【完結】乙女ゲームの推しだった勇者が続編では淫魔になっていたので、悪役令嬢に転生した私が錬金術で救ってみせます!

鬼ヶ咲あちたん

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11話 純粋培養された結果

「しますよ。今度はポーションの使用割合を変えて試してみるつもりです。どの辺りで魔王の核が暴走し始めるのか、ギリギリの線を見極めたいですね」

 

 真顔でウェンディがきっぱりと答えると、デクスターがサッと顔をうつむかせる。

 昨夜を思い出して、ますます顔が赤くなってしまったようだ。



【今度こそ、萎えるポーションを作ってやれよ。そうじゃないと、蛇の生殺しだよなあ?】



 デクスターの手の中から、ホレイショが首を出している。

 デクスターが反対の手のひらを使って、ホレイショをまた押し込めた。

 そして、申し訳なさそうな顔をして、ウェンディに頭を下げるデクスター。



「真摯に取り組んでくれて、ありがとう。俺にもできることがあれば、言って欲しい」

「デクスターさまの協力なくしては、ポーションは仕上がりません。今夜もよろしくお願いします」



 仲間意識の芽生えに、ウェンディは握手をしようと手を差し出す。

 だがその手を見て、デクスターの首から上が茹で蛸のようになってしまったので、ウェンディはまるで卑猥なものをポロンとさせた気分になった。

 ダニング伯爵がデクスターをシャイだと表現していたが、初心でピュアで天真で、ウェンディには可愛く思える。

 とてもダニング伯爵と同年代には見えない。

 あまりの擦れてなさに、これが雪山で純粋培養された結果なのかと、崇めたくなるウェンディだった。



 ◇◆◇



 その日から、ポーションの濃度や量を変えて挑戦してみたが、時を遡るポーションを摂取すると核が暴れ出す。

 暴走が始まると、萎えさせるポーションでは効果がなく、精巣がからっぽになるまで射精しないと勃起が治まらない。

 

「完全に、拒否反応を示すようになりましたね。核がこのポーションを、覚えてしまったようです」



 無色透明の時を遡るポーションが入った試験管を振り、ウェンディが溜め息をつく。

 前世でいう所の、食物アレルギーのようだ。

 ほかのポーションに混ぜて隠そうとしても、察知される。

 そして一体化を妨害されたくない核が激しく抵抗し、デクスターの淫魔の性質が強まってしまう。

 これ以上はデクスターの体力の消耗も激しいので、実験は早々に取りやめることにした。

 

【下腹のどっかに埋まってるなら、腹を割けば核を取り出せそうに思うだろうけど、かなり一体化は進んでるんだよな】

 

 ホレイショがデクスターの体臭をクンクンと嗅ぎながら、ぴるぴると尻尾を振っている。

 ウェンディの真向かいに座るデクスターが、困ったように眉尻を下げていた。

 

「デクスターさまの意志と関係なく、体を操り始めたのがその証でしょう。今は男性器だけかもしれませんが、一体化が進むうちにそれが全身に――」



 ウェンディは、ハッとして言葉を途切れさせる。

 あまりに無神経な推測を口にしてしまったからだ。

 しかし、デクスターがその続きを引き継ぐ。



「全身を操られて、人間を襲うようになるのか。勇者だ聖剣士だと、言われた俺が」



 ジッと利き手を見ているデクスターは、その手に握っていた聖剣を思い出しているのかもしれない。

 なんの感情も浮かんでいない紫色の瞳が、長年のデクスターの無力感を表していた。



「まだ時間はあります。同じポーションはもう使えませんが、違う素材で同じ効果のポーションが作れないか、調べてみます。どうせなら最高級の素材を使って、魔王の核が反抗する間もなく時を逆行させる、強力なポーションのレシピを父と一緒に作ってみせます」



 励ます意味も込めて、ウェンディは明るい声を出したが、デクスターに伝わっただろうか。

 実験を仕切り直すため、今日、ウェンディは雪山を下りる。

 ひとりでこの山小屋に残るデクスターのことが、心配だった。

 早まって変な気を起こさないか、と憂慮するウェンディに、ホレイショがどんと胸を張る。



【オレの存在を忘れてもらっちゃ困るぜ。デクスターの見守りは任せろ!】

 

 そうだった、ひとりではなかった。

 もしデクスターがネガティブな思考に囚われても、陽気なホレイショがそれをひっくり返してくれるかもしれない。

 

 帰り支度を整えて、山小屋から出るウェンディを、デクスターが見送ってくれた。



「ありがとう。道中に気をつけて」

「また来ます。今度こそ、魔王の核をやっつけるポーションを、持ってきますから」

 

