【完結】抱かれたい男No.1の王子様が恋をしたのは、美姫と名高いウサギ獣人の隣にいたグリーンイグアナ獣人でした

鬼ヶ咲あちたん

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三十四話 姉と弟

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 アドリアナは王都に着いてしばらくして、卵を二つ生んだ。

 一つ目は標準の両手のひらサイズ、二つ目は両手のひらからこぼれる特大サイズだった。

 どちらも生まれたては卵の殻が柔らかく、ぷよぷよとしていたので、取り扱いには慎重を要した。

 バーナビーによって卵の上下が判別できる印がつけられ、丁重に孵卵室へ運ばれた後、適温適湿の中、ずっと温められている。

 

「あとどれくらいで孵りますか?」

「お義兄さま、それは今日だけで七回目の質問ですよ」



 チャロが呆れたようにバーナビーに返答している。

 標準よりも大きな卵を生むことになったアドリアナの体には、しばしの休養が必要で、その間、チャロがせっせと卵の世話を焼いていた。

 そんな中、孵卵室へ何度も足しげく通うバーナビー。

 そうして、忙しくしているチャロに同じ質問を繰り返すのだ。

 チャロが嫌な顔をするのも当たり前だった。

 霧吹きでしゅっしゅと卵の周りを湿らせて、卵の様子を観察するチャロ。



「大人しく、お姉さまのところで待っていてください。兆候が現れたら呼びに行きますから」



 チャロから、数日のうちに卵が孵ると聞かされたバーナビーは、このところ上の空だ。

 ソワソワして仕事が手に付かず、クレイグから執務室を追い出された。

 今また孵卵室をも追い出され、仕方がないとアドリアナのいる新居へ帰ろうとしたその時、アドリアナが孵卵室へとやってきた。



「アナ! 歩いても大丈夫なのですか? 抱いて運びますよ?」



 心配性のバーナビーがすぐに駆け寄る。

 バーナビーに見つかると歩かせてもらえないと知っているアドリアナは、バーナビーのいない隙を狙って孵卵室へ来たようだが、最近のバーナビーは孵卵室に住んでいるといってもいいほど入り浸っているので、それは不可能だった。



「もう見つかってしまった。婆やさんが、今なら坊ちゃんはお仕事の時間ですと言っていたのに、さてはまた執務室を追い出されたな」

 

 クスクスと笑いながら、アドリアナは素直にバーナビーの腕に囲われる。

 このところ、バーナビーの腕はまた一段と逞しくなった。

 二人の子どもをしっかり抱えられるようにと、鍛えているのだ。

 クレイグからも、「脱いだらすごい、だったのが、脱がなくてもすごい、になってきた」と褒められる。

 

「どうしても落ち着かないのです。早く子ども達に会いたくて、たまりません」

「私もそうだ。どんな子が生まれてくるかな」



 アドリアナとバーナビーは、温められている卵に近づく。

 チャロが丹精込めて霧吹きをかけているので、湿度も完璧に保たれている。



「チャロ、本当にありがとう。私が動けない間、ずっと卵を見守ってくれて」

「お安い御用ですよ! お姉さまは、私がこれまでに見たこともないほど、大きな卵を生んだのですもの。しっかり休んで体調の回復に励まないと、こういうのは後になって響くと聞きますからね!」



 チャロは胸を張って、どんとお任せくださいと嬉しそうだ。

 それではちょっと水を足してきます、と霧吹きを片手にチャロが孵卵室を出て行く。

 二人きりにさせてあげようという、チャロの計らいだ。

 バーナビーとアドリアナは抱き合ったまま、静かに卵を見つめる。

 ほわほわとした暖色の灯りが、卵の殻の表面を照らしている。

 卵が転がらないように、敷かれた布に落ちた影が、少し揺れたように見えた。



「アナ? 今、卵が揺れませんでしたか?」

「バーニーにもそう見えたか? 私も大きな卵の方が、動いたように見えた」



 だんだんと揺れは大きくなり、ついに殻ごしにモゾモゾと赤子が動いているのが伺えるようになった。



「これは……ついに生まれるんでしょうか」

「尖った部分を押し当てて、内側から殻を破ろうとしているな」

 

