【完結】抱かれたい男No.1の王子様が恋をしたのは、美姫と名高いウサギ獣人の隣にいたグリーンイグアナ獣人でした

鬼ヶ咲あちたん

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二十五話 旅のメインディッシュ

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 バーナビーはたまらずアドリアナを抱きしめ、その黒髪にちゅっちゅとキスをした。

 さらりと話された見習い兵士時代だが、きっと苦労もあったことだろう。

 周りが15歳以上の中、ただ一人きり10歳だったアドリアナ。

 絡む者やうるさい者は腕力で黙らせてきたと想像はつくが、それでもまだ柔らかい子ども心が何も感じないわけはない。

 親と別れ、優しい院長先生からも離れ、小さなころから自立せざるを得なかったアドリアナを、バーナビーはこれからたくさん愛して甘やかしたいと思った。

 

「素晴らしい人生だろう? 父が悲観することは、何もない」



 回されたバーナビーの両腕の中から、そう言って微笑んだアドリアナ。

 カルロスは二人を眩しそうに見た。



「良かった」



 カルロスのすべての罪悪感が流れたわけではないだろうが、それでも心が幾分か軽くなったのだろう。

 強張っていた全身から緊張がほどけ、カルロスが柔らかい顔つきになったのが分かる。

 

「私からも父に話したいことがある。チャロについてだ。女帝になるのは嫌みたいだから、獣人国で王妹の付き人をしないかと誘った。本人はやる気だ」

「チャロは親に似ず、まっすぐに育ったいい子だ。本人がやりたいことをやるのがいいだろう」

「そうなると、古の皇国の次期女帝の座は、女戦士が継ぐことになりますか?」



 アドリアナをいまだ両腕でぎゅうぎゅうに囲ったまま、バーナビーが話に参加する。

 ブランカをさっさと排斥したい気持ちが隠せていない。



「エステラか……悪い子ではない」



 珍しくカルロスが口ごもる。



「何か問題があるのですか?」

「……少し」



 カルロスが目をそらしてしまったので、バーナビーは言いにくいことでもあるのかと追及するのを止めた。

 しかしアドリアナにとって、女戦士エステラは今回の旅のメインディッシュだ。

 この機会を逃すつもりは無いのだろう。

 

「私はエステラと、本気で手合わせをしてみたい。女帝候補に自ら名乗り上げるくらいだ、さぞや強いのだろう?」

 

 内容は物騒だが、キラキラした瞳でおねだりをするアドリアナは可愛かった。

 カルロスもアドリアナには甘いため、話に乗ってきた。

 

「オニキスと拮抗するだろう。力だけなら、エステラが上かもしれない」



 カルロスが煽るようなことを言うから、ますますアドリアナは奮起する。



「私が強くなったところを、父に見てもらいたい。巨人とも戦ってみたいが、それはバーニーが心配するから」



 アドリアナが首を傾けてバーナビーの顔色をうかがう。

 バーナビーはちょっとだけ怖い顔をして見せる。

 

