【完結】乙女ゲームの推しだった勇者が続編では淫魔になっていたので、悪役令嬢に転生した私が錬金術で救ってみせます!

鬼ヶ咲あちたん

文字の大きさ
36 / 39

36話 オレの第三の眼

 デクスターが侯爵になって、数か月が過ぎた。

 エインズワース侯爵家として用意された王都の屋敷に引っ越し、そこでの生活もだいぶん慣れてきた頃、臨月だったウェンディが赤子を生んだ。

 生まれたのは女の子だったので、ふたりで決めた『キャメロン』という名前をつけた。



「黒髪に紫色の瞳、デクスターさまにそっくりですね」

「色白なのはウェンディに似ている」



 出産を終えたばかりで、まだ起き上がれないウェンディに、疲労回復用ポーションを飲ませるデクスター。

 甘く柔らかい雰囲気がふたりを取り巻いていたのだが、そこへホレイショの絶叫が響き渡る。



【うわああああ! ついに、ついに来たああああ! オレの第三の眼えええ!】



 あまりの煩さに、デクスターはホレイショを掴むと、手のひらの中に閉じ込めた。



「寝ているキャメロンを起こすつもりか」

【待ってくれ、デクスター! 赤ん坊の手の中だ! オレの、オレの念願のアレが、ついに!】



 閉じ込められても、まだジタバタと抵抗を続けるホレイショに、呆れたデクスターが戒めを解く。

 すぽんとそこから飛び出し、ホレイショはウェンディが抱いているキャメロンの小さな手を、短い指で必死に示した。



【魔王の核を握っている! お嬢ちゃん、左手の中を見てくれ!】



 ホレイショの発言に驚いたウェンディは、ぎゅっと握りしめられていたキャメロンの指を、そうっと優しく開いていく。

 すると、ホレイショの言うように、中には朝顔の種のようなものがあった。

 それは黒曜石に似た艶と輝きを放ち、とても禍々しいものには見えない。

 核を摘まみ上げたウェンディが、それを矯めつ眇めつ疑問を口にする。

 

「これが、魔王の核?」

【そうだ、間違いない! かつてデクスター越しに漂っていた香りと、そっくりだ!】

「こんなに小さいものなのね」

【ポーションのおかげだよ。昔はもっと、デクスターの中で存在感があったんだ!】

 

 興奮しているホレイショからは、歓喜のオーラが撒き散らされている。

 キラキラした眼で魔王の核を見ているホレイショへ、ウェンディはそれを差し出した。



「どうぞ、ホレイショ。ずっと欲しがっていたものね。第三の眼になるかは分からないけれど、私たち人間が持っていても、きっといいことはないわ」

「ホレイショ、約束を忘れるな。悪いことには使わない」



 デクスターに念を押され、改めてしっかり頷くと、ホレイショはウェンディから両手で核を受け取った。

 じーっと手の中の核を見つめるホレイショの口元が、嬉しさで弧を描く。



【ありがとう! 魔王の核は闇の精霊にとって、勇者の聖剣みたいなもんなんだ。よ~し、さっそく額にくっつけるぜ!】



 ぎゅっと核を眉間に押しつけ、しばらく目を瞑っていたホレイショだったが、手を離すとコロリと転がり落ちる。



【あれえ? なんでオレを主と認めてくれないんだ? ……デクスター、ちょっと力を込めて、オレの額に核をくっつけてくれよ】

「力加減の問題なのか?」



 首を傾げて訝しげにしながらも、熱心に頼むホレイショのため、デクスターはぐっと指で核を押し込んだ。



【いてててて! いや、なんだかくっついてきた気がする! オレと核との一体感、きたああああ!】

 

 万歳をしているホレイショから、デクスターが指を離しても、魔王の核は転がり落ちてはこなかった。

 

【ほらな! やっぱりデクスターの意思が必要だったんだ。魔王の核の所有権は、まだデクスターにあったんだよ。核をオレに押しつけることで、核をオレに渡すって意思表示になったんだ!】



 ひゃっほいひゃっほい、と踊るホレイショ。

 第三の眼というよりは、ただの装飾のように見えるが、それでも満足なのだろう。

 ホレイショはスキップを踏むように飛び跳ねながら、どこかへ行ってしまった。



 転送装置でキャメロンが生まれたことを知らせると、ダニング伯爵夫妻がそろってやってきて、途端にエインズワース侯爵家はにぎやかになる。



「ウェンディ、このポーションを飲むといい。産後の体に適した完全栄養補給ポーションを開発したんだ」

「ウェンディちゃん、お疲れ様でしたね。さあキャメロンちゃん、お婆ちゃんにお顔を見せてちょうだい」

 

