとしたような表情でこちらに走り寄ってくる。
 流石はあの白銀狼を自分で討伐してきただけある。反射神経も動体視力も、視野の広さも全て高レベルだ。

 最後の一体を含めると、狩りすぎなくらいだった。これで打ち止めとして、山のように積み上げた翼竜の頭をまとめて一緒に転移する。
 

「さすが、リヴォフ卿はお強い。これほど共闘し易い相手はいないと思うほどでした」

 魔王宮に帰るなり、ミハイルは爽やかな笑み浮かべて奇妙な事を言っている。
 それは先程ルカが感じた事と同じだったが、まさか、心にもないことを、とルカは目を眇めた。

 ミハイルの装備はところどころ竜の血で汚れ、金の髪は汗で少し湿っている。戦闘後で興奮していたのか頬も紅潮して見えた。
 これは身繕いをさせる必要があるなとルカは判断した。

 ルカは側近として魔王宮に部屋を貰っているが、ミハイルはまだ日が浅いので自室というのを用意されていなかった。
 普段の身繕いや、有事の際に泊まり込んで仮眠を取るため、高位魔族ならある程度の調度品などが組まれたそれなりの部屋を用意されるのが普通だ。
 
 ……そもそもこのミハイルは、魔王の世話をした後こっそりと熟れきった身体を慰めるのに控えの間を使っている。
 自慰をして少し宥めるだけで身体が落ち着くのなら、失神者よりましだとルカははじめ、思っていたのだが。

「リヴォフ卿?」
「先程、ルカ、と呼ばなかったか」
「ハッ……も、申し訳ありません。咄嗟に、わざとではなく、あの……」

 ジッと見つめてくるルカの視線に絶えきれず、ミハイルはパタパタと装備の埃などを払った。

「で、では私はこれで、……」
「待て」

 踵を返そうとする巨体をルカが片手で押し留めた。ルカも顔に似合わず相当な馬鹿力なのである。

「いや、あの、汚いですから……」
「竜の血で汚れたのは私も同じだが?」
「いいえ、とんでもない!!ルカ様はそのままでも魔王様の御前に上がれるほどお美しいです。輝きが増したのではないかと思うくらいです!……自分は、汗臭くて無理ですね。帰ります……あの、帰ります!!」

 ルカはがしりとミハイルの腕を掴むとそのままルカの為に用意された側近の部屋へと彼を放り込んだ。
 有無を言わせないルカの様子にミハイルが目を白黒させている。

「着替えを用意させる。そこで身繕いをしろ」
「え、ここで、ですか」
「……そう言っているが?風呂場は向こうだ」
「あの、ルカ様のお部屋が汚れ――」

「さっさとしろ!!」

 ピャッとリスのように飛び上がったミハイルは巨体のわりに小動物の動きで風呂場へ入っていった。

 ミハイル・クラーキンは、ルカの代りを勤められる貴重な人材だ。
 手をかけ気に掛けるのは、そういう意味で、現在の元老院の長老だから仕方なく……――いや、戦闘からこっちそんな事はすっかり忘れていたな。

 ルカは深いため息をついて執務机の上に紙を一枚滑らせた。

 魔王への陳情。
 内容は『側近であるミハイル・クラーキンに魔王宮での部屋を用意のこと』

 こうして魔王がまたにこにこと楽しげな笑みを浮かべて『優しいねぇ、ルカ』とか言うのである。
 ルカにカーティスを任せてよかった、とか。
 ミハイル含め新人育成頑張ってくれて助かるよ、とか。

 ひたすら頼み上手、働かせ上手な魔王なのだった。
 正直ルカは心の底から言いたい。




 ……苦労性とか世話焼きとか風評被害にも程がある。


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