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ミンス
イアノス城 帝国暦十八万七千六百五十五年立春
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夕刻、日が落ちるまで結局マジンたちの宿営の痕跡を追うものはいなかった。
日が落ちてからマジンは邪魔だった射線上の木を二本手早く切り倒した。
川を登ってゆくと時間になった。
一応無線で、やってくれ、と命ずるとしばらくして遠くの原で光がおき、心持ち僅かに服を揺らすような低い音がした。
城を僅かに飛び越える位置で爆発が起きている。
幾らか音が響く度、街道の北側の町が炎に包まれているのが遠目にも見えるようになってくる。
「いいぞ。どんどんやってくれ」
「いいの。あれ。お城に殆ど落ちていないよ」
盲撃ちでほとんど射程いっぱいで打たせている迫撃砲は、城の北側の城壁から門前にかけて爆弾をふらせ始めた。
「陽動は派手に行くのが基本だ。今回のプリマは実はキミだ。ノイジドーラ。前回の失敗を繰り返さないように慎重に手早く事をなすことを期待するよ。車は置いてゆく。城が炎に包まれるくらいが出番だ」
そう言うとマジンは城に向かって走っていった。
ノイジドーラがどういうタイミングで動き出すべきか掴みかねていると城壁の一角で明るく光が起こり大きな物が崩れる音がした。
もう一発。
更に一発。
もう一発、と音が早くなるうちに銃声が聞こえるようになってきた。
軍楽の太鼓のような、遠く響く低く軽い拍子のうちに城壁が削れてゆくのが見えた。
どれほどの敵が襲い来るのかわからぬうちに北の街は焼け南の壁は崩れた。
臆病な民草もそろそろ戦に気がついたはずで気もそぞろであるはずだし、よそものに気を回している余裕もなくなっていることだった。
あたかも亡霊の軍勢に攻め立てられているかのようにオーベンタージュ伯爵領イアノス郷は混乱に陥っていた。最初は街道の宿場の火事かと思われていた爆発は、とうとう北の城壁で爆発が起こるに至り、敵する何者かの砲撃であることがわかった。そして火点を探すべく動き始めた途端、南の城門が崩れた。敵の攻撃は夜間で射撃の照準がおこなえないままに北側を探るように砲撃を続け、ときたま南に流れ弾が飛び、と狙い不確かながらイアノス城を混乱に陥れていた。
明白なのは敵の火砲が盲撃ちで撃っているらしいこと、火点が見えず砲声が聞こえないことから長距離で見通しの良い観測点を経由している、ということだった。
北東側の丘陵地を探るべく飛び立とうとした空騎兵が射落とされたことでイアノス城はさらなる混乱に陥った。
もう一騎の空騎兵は紛れのような流れ弾で厩舎ごと押しつぶされていた。生きていても飛べはすまいと思われた。
北の宿場はパニックに陥っていた。
何かを探しあたりを見渡す間に爆発がおきていた。ときたま城塞の北門にも砲弾は降り注ぎ爆発がおきていた。比較的東側は被害がないようだが、混乱を恐れてか敵を見失ってか門が開く気配もなかった。
人々は東へ北へ城からとりあえず遠ざかるように逃げていた。というよりも砲弾の爆発から逃げるのが精一杯でどこに逃げているのか、わかっている者の方が少なかった。
北からの砲撃を囮だと看破した衛兵隊長もいた。
ならば、南かと城門を開けるや城門ごと砲撃をくらい南壁は混乱極まった。
そのうち城内で銃撃戦が始まった。
銃声は鼓笛隊の太鼓のような細かな刻みをザラリと刻み、大時代的な大盾を押し立てた者共には大剣ほどの長さもある串のような鉄の矢柄が串焼きの雀のような姿で小隊を盾ごと貫いた。
龍猪なるものも出足が止まれば、ただの獣に過ぎなかった。
成形炸薬弾頭で高温超音速の錐を脳天に喰らい、なお生きていたのは見事だが、穿たれた穴に矢が掛かれば背骨にそって肉がえぐり割かれた。
影のような軍勢が嵐のように城兵を平らげる間にソアリス・イアノス・イリノア・オーベンタージュはイアノス城中央謁見の間地下への階段を急いでいた。
入り口を固める親衛騎士と銃士隊をあざ笑うように、謁見の間の側面の控えの間の壁を爆破して賊が侵入し、銃士をなぎ払い親衛騎士を射倒し脱出路の戸口を破壊し地下道を伝って賊が追いかけてきた。