 柔らかい殻がぴんと突っ張られ、カリリカリリと音がする。

 バーナビーとアドリアナが息をひそめて見守る中、ついに殻が破られた。

 白い殻から飛び出てきたのは、黒々とした鉤爪を持つ鳥類の足。

 邪魔な殻を何度か引っ搔いて間口を広げると、そこから羽角のついた金髪の頭がぴょんと出てきた。

 両手をばたばたと振り回し、まといつく殻をすべて脱いでしまうと、アドリアナによく似た顔つきの男の子は金色の瞳できょろきょろと辺りを見回した。

 腰骨の辺りには、翡翠色をした羽根がついている。

 獣人の中でも鳥人と呼ばれる種族だ。

 男の子はすぐ隣に自分よりも小さな卵を見つけると、その白い殻に鉤爪を引っかけて破いてしまう。



「あっ!」



 バーナビーが止めようとしたが間に合わず、男の子は小さな卵の殻を払いのけ、中から黒髪の女の子を取り出すと、しっかりと腕の中に抱きしめたのだった。

 小さな卵の中にいた女の子は、人族に見えた。

 男の子に抱きしめられ、ようやく目が覚めたというように、ぱちりと瞼を瞬いた。

 その碧眼はまさしくバーナビー由来のもので、顔面が美し過ぎて眩しいキラキラオーラを放つ様子も、アドリアナが見慣れたものだった。



「バーニーだな」

「こちらはアナですよ」



 子どもの誕生を見届けた二人は、あまりの神秘と驚きに、それ以上の口が利けなかった。

 水汲みから戻ってきたチャロが、いつまでも呆けていた二人と孵化した赤子に気づき、狂喜乱舞してクレイグに知らせに行ってくれたおかげで、城中が誕生を祝福して沸いた。

 その頃になってようやく、じわじわと喜びがせりあがってきたバーナビーは、アドリアナを抱きしめて改めて宣言した。



「アナ、みんなで家族になりましょうね」



 アドリアナもこみ上げてくるものがあって、一粒だけ涙をこぼした。



「ああ、よろしく、バーニー」



 ぎゅっと抱きしめ合う両親を、生まれたての男の子と女の子がじっと見ていた。

 

 ◇◆◇



 小さな卵から生まれた人族の女の子はユーフェミア、大きな卵から生まれた鳥人の男の子はアルフィーと名付けられた。



「兄妹なのか姉弟なのか?」



 アドリアナとバーナビーが首をかしげていると、チャロが答えを出す。



「卵が生まれてきた順なんです。だから、お姉ちゃんと弟になりますね」

「卵から出てきたのはアルフィーが先なのに、おもしろいですね」

「卵から出てきた順にしてしまうと、同時に出てくる子もいて、分からなくなるからなんです。明確に母体から出てきた順にしておくほうが、迷わなくて済みます」

「合理的だ」



 生まれたばかりの子どもたちは、孵卵室である程度の大きさまで育てるのだという。



「次第に、それぞれの種族に近しい成長をしていきますが、それまでは爬虫類獣人の影響もあるので、高温多湿の環境がいいんです」

 

 チャロがいなければ、子育てはとんだ騒動になっていただろう。

 新米のパパとママは一生懸命チャロに学びながら、赤子の面倒を見た。

 育てていく内に、アルフィーがユーフェミアを抱きしめたがる癖について、何度か話題になった。

 

「どうしてアルフィーは、常にユーフェミアを抱きしめるんだ?」

「まるで、片時も離したくないみたいですよね?」



 バーナビーもアドリアナも、明確な答えが出ないまま、仲が良いならいいかと、特に問題視しなかった。

 そしてある程度、子ども達が大きくなって、孵卵室から外界へデビューするときがやってくる。

 エイヴリング王国をあげて開催されたお披露目会は盛大で、友好国からも新たな王族の誕生を祝って、たくさんの参列者がやってきた。

 新婚旅行で行くはずだった獣人国からも、ダフネを連れたロドリゴが駆け付けた。



「お二人とも、おめでとう! どれどれ、ダフネの勘が当たったかどうか、お子さんを見せてもらおうじゃないか」



 そうしてロドリゴとダフネが覗き込んだベビーベッドの中では、相変わらずアルフィーがユーフェミアを抱きしめていた。



 「あらあ! 男の子はアドリアナ隊長にそっくり! そして女の子はバーナビー殿下にそっくり!」



 ダフネが感心して、アルフィーとユーフェミアを交互に見ている。

 その隣でロドリゴは、ぽかんと口を開けていた。



「なんだあ? もう番になっているじゃないか?」
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