 ウェンディは、さよならではなく、再会を約束する言葉を選んだ。

 いよいよ帰るとなったとき、ホレイショがウェンディの肩へ、ぱたぱたと小さな羽根を動かして飛んできた。

 頼もしいホレイショは、闇の精霊の力を使って、ウェンディを雪山の麓まで連れて行ってくれるという。

 ウェンディの肩にホレイショが着地した瞬間、ぼやっと視界が揺れたと思ったら、ウェンディはホレイショと共に雪山の麓に立っていた。



「何? 今の、どうやったの? テレポートがこの世界にはあるの?」

【オレは行きたいところにパッと行けるんだ。便利だろう? お嬢ちゃんくらいなら、いつでも運んでやれるぜ】

「すごい! 絶対にその力、役に立つわ!」



 興奮するウェンディに、ホレイショもまんざらではない顔をする。

 一応、この世界には転送装置のようなものはあるが、小さな物しか送れない。

 しかも生きているものは送れないので、手紙などのやり取りに使われるのが主だった。



【本当は家まで送ってもいいんだけど、麓に馬を残しているんだろう? 次に来るときはオレが家まで迎えにいってやるから、デクスター宛てに手紙でも出してくれよ】



 ご機嫌なホレイショにそう言われて、ウェンディは甘えることにした。

 馬をここまで走らせるのも、雪山を登るのも、どうしても日数や時間がかかる。

 今はその時間を、全て研究に傾けたかった。



「助かるわ、ありがとう。……ホレイショも、デクスターさまのこと、お願いね」



 ウェンディは、最後に見た、寂し気なデクスターの表情を思い出す。

 まるで今生の別れのような、悲壮な顔をしていた。

 ウェンディは魔王の目覚める時期を知っているが、デクスターは明日にでも魔王になるかもしれないと、怯えて暮らさなくてはいけないのだ。



(二月までは大丈夫だと、伝えればよかったかな……でも、根拠を説明できないし)



 悩んだが、少しでもデクスターの心の支えになるならば、とウェンディは口を開く。



「ホレイショ、デクスターさまは二月までは魔王にはならないわ。どうしてかって聞かれたら、勘だと言っておいて。私の勘はよく当たるのだと」

【ははっ、面白いじゃん。いいよ、伝えておく。気をつけて帰れよ!】



 ホレイショの輪郭が揺らめくと、もうそこにホレイショは居なかった。

 きっとデクスターのもとへ帰ったのだ。

 そしてウェンディの言葉を伝えてくれるだろう。



「頑張ろう。絶対にデクスターさまを救うんだ。――キノコの棘は柔らかくなったし、今夜から自慰し放題だし、少しは人生に潤いを感じてくれるといいな」



 麓の村に預けていた馬を受け取り、ウェンディは王都を目指す。

 すでに頭の中は新しいレシピのことで、いっぱいだった。



 ◇◆◇



 ウェンディは帰宅するなり、さっそくダニング伯爵に実験の結果を報告する。

 デクスターに使用したポーションの順番、摂取量、掛け合わせた割合、現れた効果とその強さ。

 それらによって、デクスターにどんな変化が起きたのか、ウェンディがどんな対処をしたのか。

 さすがに、デクスターの精液を絞り取るまで手淫したくだりでは、ぎょっとした顔をされた。

 だが、ダニング伯爵も研究者だ。

 それが必要な措置だったのならば、むやみに叱ったりはしない。

 

「頑張ったんだね、ウェンディ。とっさの状況にも臨機応変に対応できるのは、錬金術士として一人前になったと言えるよ。イソギンチャク(仮)ポーションなんて、面白いじゃないか」

「お父さまは知らなかったの? デクスターさまが自慰すらできなかったって」

「知らなかったよ。ひたすら肉欲に耐えているとは聞いていたけど。下半身が蛇だと、そういう事情に悩まされるんだねえ」

 

 勉強になると言っているダニング伯爵は、ウェンディが書きつけたノートを真剣に読んでいる。



「要となるのは、時を遡るポーションだろう。ウェンディが借りた本には、他のレシピもあったよね? あれを参考にしよう」

「分かったわ。もう一度、学園の司書さんに頼んでみる」

「レンフィールド学園のいいところは、卒業生でも本が借りられる点だよね。私も久しぶりに図書室を覗いてみようかな」



 そんなことを言っていたダニング伯爵だったが、やっぱり仕事に忙殺されて、ウェンディはひとりで学園に行くはめになるのだった。
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