伴を二人三人と刈り倒され、灯りを失ったソアリスオーベンタージュは意識を失った。
ノイジドーラをマジンが呼び出したのは、ソアリスオーベンタージュを囚えて地上に上がってからだった。
既に迫撃砲弾は撃ち尽くしたと見えて、先程まで場外で散発的に起きていた爆発も今は止んでいた。
森林の中からのほぼ最大射程を狙った修正もなしの盲撃ちで、更には森の柔らかな表土を十分に剥がさないでおこなったかなりいい加減な砲撃はときに砲身をずらしていたが、結果として絶妙なばらつきを砲弾に与えていた。
イーゼンに心の余裕があるなら手伝いに来てくれ、とマジンが無線で伝えるとイーゼンは、そういう時は命令してくれたほうがいっそ気楽なんですがね、と苦笑交じりに応えた。
ソアリスオーベンタージュはつい先程まで手籠めにしていたミンスを放り出して逃げようとしていた。猿ぐつわをかけ両手足を縛り上げ、玉座に腰を下ろさせ、右足を鉄の矢柄で床に貫き縫い止めるとソアリスは跳ね上がるように目を覚ました。
マジンはソアリスが生きていることに満足してそのまま次の仕事に移った。
ノイジドーラにミンスの無事を確認させると足かせをされたままミンスはとりあえず生きていた。
マジンは足かせを手早く立った後にはミンスの無事より先に豚小屋の場所をノイジドーラに聞いて潜り込み、地上の喧騒も知らずにいた裸の兵士を矢柄の一振りで順番に豚の餌に変え、その場にいたすべての男を皆殺しにした。
発すべき言葉もなく暴漢はただ狭い中で細く重い矢柄を小さく振り回し、首をはね背骨をおり心臓を貫き男たちを順番に殺していった。事態に気が付き立ち直り手向かう者がいなかったわけではないが、狭い部屋の中では既に動いていた者の有利は覆せなかったし、襲撃者は全く油断なく的確に作業を進めていた。非番の兵のうち豚小屋に暇つぶしのためにいた五百人近くの兵隊が女の悲鳴が意味を持つ前に死んでいた。
地下牢に押し込められていた女達の殆どが一糸纏わず汚れた裸のまま拘束されていたのは、いまは彼女たちのためにとっても良かった。
個人の顔の識別がつかないマジンは建物内を自由に動いているものは片端から殺していた。
事態に気が付き豚小屋の戸口を抑えにかかった兵隊たちは、物音で賊に察知され爆弾付きの弓矢で隊列を乱されたところを爆砕された。
大人の二の腕ほどもある鉄扉を貫くための火薬入りの鏃のついた矢は剛弓で打ち出されると兵隊の頭を打ち砕いたあとで大きく派手に爆発した。その威力は放ったマジンが危うく巻き込まれ舌打ちして以後、城内での主兵装を機関小銃に切り替えたほどで幾つかの通路を瓦礫で使えなくした。
西門から偵察に出て空振りで帰ってきた騎兵が城内の銃声に気がついたのは、城内にあからさま過ぎる血風がみなぎっていたからだった。
それは全く通路を練り歩いて死を撒き散らした何かがいたように、つい今しがたまでの戦いの一方的な様子を伝えていた。
彼らが騎馬のまま城内を検索していたのは油断なかったことの現れだったが、彼らが伝令として事態が不明なうちにこの事態を他の拠点に報告しなかったのは慢心の表れであった。
火力と奇襲で押し通っている襲撃者側にもやることは多すぎた。
もう一つの豚小屋に潜ってこちらでも八百近い男たちを始末しなければならなかった。
結局、城内を殺戮のままに練り歩いた末に見つけることができなかったマジンは、豚小屋の女の始末をノイジドーラに押し付けて、ソアリスの猿ぐつわをはずさなければならなかった。
騒ぎ立てるソアリスを殺さないように努力しながら、ヴィオラの所在を尋ねるとソアリスは崩れかけた塔を指さし、お前らが自ら殺した、とソアリスは嘲笑った。
戸口まで自分で手がかりを作るようにして上り、分厚い扉を僅かな火薬でこじ開けると、セントーラは妊娠して明らかに弱ってはいたが、いまだに生きてはいたし、なにが起こっているのか理解している様子だった。
その後は慌ただしくはあったが簡単でもあった。
セントーラにミンスを預け、裸の女達をゾロゾロと引き連れ居館の服をあてがい、望む者は川を下る帰路に着き、馬を与え放った。家臣使用人の中には累難を恐れて後を追うようについてきた者もいる。不具のもの骨折しているものもいたが、動かせないほどのものはあの場にはもう生きていなかった。
