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四話 執り行われる『壁尻の儀』
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いよいよ『壁尻の儀』が執り行われる。
正装をまとうコンラートは国王から、もう何度目になるか分からない手順を聞かされていた。
「よいか、お前がこれから入る部屋には、三人の王太子妃候補者たちが待っている。しかし、顔は見えず、声も聞こえず、誰が誰か分からない状態だ」
どうしたらそんな状態になるのか、想像もできない。
「お前はおそらく戸惑うだろう。これまでにきっと遭遇したことのない場面のはずだ。だが同時に高ぶりも覚えるはずだ。そこからは理性を凌駕する本能に任せて、妃を求めればよい。体の相性を知るのは世継ぎをもうけるためにも必要だからな。しっかり触れ合ってこい」
最後のアドバイス以外は、なんだかふわっとした説明だ。
何度聞いてもよく分からないが、ここで分からないと言っても無駄なことだけは分かっている。
「分かりました」
「では始めるぞ」
国王はもったいぶって部屋の扉を開けると、コンラートの背を中へ押したのだった。
何もない部屋だった。
正確には何も家具が置かれていない部屋だった。
もとは客室だったと思われる部屋を改装してあるのか、普通ならばありえない場所に壁がある。
そしてその壁からなにかが突き出ているのだ、一定の間隔を空けて三体も。
もうコンラートにも分かった。
あれは女体だ。
しかも裸の下半身だ。
(触れ合って体の相性を知るって、比喩でも何でもないのか)
頭を抱えたくなった。
妃を選べないと父上に相談したことで始まった『カベシリノギ』だが、カベシリとは壁から尻ということだったのだ。
(率直すぎないか。ご先祖さまの名付け感覚って……)
あまりの衝撃に、考えが横滑りしていくコンラート。
だがこんなことを考えている場合ではなかった。
もう儀式は始まっているし、なにより妃候補者たちはこの格好でずっと自分を待っていたのだ。
なるべく早く終わらせてあげないと。
コンラートは颯爽と右側の尻に近づく。
ややためらいながらも、そっと白くて薄い尻たぶを撫でた。
◇◆◇
右側の壁尻の正体は19歳のエルダだった。
現状、エルダの頭は混迷を極めていた。
壁尻の知識どころか、男女の営みの知識もない公爵家の箱入り娘が、突然こんな破廉恥な格好をさせられたのだ。
今日は公爵家から、エルダ付の侍女を付き添い人として連れて王宮へやってきた。
そこからは控室に案内され、服と注意書きを渡され、侍女の手を借りて着替えたまではよかった。
(下着をつけてはいけない?)
まずここで戸惑った。
侍女と一緒に何度も文面を読み直した。
それだけでは飽き足らず、メイドを呼び、この注意書きが間違っていないか確認までしたのだ。
結果、間違ってはいなかった。
しぶしぶ従ったエルダに待ち構えていた第二の難関・下半身の露出は、考えることを放棄させるほどの屈辱だった。
(これは王命、これは王命、これは王命……)
ひたすら自分を落ち着かせるために、先ほどからずっと心の中で呟いている。
ぶるぶる震える足を叱咤し、猿ぐつわをかませてもらい、自慢の金髪を結い上げ、厚い布で顔を覆った。
壁の向こうに尻を突き出し、じっと開始のときを待つ。
痩せた体は時間の経過とともにだんだん冷えていく。
もとから冷え性だったエルダは、足指の先をこすり合わせた。
(まだかしら、お手洗いに行きたくなってきちゃった)
膝頭をくっつけ、尿意を我慢する。
すると自分の下半身の傍に、誰かが立った気配がした。
(ああ、ようやく始まったのね。きっと私の若肌の張り艶をご覧になっているのだわ)
もうすぐ終わるとホッと気を抜いた瞬間、尻を触られた。
これまで公爵令嬢としてつつがなく過ごしてきたエルダ。
取り巻きの令息たちは礼儀正しく、エルダの肌に触れるなんてもってのほかだと思っている。
つまり誰かに直接、尻を触られたのはこれが初めてだった。
(……っあ)
驚きと怯えと恥ずかしさによって張りつめていた緊張の糸が切れ、ふっと失神した瞬間に温かいものがエルダの両足を濡らす。
しょわわわわ~っと勢いよく放出された虹を描く黄金水によって、足元に小さくはない水たまりができる。
ビックリして誰かが離れていく気配は、もうエルダには分からなかった。
◇◆◇
ビックリした。
尻を触ったら、お漏らしをされるなんて。
コンラートは神童と言われた頭で必死に考える。
(いきなり尻に触るのは、礼儀に反した行為だったのかもしれない)
おそらく自分は拒絶されたのだと判断した。
気を取り直して真ん中の壁尻に向かう。
父上は誰か分からないと言っていたが、この真ん中の壁尻だけは分かる。
褐色の肌をしているからサザリーだ。
まだ自分が近づいたことに気がついていない。
どこに触れようか?
