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35話 始まる王家の断罪
高位貴族が参列し、王族も見守る厳かな雰囲気の中、国王の前に跪き、頭を垂れるデクスター。
高齢を理由に執務から離れていた国王だったが、まだ動きはかくしゃくとし、声にも張りがあった。
「聖剣に選ばれし勇者デクスターよ、魔王討伐への尽力に感謝し、すべての民を代表して、儂より礼を述べる。よくやってくれた、ありがとう。褒賞として、ここにエインズワース侯爵位を授ける」
貴族たちの間に、どよめきが起きた。
それほど、エインズワース侯爵位というのは、数ある侯爵位の中でも屈強なのだ。
顔を上げたデクスターは、周りのざわめきを意に介さず返答する。
「光栄でございます。私が無事に成し遂げられたのは、共に戦った仲間たちのおかげです」
「あくまでも謙虚、それが敬われるに相応しい姿なのだろう。そなたのおかげで、儂もようやく目が覚めた」
そこで言葉を区切った国王は、並ぶ王族や貴族に向けて宣言する。
「儂は本日をもって退位する。そして王位継承権第二位の第一王子コーディを、後継者として指名する」
多くの息を呑む音に続けて、第二王子が声を荒らげた。
「どういうことですか! 第一位の私を飛ばして、兄上が国王になるなんて!」
そしてデクスターを指差す。
「たった今、父上から侯爵位を賜ったデクスターと共に、死闘をくぐり抜け魔王を倒したのは私ですよ? その褒賞で第一位に繰り上がったのを、お忘れですか?」
「お前が兄よりも優れていたのは、魔術だけだった。第一位であることにあぐらをかいて、どれだけの軋轢を生み出したと思っている」
「覚えがありません。私は真面目に、執務に取り組んできました」
胸を張る第二王子の姿に、国王は大きく肩を落とした。
「反省の色なしか。ではこの場で、詳らかにしよう。第二王子イアン、聖女シャーリー、王女レイチェル、それぞれの罪と罰を、儂から言い渡す」
名前を呼ばれ、聖女がびくりと体をすくませた。
堂々としていたのは第二王子と王女だけ。
「第二王子イアンは、レンフィールド王国に長く続く一夫一妻制度を、私欲のために強引に変更しようとした。そのせいで聖女との間に軋轢が生まれ、貴族たちがどちらに味方するかで対立してしまった」
「私の優秀な血を、多く残そうとした結果です。現にレイチェルは隣国で、高位魔術を会得してきました」
第二王子に褒められて、心なしかレイチェルが笑みを深める。
「そのレイチェルの教育方針についても、お前には甘さが見られる。隣国では上手くいったのかも知れぬが、我が国ではさんざんな成績で、授業態度も褒められたものではないと言う。このままでは留年するかもしれないと、学園長から前代未聞な苦言があった」
すっと、レイチェルが半歩下がる。
学園には真面目に通い出したのだろうが、まだ成績や態度について問題があるのかもしれない。
矢面に立つのが嫌で、第二王子の影に身を隠したのだろう。
「王族は敬われる存在でなくてはならない。そのために、己を厳しく律することが必要なのだ。残念ながら、お前にはそれがなかった。だから王位を譲るわけにはいかんのだ」
国王は続けて、第二王子への罰を言い渡す。
「お前はしばらく頭を冷やすがいい。ダニング伯爵によれば、ちょうどよい雪山と山小屋があるそうだ。民に顔を知られたお前でも、隠れ住めるように配慮してやろう」
それはデクスターのときと同じく、雪山に封印を施すという意味だ。
第二王子は顔面を蒼白にし、膝から崩れ落ちる。
次期国王ともてはやされていたにも関わらず、平民と見下していたデクスターと同じ生活をするのが屈辱なのだろう。
第二王子がへたり込んだ隣では、聖女がぶるぶると怯えていた。
それを見ても国王は容赦なく、次の罪人の名を告げる。