貴族の城塞はローゼンヘン館と違って馬車の備えも馬の数も万全というより贅沢で、馬車を曳かせるのがもったいないような馬たちがそろっていた。
ともかくは、ありがたく馬と馬車と堀にあった小舟を調達し川沿いまで脱した後に船をでっち上げ、馬の馬銜を外してやると、川の流れに船を流して下っていった。
八百名ほどの新たにさらわれた女たちの中には百名余り二割に満たないくらいの亜人が含まれてもいた。
丸めて千人という貴婦人の夜中の舟遊びというのは全く珍しいことだったが、例がないわけでもなく目に止めた者達も風雅と云うには少々時期が早いと思ったが、多くは問わなかった。
ソアリスオーベンタージュは簀巻のまま女達の慰み者として、旅の手形代わりに命永らえ、川を下った。
結局、イアノス城陥落の報が届くことはなく、アブラム・イアノス・イリノア・オーベンタージュが自らの居城に戻る半月あまりの間、イアノス城の惨劇は領主の耳には届かなかった。
領主がひどく腹を立てたのは、城内の軍勢たちの健闘によって命を永らえたはずの家令執事女中たちが、なぜ領主のもとに他の城に注進に向かわなかったのか、ということだったが、彼らは目の前で起きたことを正しく説明出来るだけの理解がなかった。
主居館ではなく別館にいた彼らには夜のうちの数刻に町が焼け城が崩れたものの、寄せ手の鯨波の声も軍靴の音もなく、軍勢らしきものは見えず味方の兵ばかりが討ち倒されてゆき、ぞろぞろと豚小屋から女達が召しだされていったという光景だけが理解可能な現実だった。
当時八千名を数えていたイアノス城は瓦礫のうちから助けだされた千名あまり城下の救援に向かった千名ほどと戦闘に参加しなかった別館にいた千名ほどを除いて五千に僅かに欠ける者たちが死んでいた。
町でも二万数千が家から焼け出され二千数百が死んでいたが、既に夜も更けていたことを思えばその程度で済んだのはむしろ幸運だった。
イアノス城の悲劇と呼ばれた惨劇は豚小屋の女たちを根こそぎさらうのが目的だというところまでは、大方の理解を得たが、その主犯が皆目わからなかった。
アブラム卿としても、かつて一度は取り逃がし苦労して再びとらえたウーザフ家の生き残りをまたしても取り逃がし、跡取りであるソアリスまでも行方不明とあっては亡き妻に申し訳が立たなかった。
日が落ちてからマジンは邪魔だった射線上の木を二本手早く切り倒した。
川を登ってゆくと時間になった。
一応無線で、やってくれ、と命ずるとしばらくして遠くの原で光がおき、心持ち僅かに服を揺らすような低い音がした。
城を僅かに飛び越える位置で爆発が起きている。
幾らか音が響く度、街道の北側の町が炎に包まれているのが遠目にも見えるようになってくる。
「いいぞ。どんどんやってくれ」
「いいの。あれ。お城に殆ど落ちていないよ」
盲撃ちでほとんど射程いっぱいで打たせている迫撃砲は、城の北側の城壁から門前にかけて爆弾をふらせ始めた。
「陽動は派手に行くのが基本だ。今回のプリマは実はキミだ。ノイジドーラ。前回の失敗を繰り返さないように慎重に手早く事をなすことを期待するよ。車は置いてゆく。城が炎に包まれるくらいが出番だ」
そう言うとマジンは城に向かって走っていった。
ノイジドーラがどういうタイミングで動き出すべきか掴みかねていると城壁の一角で明るく光が起こり大きな物が崩れる音がした。
もう一発。
更に一発。
もう一発、と音が早くなるうちに銃声が聞こえるようになってきた。
軍楽の太鼓のような、遠く響く低く軽い拍子のうちに城壁が削れてゆくのが見えた。
どれほどの敵が襲い来るのかわからぬうちに北の街は焼け南の壁は崩れた。
臆病な民草もそろそろ戦に気がついたはずで気もそぞろであるはずだし、よそものに気を回している余裕もなくなっていることだった。
あたかも亡霊の軍勢に攻め立てられているかのようにオーベンタージュ伯爵領イアノス郷は混乱に陥っていた。最初は街道の宿場の火事かと思われていた爆発は、とうとう北の城壁で爆発が起こるに至り、敵する何者かの砲撃であることがわかった。そして火点を探すべく動き始めた途端、南の城門が崩れた。敵の攻撃は夜間で射撃の照準がおこなえないままに北側を探るように砲撃を続け、ときたま南に流れ弾が飛び、と狙い不確かながらイアノス城を混乱に陥れていた。