尻は駄目だ。
では太ももならどうだろう?
張りのある筋肉が美しい褐色の太ももに手を伸ばす。
◇◆◇
21歳のサザリーは意気揚々とそのときを待ち構えていた。
サザリーだけは、何が起きるのかを知っていたので、むしろ気持ちは高揚していたと言っていい。
これから王太子殿下に特訓の成果を見てもらうのだ。
(そしてコンラート殿下は私に首ったけになるのよ!)
ふんすふんすと鼻息をもらすサザリーの太ももに、そっと手のひらが添わされた。
硬い剣ダコを感じさせる男らしい手のひらだ。
(来たわ!さあ見て頂戴、これが私の8の字筋よ!)
コンラート殿下に見えやすいようにガバリと大きく股を広げると、クイッと尻を持ち上げる。
多くの高級男娼たちから絶賛の声を浴びたテクニックのお披露目だ。
ぎゅっと下腹に力をこめると、サザリーは下の口をパカパカパカパカし始める。
◇◆◇
放尿されたときよりも驚いて、コンラートは飛び退いた。
まるで魔獣に襲われるときのような殺気を感じたのだ。
その認識はあながち外れていなかったかもしれない。
喰ってやると言わんばかりにサザリーの下の口が威嚇している。
(えええええ……)
もうコンラートは自分が神童だなんて思えなかった。
分からない、女体のことが分からない。
しかし、これも間違いなく拒絶されているのだろう。
己の不甲斐なさに唇をかみしめ、コンラートは左側の壁尻に向かった。
正装をまとうコンラートは国王から、もう何度目になるか分からない手順を聞かされていた。
「よいか、お前がこれから入る部屋には、三人の王太子妃候補者たちが待っている。しかし、顔は見えず、声も聞こえず、誰が誰か分からない状態だ」
どうしたらそんな状態になるのか、想像もできない。
「お前はおそらく戸惑うだろう。これまでにきっと遭遇したことのない場面のはずだ。だが同時に高ぶりも覚えるはずだ。そこからは理性を凌駕する本能に任せて、妃を求めればよい。体の相性を知るのは世継ぎをもうけるためにも必要だからな。しっかり触れ合ってこい」
最後のアドバイス以外は、なんだかふわっとした説明だ。
何度聞いてもよく分からないが、ここで分からないと言っても無駄なことだけは分かっている。
「分かりました」
「では始めるぞ」
国王はもったいぶって部屋の扉を開けると、コンラートの背を中へ押したのだった。
何もない部屋だった。
正確には何も家具が置かれていない部屋だった。
もとは客室だったと思われる部屋を改装してあるのか、普通ならばありえない場所に壁がある。
そしてその壁からなにかが突き出ているのだ、一定の間隔を空けて三体も。
もうコンラートにも分かった。
あれは女体だ。
しかも裸の下半身だ。
(触れ合って体の相性を知るって、比喩でも何でもないのか)
頭を抱えたくなった。
妃を選べないと父上に相談したことで始まった『カベシリノギ』だが、カベシリとは壁から尻ということだったのだ。
(率直すぎないか。ご先祖さまの名付け感覚って……)
あまりの衝撃に、考えが横滑りしていくコンラート。
だがこんなことを考えている場合ではなかった。
もう儀式は始まっているし、なにより妃候補者たちはこの格好でずっと自分を待っていたのだ。
なるべく早く終わらせてあげないと。
コンラートは颯爽と右側の尻に近づく。
ややためらいながらも、そっと白くて薄い尻たぶを撫でた。
◇◆◇
右側の壁尻の正体は19歳のエルダだった。
現状、エルダの頭は混迷を極めていた。
壁尻の知識どころか、男女の営みの知識もない公爵家の箱入り娘が、突然こんな破廉恥な格好をさせられたのだ。
今日は公爵家から、エルダ付の侍女を付き添い人として連れて王宮へやってきた。
そこからは控室に案内され、服と注意書きを渡され、侍女の手を借りて着替えたまではよかった。
(下着をつけてはいけない?)