「聖女シャーリー、そなたには同情できる面もある。手のひらを返したようなイアンの態度に、どうしていいのか分からなかったのだろう。しかし、だからといって、王家の宝物庫から『特殊な素材』を盗み、勝手に使用した罪は消えない」
ダニング伯爵に媚薬ポーションを依頼する際の報酬であった『特殊な素材』は、正式な手続きを経ず、聖女によって不当に持ち出された品だった。
もちろんダニング伯爵はそれを知らず、国王へ隠すことなく報告したので、聖女の罪が明らかになったのだ。
王家の財産は、基本的には国のために使われる。
私欲に走った聖女もまた、過ちを犯した罪を償わなければならない。
「よって、治癒士として治療院へ勤め、『特殊な素材』の代価分の働きをするまでは、王族に戻ることを禁ずる」
『特殊な素材』は今や失われた素材だ。
その代価ともなれば、想像もつかない金額になる。
一介の治癒士であれば、何十年と働けど、貯まるものではないだろう。
だが、信者から信仰を集める聖女という立場があれば、まだ可能性は残されている。
それが国王からかけられた、恩情だと言えた。
聖女はその意味を正しく受け取り、国王へ向けて深く頭を下げた。
「最後に、王女レイチェルの罪だ。隣国で学んだ高位魔術を使用し、束縛した相手に無理やり媚薬ポーションを飲ませた」
レイチェルの所業を聞いた貴族たちが、ざわざわと騒ぎだす。
国王はあえて相手の名前を口に出さなかったが、レイチェルが一時期、デクスターに熱を上げていたのは知られている。
そしてその後、デクスターがレイチェルとは婚約せずに、ウェンディと結婚したことも噂になっていた。
妊婦であるため、式典の最中でも椅子への着座を許されていたウェンディへ、自然と貴族たち好奇の視線が集まる。
するとデクスターがすぐに駆け寄り、その腕の中にウェンディを囲うと、あたりへ殺意の籠ったまなざしを飛ばした。
それがまるで、ウェンディは何も悪くない、文句がある奴は俺が相手になる、と言っているようで、デクスターの不興を買いたくない貴族たちは慌てて俯くのだった。
「あまりにも愚かで傲慢、王族として恥ずべき行為だ。学園を卒業後、ただちに修道院へ入り、心根を叩き直してもらうように」
レイチェルへの罰を言い渡し、国王は座を辞した。
そこからは第一王子が進行をして、式典は幕を閉じる。
しかしウェンディには、不遜なレイチェルの態度が気になった。
国王からの処分を、意にも介さないというふうだったのだ。
(なんだか、まだ腹に一物ありそうね。これ以上、デクスターさまには絡んでこないと思うけど、用心しておきましょう)
ウェンディは自分が感じた不安を、デクスターやホレイショとも共有し、今後への万全を期した。
もう誰にも、この幸せの邪魔をされたくなかった。
◇◆◇
それからしばらくして、ウェンディの予想が当たったと言えるのか、レイチェルの周りで動きがあった。
攻略対象のひとりである隣国の王子ジレが、正式に国を通して、レイチェルとの婚約を申し込んできたのだ。
国王となった第一王子は、これを断った。
理由は、レイチェルが「王族として未熟なため、他国へは嫁がせられない」からだ。
しかしジレも諦めない。
何度かやり取りが繰り返された結果、卒業して一年間、レイチェルが大人しく修道院で過ごせたならば検討すると決まった。
レンフィールド王国側としては、苦肉の策だっただろう。
レイチェルの性根が、そうすぐに改まるとは思えない。
だが、いつまでも拒否するわけにもいかず、渋々この案を受け入れた。
【あのお姫さまが、たった一年でどうにかなるとは、誰も思ってないだろうに。アイツの匂いが臭いのも、お姫さま越しに香りを吸ってるせいだろうしなあ】
ぷかぷか浮かびながら、ホレイショが眉根を寄せる。
【それでもお姫さまは大人しいふりをして、一年後には修道院から出てくるんだろうなあ。そういうところは、頭が回りそうだもんなあ】
デクスターからはもう悪の香りは漂っていないが、自分にない勇者としての性質を持つデクスターを、ホレイショはすっかり好きになっている。
