【完結】抱かれたい男No.1の王子様が恋をしたのは、美姫と名高いウサギ獣人の隣にいたグリーンイグアナ獣人でした

鬼ヶ咲あちたん

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十八話 下衆なふるまい

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 バーナビーがいち早く動いた。

 さっとアドリアナの前に体を移動させると、己の体でアドリアナを隠してしまう。

 そして爬虫類獣人ではなく、兄クレイグに厳しい目を向けた。



「そう怒ってくれるな、バーナビー。俺も先ほど、話を聞きかじったばかりなんだ。お前たちも座って、こちらの古の皇国から参られた使者の話を一緒に聞こう。アドリアナの出生にまつわる話だ」



 クレイグは、バーナビーの背に隠されたアドリアナにも伝わるように、ひょいと首を伸ばしてバーナビーの後ろを覗き込む。

 そこには何の感慨もなさそうなアドリアナの顔があったので、ちょっとクレイグは驚いた。

 アドリアナは元孤児だと聞いている。

 父母のことが分かるとなれば、少しは動揺するかと思ったが。



(ここで顔色を変えないとは、バーナビーよりも為政者向きかもしれん)



 感心するクレイグを余所に、バーナビーはアドリアナの心配をする。



「アナ、どうしたいですか? 話を聞きますか? それとも、新居を見に行きますか?」

 

 アドリアナが両親に対して思い入れがないことを、バーナビーは知っている。

 土下座をしている爬虫類獣人のことは気になるが、バーナビーにとっての最優先事項はアドリアナだ。

 相変わらず自分を背に隠したままのバーナビーの肩へ、アドリアナはそっと手を乗せる。

 そして安心させるように、ぽんぽんと叩いた。



「バーニー、大丈夫だから。その使者に、取りあえず頭を上げてもらおう。話とやらも、聞いてみないことには判断ができない」

「分かりました。では兄上、そのように取り計らってください」



 バーナビーはアドリアナの手を引き、ソファへとエスコートする。

 クレイグは使者に頭を上げて、先ほどの話をもう少し詳しくするように促した。

 四角のローテーブルを囲うように、三人掛けのソファが並ぶ。

 上座にクレイグが、下座に使者が、左側にバーナビーとアドリアナが座った。



「私は古の皇国からやってきました、皇配の弟で名前をデリオと申します。古の皇国は、海を隔てた密林の奥地にあって、女帝が治める爬虫類ばかりの獣人の国です。このたびは、このような機会を与えていただき感謝しております」



 デリオはソファに座ったまま、頭を下げると話し始めた。



「先日、我が国を訪れた商人たちによって、エイヴリング王国のバーナビー殿下の結婚相手が、グリーンイグアナ獣人であると聞き及びました。そしてその容姿が『金と翡翠に愛されし黒蝶真珠の君』と称えられているのを知り、もしや幼少期に我が国から攫われ、行方不明となっているオニキス皇女ではないかと思い、こうして確認に参った次第です」



 デリオはそこまで一息に話すと、顔を上げてアドリアナに視線をやる。

 そして容姿を確かめるようにジッと見つめると、またしても頭を下げた。



「間違いありません。私の兄譲りの黒髪、女帝譲りの金の瞳と翡翠の鱗、幼い頃の面影もあります」

「アナが皇女であると分かったところで、アナを今さら古の皇国へ戻すわけにはいきません。……デリオ殿はどうされたいのですか?」

 

 バーナビーはアドリアナの手を握りしめる。

 決して離さないとでも言うように。



「バーナビー、古の皇国では今、女帝の座を巡って内乱が起きているそうだ。女帝の娘、つまりアドリアナの妹にあたるんだが、どうも国民から認められていないらしい。デリオ殿、そうだったな?」

「はい、その通りです。もともと古の皇国は、力こそが正義の国。しかし、オニキス皇女の妹にあたるチャロ皇女には、皇国の力の源と言える最凶獣ダイナソーの血が強く発現しませんでした。そこで、ダイナソーの血が濃い女戦士がチャロ皇女に反旗を翻し、次期女帝の座を奪おうとしているのです」

 

 デリオの見た目に、覚えがなかった理由が明らかになった。

 そんじょそこらの爬虫類獣人ではなく、古代に栄えたというダイナソーの血が混ざっていたのだ。

 痩躯ではあるが、ゴツゴツとした首には縦に並んだこぶもある。

 今は顔を青ざめさせているが、デリオも戦おうと思えば戦士と化すのだろう。

 

