【完結】哀しき竜王の血~番召喚の儀で竜族しかいない世界にやって来た私に愛を囁いた竜王さまには、すでに12人の妃がいました~

鬼ヶ咲あちたん

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五話 大臣たちの画策

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 本来であれば容姿の美しい竜族であるが、12人の大臣たちの外見は崩れ、醜悪さが目立つ。

 長らく権力の分散を嫌い、親族同士で婚姻を続けてきた弊害かもしれない。

 そして大臣たちは考え方も歪んでいた。

 嫌がる番を力ずくで抑え込み、無理やり子を孕ませてはどうかと竜王に提案したのも、その一片であろう。



「番さまは、ほとほと頑迷なようだ」

「いまだ竜王さまを拒んでおられるとか」

「12人の妃がいるくらい、なんだというのだ」

「番召喚の儀から、すでにかなりの日数が経っておる」

「ここは一計を案じる場面ではないですかな?」

「一計とは? なにか策が?」

「番さまの血にまつわる秘話を、我が一族の者が思い出したのです」

「ほう、血にまつわる秘話とは? 初耳ですな」

「なんでも番さまの血は、竜王さまにとって特別な香りがするそうで」

「なるほど、先代さまと番さまの寝台は、いつも血だらけだったそうだが、それと関係が?」

「番さまの血の香りに昂ぶりを覚え、その結果、竜王さまの精に子種が宿るのだそうです」

「なんと!」

「12人の妃たちが500年もの間、子を孕めなかったのは種無しの精だったからか」

「まさか番さまの血の香りで子種ができるとは」

「竜王さまのお体も、難儀なものですなあ」

「ですが、いいようにも考えられますよ」

「番さまの血さえあれば、竜王さまの精に子種は宿るのだからな」

「子を孕んで産み落とすのは、番さまでなくてもいいわけだ」

「これで12人の妃もようやく面目躍如でしょう」

「さっそく番さまの血をいただきに行かねば」

「我々は警戒されてますからな、なんと言って近づきましょうか」

「得た血をどう使うかも考えませんと」

「12人の妃の体に塗りたくるのでは駄目か?」

「それでは竜王さまは興ざめなさるのでは」

「う~む、どうしたものか」

「いっそのこと、竜王さまに番さまの血を飲ませてしまうのはどうでしょう?」

「それで昂ったところに12人の妃たちをあてがう訳か」

「待て、血の香りで昂るのだから、竜王さまが飲み干してしまっては意味がないのでは?」

「そうだ、妃たちから香る状態のほうが好ましい」

「そもそも昂ったところで、今の竜王さまが妃たちを抱きますかな?」

「確かに、竜王さまは番さまに夢中でおられる」

「もはや骨抜きだわい」

「あれでは昂ったところで、妃たちに手を出されぬかもしれんなあ」

「我が一族に、捕えた者の肉欲を高める陣が伝わっておりますよ」

「それへ竜王さまを捕えるか?」

「そして血の香りをまとった12人の妃たちとまぐわえば、どれかの腹に次代さまが宿ると」

「果たしてうまくいくものか」

「我々はすでに失敗を犯しておる」

「万全を期すために、12人の妃たちにも一芝居うってもらいましょう」

「そうだな、ここは協力をする場面である」



 12人の大臣たちの頭の中は、次代の竜王を得ることでいっぱいだった。

 そして、出来ればその竜王は己が一族から輩出したいのだ。

 今よりも、さらなる権力を握るために。

 そのせいで前回も失敗したことを、大臣たちはすっかり忘れていた。

 