【デクスターやお嬢ちゃんになんかある前に、オレが動いてやるかな】
小さな味方が決意を固めていたことを、まだウェンディとデクスターは知らない。
高齢を理由に執務から離れていた国王だったが、まだ動きはかくしゃくとし、声にも張りがあった。
「聖剣に選ばれし勇者デクスターよ、魔王討伐への尽力に感謝し、すべての民を代表して、儂より礼を述べる。よくやってくれた、ありがとう。褒賞として、ここにエインズワース侯爵位を授ける」
貴族たちの間に、どよめきが起きた。
それほど、エインズワース侯爵位というのは、数ある侯爵位の中でも屈強なのだ。
顔を上げたデクスターは、周りのざわめきを意に介さず返答する。
「光栄でございます。私が無事に成し遂げられたのは、共に戦った仲間たちのおかげです」
「あくまでも謙虚、それが敬われるに相応しい姿なのだろう。そなたのおかげで、儂もようやく目が覚めた」
そこで言葉を区切った国王は、並ぶ王族や貴族に向けて宣言する。
「儂は本日をもって退位する。そして王位継承権第二位の第一王子コーディを、後継者として指名する」
多くの息を呑む音に続けて、第二王子が声を荒らげた。
「どういうことですか! 第一位の私を飛ばして、兄上が国王になるなんて!」
そしてデクスターを指差す。
「たった今、父上から侯爵位を賜ったデクスターと共に、死闘をくぐり抜け魔王を倒したのは私ですよ? その褒賞で第一位に繰り上がったのを、お忘れですか?」
「お前が兄よりも優れていたのは、魔術だけだった。第一位であることにあぐらをかいて、どれだけの軋轢を生み出したと思っている」
「覚えがありません。私は真面目に、執務に取り組んできました」
胸を張る第二王子の姿に、国王は大きく肩を落とした。
「反省の色なしか。ではこの場で、詳らかにしよう。第二王子イアン、聖女シャーリー、王女レイチェル、それぞれの罪と罰を、儂から言い渡す」
名前を呼ばれ、聖女がびくりと体をすくませた。
堂々としていたのは第二王子と王女だけ。
「第二王子イアンは、レンフィールド王国に長く続く一夫一妻制度を、私欲のために強引に変更しようとした。そのせいで聖女との間に軋轢が生まれ、貴族たちがどちらに味方するかで対立してしまった」
「私の優秀な血を、多く残そうとした結果です。現にレイチェルは隣国で、高位魔術を会得してきました」
第二王子に褒められて、心なしかレイチェルが笑みを深める。
「そのレイチェルの教育方針についても、お前には甘さが見られる。隣国では上手くいったのかも知れぬが、我が国ではさんざんな成績で、授業態度も褒められたものではないと言う。このままでは留年するかもしれないと、学園長から前代未聞な苦言があった」
すっと、レイチェルが半歩下がる。
学園には真面目に通い出したのだろうが、まだ成績や態度について問題があるのかもしれない。
矢面に立つのが嫌で、第二王子の影に身を隠したのだろう。
「王族は敬われる存在でなくてはならない。そのために、己を厳しく律することが必要なのだ。残念ながら、お前にはそれがなかった。だから王位を譲るわけにはいかんのだ」
国王は続けて、第二王子への罰を言い渡す。
「お前はしばらく頭を冷やすがいい。ダニング伯爵によれば、ちょうどよい雪山と山小屋があるそうだ。民に顔を知られたお前でも、隠れ住めるように配慮してやろう」
それはデクスターのときと同じく、雪山に封印を施すという意味だ。
第二王子は顔面を蒼白にし、膝から崩れ落ちる。
次期国王ともてはやされていたにも関わらず、平民と見下していたデクスターと同じ生活をするのが屈辱なのだろう。
第二王子がへたり込んだ隣では、聖女がぶるぶると怯えていた。
それを見ても国王は容赦なく、次の罪人の名を告げる。
「聖女シャーリー、そなたには同情できる面もある。手のひらを返したようなイアンの態度に、どうしていいのか分からなかったのだろう。しかし、だからといって、王家の宝物庫から『特殊な素材』を盗み、勝手に使用した罪は消えない」