「ダイナソーの力は体色に影響を与えます。どこかに黒色をまとえば、それはダイナソーの血が濃い証。私の兄は、鱗・髪・瞳の3か所に漆黒をまとい、皇国最強の名を欲しいままにしています。私とは、違って……」



 最後は小さな声だった。

 デリオは鱗も髪も瞳も、薄い茶色をしていた。

 ダイナソーの血を受け継いではいるものの、力はそれほど強くないようだ。

 バーナビーはアドリアナの豊かな黒髪を見る。

 商人たちが黒蝶真珠に例えたそれは、艶々と波打ち、今もアドリアナの背を覆っている。



「オニキス皇女がバーナビー殿下に嫁ぎ、エイヴリング王国の一員となられたことは大変喜ばしく思っています。ですがこのままでは、妹君のチャロ皇女は女戦士エステラに女帝の座を奪われてしまいます。オニキス皇女、どうかチャロ皇女の後ろ盾になってはもらえませんか? チャロ皇女にも間違いなく、ダイナソーの血は流れているのです」



 必死に頭を下げているデリオを、アドリアナは冷静な目で見ている。

 そしておもむろにこう返した。



「力こそが正義の国ならば、その女戦士と皇女を戦わせてみればよい」



 実にアドリアナらしいシンプルな答えだった。

 隣では、バーナビーがアドリアナの崇高な考えに打ち震えている。

 青かった顔をさらに青くしたのはデリオだけだった。



「ダイナソーの血の濃さなど関係がないと言うのならば、残るは強さのみではないか。しかし、デリオ殿は血の濃さでも力の強さでも皇女が敗けてしまうから、こうして私に頭を下げているように見える。そうまでして皇女を女帝の座につけたいのは、なぜだ?」

「そ、それは……」



 アドリアナに鋭く突っ込まれ、黙り込んでしまうデリオ。

 

「私の妹だという、皇女の容姿を説明できるか? 生まれる種族は変われど、獣人であれば親からは色を受け継ぐものだ。私の妹は、どこかに、薄い茶色をまとっているのではないか?」



 どさりと音を立てて、デリオがソファから転げ落ち、恐ろしいものを見る目でアドリアナを凝視した。

 体を小刻みに震わせていることから、心の底から畏怖を感じているのだろうと分かる。

 それを面白そうに、目を細めて眺めるアドリアナ。



「なんだ、図星か? 己の娘であるから、女帝にしたかったのか――当たり前すぎて、つまらない理由だ。皇国最強の皇配の目を盗み、うまいこと女帝と関係を持ったはいいが、娘の外見にはダイナソーの血の力が現れなかった。国民も愚かではない。およそ皇女の父親に見当がついているのだろう、なあ、デリオ殿?」

「わ、私は、私は決して、兄を裏切るなど――!」



 後ずさりながら、声を荒げて反論するが、デリオの目は逃げ道を探してさ迷っている。

 その目が応接室の扉を捉えると、助かったとばかりに四つ這いで駆け寄り、止める護衛騎士を腕で払いのけ、走り去ってしまった。



「おやおや、出て行ってしまったぞ。アドリアナ、やるじゃないか」



 クレイグは、拍手をしてアドリアナの慧眼と手腕に感服する。

 護衛騎士から「追いますか?」と聞かれているが、「放っておけ」と答えている。

 いい見世物を観たような顔のクレイグとは違い、バーナビーは立腹していた。



「アナを私利私欲のために利用しようなど、あの男のふるまいは下衆としか言いようがありません。こんなことのために私たちを呼びつけた兄上も、同罪ですよ?」



 うっかり流れ矢に当たりそうになったクレイグが、慌てて言い訳をする。



「アドリアナの出生が分かっただけでも、良かったじゃないか。元孤児から皇女だぞ、すごい出世だ」

「アナならば、孤児の星にだってなれます!」



 アドリアナの両手をがっしりと握って、キラキラした瞳で熱弁をふるうバーナビー。

 バーナビーの八つ当たりが自分からそれて、ホッと胸をなでおろすクレイグ。

 先ほどのデリオの話を聞いてから、何かを考えているふしのアドリアナ。

 三者三様で始まる新婚生活は、前途多難そうであった。
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