 12人の妃たちは12人の大臣たちによって集められ、24人で綿密な計画が練られた。

 まずは12人の妃たちが竜王の命により後宮を去るにあたり、労いの祝宴を開くことが決まった。

 妃たちは去るつもりなどさらさらない。

 あくまでも竜王の手前、去る風を装うだけだ。

 そしてその祝宴には竜王も参加してもらい、一献を傾けたいと妃たちが足止めをする。

 その間、番さまだけになった竜王さまの私室には、大臣たちが向かう。

 番さまには「竜王さまのために」と偽り、血を所望する。

 うまくいったら大臣たちと妃たちは入れ替わる。

 大臣たちは竜王さまを肉欲を高める陣へ捕え、妃たちは番さまの血を分け合う。

 満を持して陣を発動させたなら、どの一族の妃が次代さまを孕むのか、大臣たち一族の栄華をかけた欲まみれの闘いが幕を開けるのだ。

 世にもおぞましい計画だった。

 竜王にも美子にも、気持ちがあるのだと誰も思い至らない。

 竜王が今、美子との間にあった距離を少しずつ近づけて、かわいい交際の末にかわいいプロポーズをしていることも知らず。

 妄執に溺れた竜族たちへ、果たして竜王の繁栄の加護は降り注ぐのか。

 

 ◇◆◇



「竜一、もう仕事に行ってもいいんだよ。私はちゃんとここで竜一の帰りを待ってるし、ご飯だって食べさせてもらわなくても自分で食べられるから」



 二人だけのとき、美子は竜王を名前で呼ぶ。

 竜王がそうして欲しいと願ったからだ。

 せっかく名前をもらっても、誰からも呼ばれないのはさみしい。

 そう言われたら、名付け親として美子は断れない。



「美子の介護は私がしたくてしていることだ。それに仕事は大臣たちに任せておけば問題ない。今までもそうだった。私が決めたことなど、ほとんどない。先日、後宮の解散を告げたとき、きっと大臣たちは何が起きたかと思ったことだろう。なにしろ私が何かをすると決めたのは、それが初めてだったから」

「だったら竜一は常日頃、なにをしているの?」



 きっと偉いんだろうと思っていた竜王が案外暇人なので、美子は驚いた。



「大臣たちが伺いを立てに来るだろう? こういうことを始めますだとか、こういうふうに変えますとか。それに対して『任せる』というのが私の役目だ」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ。成人を迎えてからの私は気性が荒くなり、それまで大人しかったのが嘘のように暴れ始めて手が付けられなかったそうだ。だから大臣たちは、私がいなくても政務が滞らずに済むように、12人で私の仕事を分担して執り行うようになった。それで500年間、なんの問題もなかった」



 美子はまたしてもそこに大臣たちの作為を感じた。

 自分たちのいいように政治を動かしたくて、竜王が暴れているのを幸いと、竜王から権限を取り上げたのではないか。

 竜王が成人してもすぐに番召喚の儀を行わなかった理由を再び見つけてしまった。

 思っていることを竜王に話してしまおうか。

 大臣たちをあまり信用しすぎないほうがいいと。



「あのね、竜一、大臣たちのことなんだけど……」



 しかし美子が口火を切ったとき、ちょうど料理長が昼餉を持ってきてしまった。

 竜王と美子が食事をとってくれるのが嬉しい料理長は、自ら部屋まで出来立ての料理を運んでくれる。

 料理は、温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに食べるのが作ってくれた人への礼儀だ。

 そう思っている美子は、大臣たちのことをいったん頭の隅に押しやって、竜王と食事をすることに意識を向けた。

 料理長が美子のために今日の献立の説明をしてくれる。

 日本で見たことがあるような料理に見えても、素材の味や食感がまったく違っていることが多い。

 だから美子がビックリしないように、これはこういう味ですよ、これは少し噛み応えがあります、とあらかじめ教えてくれるのだ。

 というのも美子が最初の方で、串にささったふろふき大根だと思ったものにかじりついて、前歯が欠けそうになったことがあるからだ。

 あれは日本で言うなら、大きな棒つきキャンディーのようなものだった。

 竜王はそれ以来、わたしに出てくる料理を一口大に切り分けてくれる。

 さらには熱そうだと思ったら、フーフーして冷まして口元まで持ってきてくれるのだ。

 もう自分は病人でも何でもないと思っている美子にとっては、恥ずかしいことこの上ない。

 料理長がいようが、竜王はそれを止めないのだから。

 料理長は温かい目で見てくれるけど、美子の恥ずかしさは変わらない。

 何度も一人で食べられると説得しているのだが、なかなか竜王はうんと言わない。

 今日もこれから嬉々とした竜王による給餌プレイが始まるかと思うと、美子の頬は真っ赤になるのだった。
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