「駄目ですよ、アナ。うっかり出くわしたならともかく、こちらから巨人を探しに行くような真似はさせません」

「ほら、これだ」



 くっくっとアドリアナが肩をすくめて笑う。

 心配されることに慣れていないアドリアナは、バーナビーの心配がこそばゆい。



「エステラも、漆黒色の髪のオニキスに興味を持っている。エステラは、瞳が墨黒色で、髪と鱗が青墨色だ。ダイナソーの血が濃く、皇国の女戦士の中では一番強いだろう」

「それは楽しみだ。なんとか滞在中に、機会を設けてもらえるだろうか?」

「善処しよう」



 愛娘の我がままに、デレデレとして応えるカルロスを、バーナビーも仕方がないという目で見る。

 バーナビーもカルロスも、アドリアナに滅法弱いと自覚がある。

 しかし、先ほどカルロスが口ごもったことが気になるバーナビーは、別方面からエステラについて探る必要があると思った。

 安心して女帝を任せられる人物でないと、アドリアナが皇国に留まると言い出すかもしれない。

 新婚旅行へ出立する前は、故郷に愛着はないと言っていたアドリアナだったが、翼竜は可愛いし、チャロには懐かれるし、カルロスは溺愛してくる。

 もしかしたら、今は居心地がいいと感じているかもしれない。

 バーナビーは対抗馬の魅力に負けるつもりはないが、万が一、ここに残りたいと言われたときには、どうやってアドリアナを連れ帰ろうかと考えるのだった。



 ◇◆◇



 歓待の宴が催された翌日から、バーナビーとアドリアナは観光を楽しんだ。

 案内をしてくれるのはチャロだ。

 尖塔の内部だけでなく、街へ散策にも出かけた。

 バーナビーは兄のクレイグに頼まれていた特産品について、何かいいものはないかとリサーチしながら、アドリアナはチャロに勧められるまま、屋台から飲み物や食べ物を買っては食べ歩きを楽しんだ。

 顔が派手なバーナビーは、基本的にどこに行っても注目されるのだが、皇国内では黒色を持つアドリアナにも視線が集中する。

 チャロが言うには、皇国で完全な漆黒色を持つ者は、カルロスとアドリアナ以外にはいないそうだ。

 他の者は、なにかしら黒以外の色が混じって、エステラのように墨黒色だったりする。

 それでもエステラは髪・瞳・鱗の3か所に黒をまとうので強いのだと、チャロは興奮気味に教えてくれた。

 バーナビーはちょうどいいと思って、チャロにエステラのことを尋ねる。



「エステラについて、もっと教えてもらえますか? お義父さんは何か言いにくいことがあるようで、あまり話してくれなかったのです。エステラが女帝になるに相応しい人物なのかどうか、知りたいのですが」



 バーナビーが水を向けると、チャロはうんうんとしたり顔でうなずく。

 

「エステラさまにお会いすれば、すぐに分かると思いますが、カルロスさまは立場的にも、お隠しになりたかったのでしょうね」



 チャロはちらりとアドリアナを見る。

 アドリアナがこてんを首をかしげたので、バーナビーはすかさず頭頂部にキスをした。

 単純にそのポーズのアドリアナが可愛かったからだ。

 

「実はエステラさまは、ずっとカルロスさまのことをお慕いしていて、隙あらば求婚されているのです。自分が女帝になったら、皇配になって欲しいと口説き続けています。娘であるお姉さまの前では、さすがに言いにくかったのではないでしょうか? なにしろエステラさまは、お姉さまより年下ですもの」



 チャロの言葉に、アドリアナとバーナビーは顔を見合わせて驚きを共有した。

 あの無骨そうなカルロスを、エステラが見染めたというのか。



「ちなみに、二人はどれくらい年が離れているのですか?」

「カルロスさまが45歳、エステラさまが25歳、ちょうど20歳の差ですね」

「20歳……」



 22歳のバーナビーが、呆けたように呟く。



「いいんじゃないか? バーニー、好きという気持ちに年齢は関係ないだろう?」

「そうですね……私はアドリアナが、2歳だったとしても42歳だったとしても、求婚したと思います」

 

 バーナビーは自分に置き換えてみることで、大したことはなかったと理解した。

 2歳だったときは問題がありそうだが、バーナビーにとってはアドリアナでありさえすれば大丈夫なのだろう。



「エステラさまは、女帝になるに相応しい方だと私は思います。巨人討伐のときも、翼竜を巧みに操り、それはそれは勇敢に戦うのです」



 チャロは戦いへの憧れがあるのか、やや頬を染めていた。

 隠れていても、チャロにも力こそ正義のダイナソーの血は流れているのだなと、バーナビーは思う。

 

「父に頼んで、エステラに手合わせの申し込みをしている。そのときは、ぜひチャロも観戦して欲しい」

「もちろんです! 軍の施設に、大きな闘技場があるのです。エステラさまはよくそこで、カルロスさまと手合わせをされているのですが、実は私、こっそり見に行っているのです。きっとお姉さまが手合わせするのも、その闘技場で間違いないですよ!」



 今から案内します! とチャロは嬉しそうにアドリアナを引っ張っていく。

 この後、カルロスとエステラの手合わせの様子について詳細に解説され、チャロがデリオの娘とは思えないほどの格闘ファンだと、バーナビーとアドリアナは知るのだった。
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