明白なのは敵の火砲が盲撃ちで撃っているらしいこと、火点が見えず砲声が聞こえないことから長距離で見通しの良い観測点を経由している、ということだった。
北東側の丘陵地を探るべく飛び立とうとした空騎兵が射落とされたことでイアノス城はさらなる混乱に陥った。
もう一騎の空騎兵は紛れのような流れ弾で厩舎ごと押しつぶされていた。生きていても飛べはすまいと思われた。
北の宿場はパニックに陥っていた。
何かを探しあたりを見渡す間に爆発がおきていた。ときたま城塞の北門にも砲弾は降り注ぎ爆発がおきていた。比較的東側は被害がないようだが、混乱を恐れてか敵を見失ってか門が開く気配もなかった。
人々は東へ北へ城からとりあえず遠ざかるように逃げていた。というよりも砲弾の爆発から逃げるのが精一杯でどこに逃げているのか、わかっている者の方が少なかった。
北からの砲撃を囮だと看破した衛兵隊長もいた。
ならば、南かと城門を開けるや城門ごと砲撃をくらい南壁は混乱極まった。
そのうち城内で銃撃戦が始まった。
銃声は鼓笛隊の太鼓のような細かな刻みをザラリと刻み、大時代的な大盾を押し立てた者共には大剣ほどの長さもある串のような鉄の矢柄が串焼きの雀のような姿で小隊を盾ごと貫いた。
龍猪なるものも出足が止まれば、ただの獣に過ぎなかった。
成形炸薬弾頭で高温超音速の錐を脳天に喰らい、なお生きていたのは見事だが、穿たれた穴に矢が掛かれば背骨にそって肉がえぐり割かれた。
影のような軍勢が嵐のように城兵を平らげる間にソアリス・イアノス・イリノア・オーベンタージュはイアノス城中央謁見の間地下への階段を急いでいた。
入り口を固める親衛騎士と銃士隊をあざ笑うように、謁見の間の側面の控えの間の壁を爆破して賊が侵入し、銃士をなぎ払い親衛騎士を射倒し脱出路の戸口を破壊し地下道を伝って賊が追いかけてきた。
伴を二人三人と刈り倒され、灯りを失ったソアリスオーベンタージュは意識を失った。
ノイジドーラをマジンが呼び出したのは、ソアリスオーベンタージュを囚えて地上に上がってからだった。
既に迫撃砲弾は撃ち尽くしたと見えて、先程まで場外で散発的に起きていた爆発も今は止んでいた。
森林の中からのほぼ最大射程を狙った修正もなしの盲撃ちで、更には森の柔らかな表土を十分に剥がさないでおこなったかなりいい加減な砲撃はときに砲身をずらしていたが、結果として絶妙なばらつきを砲弾に与えていた。
イーゼンに心の余裕があるなら手伝いに来てくれ、とマジンが無線で伝えるとイーゼンは、そういう時は命令してくれたほうがいっそ気楽なんですがね、と苦笑交じりに応えた。
ソアリスオーベンタージュはつい先程まで手籠めにしていたミンスを放り出して逃げようとしていた。猿ぐつわをかけ両手足を縛り上げ、玉座に腰を下ろさせ、右足を鉄の矢柄で床に貫き縫い止めるとソアリスは跳ね上がるように目を覚ました。
マジンはソアリスが生きていることに満足してそのまま次の仕事に移った。
ノイジドーラにミンスの無事を確認させると足かせをされたままミンスはとりあえず生きていた。
マジンは足かせを手早く立った後にはミンスの無事より先に豚小屋の場所をノイジドーラに聞いて潜り込み、地上の喧騒も知らずにいた裸の兵士を矢柄の一振りで順番に豚の餌に変え、その場にいたすべての男を皆殺しにした。
発すべき言葉もなく暴漢はただ狭い中で細く重い矢柄を小さく振り回し、首をはね背骨をおり心臓を貫き男たちを順番に殺していった。事態に気が付き立ち直り手向かう者がいなかったわけではないが、狭い部屋の中では既に動いていた者の有利は覆せなかったし、襲撃者は全く油断なく的確に作業を進めていた。非番の兵のうち豚小屋に暇つぶしのためにいた五百人近くの兵隊が女の悲鳴が意味を持つ前に死んでいた。
地下牢に押し込められていた女達の殆どが一糸纏わず汚れた裸のまま拘束されていたのは、いまは彼女たちのためにとっても良かった。
個人の顔の識別がつかないマジンは建物内を自由に動いているものは片端から殺していた。
事態に気が付き豚小屋の戸口を抑えにかかった兵隊たちは、物音で賊に察知され爆弾付きの弓矢で隊列を乱されたところを爆砕された。