ダニング伯爵に媚薬ポーションを依頼する際の報酬であった『特殊な素材』は、正式な手続きを経ず、聖女によって不当に持ち出された品だった。
もちろんダニング伯爵はそれを知らず、国王へ隠すことなく報告したので、聖女の罪が明らかになったのだ。
王家の財産は、基本的には国のために使われる。
私欲に走った聖女もまた、過ちを犯した罪を償わなければならない。
「よって、治癒士として治療院へ勤め、『特殊な素材』の代価分の働きをするまでは、王族に戻ることを禁ずる」
『特殊な素材』は今や失われた素材だ。
その代価ともなれば、想像もつかない金額になる。
一介の治癒士であれば、何十年と働けど、貯まるものではないだろう。
だが、信者から信仰を集める聖女という立場があれば、まだ可能性は残されている。
それが国王からかけられた、恩情だと言えた。
聖女はその意味を正しく受け取り、国王へ向けて深く頭を下げた。
「最後に、王女レイチェルの罪だ。隣国で学んだ高位魔術を使用し、束縛した相手に無理やり媚薬ポーションを飲ませた」
レイチェルの所業を聞いた貴族たちが、ざわざわと騒ぎだす。
国王はあえて相手の名前を口に出さなかったが、レイチェルが一時期、デクスターに熱を上げていたのは知られている。
そしてその後、デクスターがレイチェルとは婚約せずに、ウェンディと結婚したことも噂になっていた。
妊婦であるため、式典の最中でも椅子への着座を許されていたウェンディへ、自然と貴族たち好奇の視線が集まる。
するとデクスターがすぐに駆け寄り、その腕の中にウェンディを囲うと、あたりへ殺意の籠ったまなざしを飛ばした。
それがまるで、ウェンディは何も悪くない、文句がある奴は俺が相手になる、と言っているようで、デクスターの不興を買いたくない貴族たちは慌てて俯くのだった。
「あまりにも愚かで傲慢、王族として恥ずべき行為だ。学園を卒業後、ただちに修道院へ入り、心根を叩き直してもらうように」
レイチェルへの罰を言い渡し、国王は座を辞した。
そこからは第一王子が進行をして、式典は幕を閉じる。
しかしウェンディには、不遜なレイチェルの態度が気になった。
国王からの処分を、意にも介さないというふうだったのだ。
(なんだか、まだ腹に一物ありそうね。これ以上、デクスターさまには絡んでこないと思うけど、用心しておきましょう)
ウェンディは自分が感じた不安を、デクスターやホレイショとも共有し、今後への万全を期した。
もう誰にも、この幸せの邪魔をされたくなかった。
◇◆◇
それからしばらくして、ウェンディの予想が当たったと言えるのか、レイチェルの周りで動きがあった。
攻略対象のひとりである隣国の王子ジレが、正式に国を通して、レイチェルとの婚約を申し込んできたのだ。
国王となった第一王子は、これを断った。
理由は、レイチェルが「王族として未熟なため、他国へは嫁がせられない」からだ。
しかしジレも諦めない。
何度かやり取りが繰り返された結果、卒業して一年間、レイチェルが大人しく修道院で過ごせたならば検討すると決まった。
レンフィールド王国側としては、苦肉の策だっただろう。
レイチェルの性根が、そうすぐに改まるとは思えない。
だが、いつまでも拒否するわけにもいかず、渋々この案を受け入れた。
【あのお姫さまが、たった一年でどうにかなるとは、誰も思ってないだろうに。アイツの匂いが臭いのも、お姫さま越しに香りを吸ってるせいだろうしなあ】
ぷかぷか浮かびながら、ホレイショが眉根を寄せる。
【それでもお姫さまは大人しいふりをして、一年後には修道院から出てくるんだろうなあ。そういうところは、頭が回りそうだもんなあ】
デクスターからはもう悪の香りは漂っていないが、自分にない勇者としての性質を持つデクスターを、ホレイショはすっかり好きになっている。
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