まずここで戸惑った。
侍女と一緒に何度も文面を読み直した。
それだけでは飽き足らず、メイドを呼び、この注意書きが間違っていないか確認までしたのだ。
結果、間違ってはいなかった。
しぶしぶ従ったエルダに待ち構えていた第二の難関・下半身の露出は、考えることを放棄させるほどの屈辱だった。
(これは王命、これは王命、これは王命……)
ひたすら自分を落ち着かせるために、先ほどからずっと心の中で呟いている。
ぶるぶる震える足を叱咤し、猿ぐつわをかませてもらい、自慢の金髪を結い上げ、厚い布で顔を覆った。
壁の向こうに尻を突き出し、じっと開始のときを待つ。
痩せた体は時間の経過とともにだんだん冷えていく。
もとから冷え性だったエルダは、足指の先をこすり合わせた。
(まだかしら、お手洗いに行きたくなってきちゃった)
膝頭をくっつけ、尿意を我慢する。
すると自分の下半身の傍に、誰かが立った気配がした。
(ああ、ようやく始まったのね。きっと私の若肌の張り艶をご覧になっているのだわ)
もうすぐ終わるとホッと気を抜いた瞬間、尻を触られた。
これまで公爵令嬢としてつつがなく過ごしてきたエルダ。
取り巻きの令息たちは礼儀正しく、エルダの肌に触れるなんてもってのほかだと思っている。
つまり誰かに直接、尻を触られたのはこれが初めてだった。
(……っあ)
驚きと怯えと恥ずかしさによって張りつめていた緊張の糸が切れ、ふっと失神した瞬間に温かいものがエルダの両足を濡らす。
しょわわわわ~っと勢いよく放出された虹を描く黄金水によって、足元に小さくはない水たまりができる。
ビックリして誰かが離れていく気配は、もうエルダには分からなかった。
◇◆◇
ビックリした。
尻を触ったら、お漏らしをされるなんて。
コンラートは神童と言われた頭で必死に考える。
(いきなり尻に触るのは、礼儀に反した行為だったのかもしれない)
おそらく自分は拒絶されたのだと判断した。
気を取り直して真ん中の壁尻に向かう。
父上は誰か分からないと言っていたが、この真ん中の壁尻だけは分かる。
褐色の肌をしているからサザリーだ。
まだ自分が近づいたことに気がついていない。
どこに触れようか?
尻は駄目だ。
では太ももならどうだろう?
張りのある筋肉が美しい褐色の太ももに手を伸ばす。
◇◆◇
21歳のサザリーは意気揚々とそのときを待ち構えていた。
サザリーだけは、何が起きるのかを知っていたので、むしろ気持ちは高揚していたと言っていい。
これから王太子殿下に特訓の成果を見てもらうのだ。
(そしてコンラート殿下は私に首ったけになるのよ!)
ふんすふんすと鼻息をもらすサザリーの太ももに、そっと手のひらが添わされた。
硬い剣ダコを感じさせる男らしい手のひらだ。
(来たわ!さあ見て頂戴、これが私の8の字筋よ!)
コンラート殿下に見えやすいようにガバリと大きく股を広げると、クイッと尻を持ち上げる。
多くの高級男娼たちから絶賛の声を浴びたテクニックのお披露目だ。
ぎゅっと下腹に力をこめると、サザリーは下の口をパカパカパカパカし始める。
◇◆◇
放尿されたときよりも驚いて、コンラートは飛び退いた。
まるで魔獣に襲われるときのような殺気を感じたのだ。
その認識はあながち外れていなかったかもしれない。
喰ってやると言わんばかりにサザリーの下の口が威嚇している。
(えええええ……)
もうコンラートは自分が神童だなんて思えなかった。
分からない、女体のことが分からない。
しかし、これも間違いなく拒絶されているのだろう。
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