 まだあまり目も開かず、難しそうな顔をして眠っているキャメロンを、ダニング伯爵夫妻は褒めちぎる。

 きっと将来は美人になるとか、明晰そうな眉毛をしているとか、意外とデクスター寄りで剣士になるかもしれないとか。

 さんざん騒ぎ立てた後は、潮が引くように、あっさりと帰っていった。

 どうやら初めての家族三人の夜を、邪魔しないためだったようだ。

 

「ウェンディ、ありがとう。キャメロンが生まれて、より一層、頑張る気持ちが奮い立った」

「もう十分、デクスターさまは頑張っていると思いますよ」

「魔王や魔物がいない世では、勇者はただの飾りだ。だが、それでいいと思っている。だから俺は侯爵として、キャメロンに何かを遺してやりたい」



 デクスターは、キャメロンを抱いているウェンディごと、その大きな腕で囲い込む。



「ウェンディも、キャメロンも、幸せにしたい。俺は欲張りだろうか」

「いいえ、世の中の親はみんな、子の幸せを望むものです。デクスターさまの両親も、そうだったでしょう?」

「うん。……家族っていいな。自分が親になって初めて、見える景色があった」



 その日、ウェンディとデクスターは、キャメロンを挟んで川の字になって眠った。

 夜中に何度も起きるキャメロンに、おっかなびっくり対応する新米両親のふたり。

 今は大変だが、いつかはこれも思い出話になるだろう。

 どうしていいのか分からなくて焦ったよね、なんて笑い合える日まで、ウェンディとデクスターは年を重ねていく。

 今日はその始まりの日だった。



 ◇◆◇



 少し時間が遡る。



 ホレイショは庭に出ると、魔王の核と合体したことで、自分に起きた変化を確かめていた。

 そして瞬間移動のスキルが、より自由度が高くなっているのに気づく。

 

【どれどれ、アイツに見せびらかしに行くかな。オレがこんなに急成長したと知ったら、たまげるだろうなあ】



 ウシシと笑いながら、ホレイショが瞬間移動をする。

 着いた先は、レイチェルが入れられた歴史ある修道院だった。



 ◇◆◇

 

 古びた石畳の回廊を、しずしずと歩くレイチェル。

 豪奢なドレスや装飾品をまとっていた王女時代とは異なり、質素で飾り気のない灰色のワンピースのみを身につけていた。

 この修道院で暮らして数か月。

 隣国の王子ジレと婚約するまで、あと少し我慢すればいい、とレイチェルは考えていた。

 

「こんな貧相な生活、私には似合わないわ」



 周囲に人気がないのを見計らって、レイチェルが悪態をつく。

 やはりレイチェルの性格は、そう簡単には変わらなかった。



「ジレとの婚約がまとまれば、ハリスンとミッチェルも一緒に連れて、隣国で優雅に暮らしてやる」



 片側の口角を上げ、歪んだ表情を浮かべるレイチェル。

 とてもヒロインとは思えない相貌は、ウェンディが見れば驚いただろう。



「そして勇者が魔物だと、隣国にバラしてやるわ。いまや貴重な魔物の素材は、お金を出しても見つからないんだもの。きっと喜ばれるでしょうね」



 肩を揺らし、こらえきれない嘲笑を漏らす。

 

「私を虚仮にした罰よ。生きたまま捕らえて、ずっと血液を搾り取るのもいいし、あのおぞましい蛇の尻尾の先から、少しずつ切り刻むのも捨てがたいわ」



 そして思い出したように、ぽんと手を打ち合わせる。



「そう言えば、魔物とまぐわったあの女、妊娠していたじゃない。魔物の種で孕んだのなら、腹の子にだって魔物の血が流れているはず」



 興が乗ったレイチェルの独り言は止まらない。



「獲物は多いほうがいいから、無事に生まれて欲しいわ」



 誰にも聞かれていないと思っていたレイチェルだったが、しっかりとホレイショが聞いていた。



【デクスターと赤ん坊に、危害を加えるつもりか? これは見過ごせないぜ】
感想 0

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?