大人の二の腕ほどもある鉄扉を貫くための火薬入りの鏃のついた矢は剛弓で打ち出されると兵隊の頭を打ち砕いたあとで大きく派手に爆発した。その威力は放ったマジンが危うく巻き込まれ舌打ちして以後、城内での主兵装を機関小銃に切り替えたほどで幾つかの通路を瓦礫で使えなくした。
西門から偵察に出て空振りで帰ってきた騎兵が城内の銃声に気がついたのは、城内にあからさま過ぎる血風がみなぎっていたからだった。
それは全く通路を練り歩いて死を撒き散らした何かがいたように、つい今しがたまでの戦いの一方的な様子を伝えていた。
彼らが騎馬のまま城内を検索していたのは油断なかったことの現れだったが、彼らが伝令として事態が不明なうちにこの事態を他の拠点に報告しなかったのは慢心の表れであった。
火力と奇襲で押し通っている襲撃者側にもやることは多すぎた。
もう一つの豚小屋に潜ってこちらでも八百近い男たちを始末しなければならなかった。
結局、城内を殺戮のままに練り歩いた末に見つけることができなかったマジンは、豚小屋の女の始末をノイジドーラに押し付けて、ソアリスの猿ぐつわをはずさなければならなかった。
騒ぎ立てるソアリスを殺さないように努力しながら、ヴィオラの所在を尋ねるとソアリスは崩れかけた塔を指さし、お前らが自ら殺した、とソアリスは嘲笑った。
戸口まで自分で手がかりを作るようにして上り、分厚い扉を僅かな火薬でこじ開けると、セントーラは妊娠して明らかに弱ってはいたが、いまだに生きてはいたし、なにが起こっているのか理解している様子だった。
その後は慌ただしくはあったが簡単でもあった。
セントーラにミンスを預け、裸の女達をゾロゾロと引き連れ居館の服をあてがい、望む者は川を下る帰路に着き、馬を与え放った。家臣使用人の中には累難を恐れて後を追うようについてきた者もいる。不具のもの骨折しているものもいたが、動かせないほどのものはあの場にはもう生きていなかった。
貴族の城塞はローゼンヘン館と違って馬車の備えも馬の数も万全というより贅沢で、馬車を曳かせるのがもったいないような馬たちがそろっていた。
ともかくは、ありがたく馬と馬車と堀にあった小舟を調達し川沿いまで脱した後に船をでっち上げ、馬の馬銜を外してやると、川の流れに船を流して下っていった。
八百名ほどの新たにさらわれた女たちの中には百名余り二割に満たないくらいの亜人が含まれてもいた。
丸めて千人という貴婦人の夜中の舟遊びというのは全く珍しいことだったが、例がないわけでもなく目に止めた者達も風雅と云うには少々時期が早いと思ったが、多くは問わなかった。
ソアリスオーベンタージュは簀巻のまま女達の慰み者として、旅の手形代わりに命永らえ、川を下った。
結局、イアノス城陥落の報が届くことはなく、アブラム・イアノス・イリノア・オーベンタージュが自らの居城に戻る半月あまりの間、イアノス城の惨劇は領主の耳には届かなかった。
領主がひどく腹を立てたのは、城内の軍勢たちの健闘によって命を永らえたはずの家令執事女中たちが、なぜ領主のもとに他の城に注進に向かわなかったのか、ということだったが、彼らは目の前で起きたことを正しく説明出来るだけの理解がなかった。
主居館ではなく別館にいた彼らには夜のうちの数刻に町が焼け城が崩れたものの、寄せ手の鯨波の声も軍靴の音もなく、軍勢らしきものは見えず味方の兵ばかりが討ち倒されてゆき、ぞろぞろと豚小屋から女達が召しだされていったという光景だけが理解可能な現実だった。
当時八千名を数えていたイアノス城は瓦礫のうちから助けだされた千名あまり城下の救援に向かった千名ほどと戦闘に参加しなかった別館にいた千名ほどを除いて五千に僅かに欠ける者たちが死んでいた。
町でも二万数千が家から焼け出され二千数百が死んでいたが、既に夜も更けていたことを思えばその程度で済んだのはむしろ幸運だった。
イアノス城の悲劇と呼ばれた惨劇は豚小屋の女たちを根こそぎさらうのが目的だというところまでは、大方の理解を得たが、その主犯が皆目わからなかった。
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