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64 絆されそう※

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 最初に思ったことは、「あ、暖かい」だった。

「……ビイ? もしかして痛いの?」

 人の股間を思い切り割り開いてでっかいブツをぐりぐり遠慮なく差し込もうとしている癖に、クロイスは心配そうに眉を垂らす。

「い、たく、ない……」
「泣かないで、ビイ」

 クロイスは服を着たままだから、直接肌が触れ合っているのは結合部だけだ。でも、ズブズブと押し込まれていくクロイスの剛直の熱があまりにも暖かくて、俺の目尻から勝手に涙が溢れていた。

 俺のことを好きで仕方ない人で、俺だって大好きな人の人肌の暖かさがあまりにも嬉しくて、俺は馬鹿だから幸せを感じてしまっている。

 駄目なのに。受け入れたら、クロイスはロイクに殺されてしまうのに。

 歓喜と恐怖の感情がないまぜになり、俺の気持ちをぐしゃぐしゃにしていた。やっぱり駄目だ、それにほら、俺はとうにおっさんで、クロイスはまだ若者で王子様で、俺なんかじゃつり合わないのは誰の目から見ても明らかじゃないか。

 縛られた両手でクロイスの肩を押し返した。

「クロイス、駄目だ! こんなこと、お前の未来もお前の命も全部捨てることになるから!」
「ビイがいない未来はいらないよ」

 この……! ああ言えばこう言う! いつもいつも!

 ぐぐ、とどんどん奥に進んでいったクロイスは、「これがビイの中……」と恍惚の表情で呟いた。無駄に色気を振り撒くな。ドキッとしちゃうだろうが。

 灰色の目が、妖しく光る。

「ビイの中、暖かいね」

 クロイスは上着を脱ぎ始めると、ぱさり、ぱさりと寝台の外に放り投げていった。出てきたのは、鍛えられた若者の上半身。

「ビイも全部脱がせたいけど、手首はまだ外せないなあ」
「外せよ!」
「ビイがオレに抱きつきたくなったら外してあげるよ」
「ぐ……っ」

 クロイスは縛られて服を剥かれた仰向けの俺を見て、舌舐めずりをした。おい。

「昔と全然変わってないね。むしろ必要なところの筋肉がしっかり付いていて、すごく綺麗だ」

 でたよ、若者の「昔」。おっさんを馬鹿にしてんのか。

「お前な、おっさんの身体を見て何言ってんだ」
「おっさんって誰のこと?」

 これだ。

 クロイスは俺の膝をググッと俺の方に押し倒すと、蛙みたいな体勢にされた俺を上から刺し始めた。

「――んっ!」

 ズチュンと奥まで突っ込まれた瞬間、爪先から脳天まで、一気に快感が走り抜ける。やばい、気持ちよすぎて我を忘れそうだ。腰が勝手に動きそう。動くな、頼むから動くなよ!

「ふ……っ」
「ビイ、声を我慢しなくても外には漏れないよ」

 クロイスが嫣然と微笑んだ。俺は噛み付くように答える。

「馬鹿! そういうことじゃねえ! ほら、今すぐ抜けばきっとまだ間に合うから!」
「強情だなあ」

 プチュ、プチュ、とクロイスはゆっくり長く腰を振った。と、接合部を見下ろしながら、幸せそうに笑う。

「見てよ。オレがビイの中に入ってるよ。これでもまだ間に合うと思う?」
「ぐ……っ」

 黒の下生えから起立している赤黒いクロイスの雄の動きを見せつけるように、クロイスはわざと俺に見える角度にしているらしい。うう、やばい気持ちいい。油断すると喘ぎ声が出そうなので、俺は必死で我慢した。

 あー、喘いで腕を絡めて動きに合わせて腰振って、ぐっちゃぐちゃに口づけしたい。クロイスに愛してるって言われながらガンガンに突かれたい。

 ――あ、だめだこれ絶対陥落まっしぐらじゃねえか。

 俺は必死で意識を『師匠のファビアン』に切り替えようとする。でも、元が目に入れても痛くないくらい大好きなクロイスだから、切り替えが難しい。

 だって可愛いんだよ! ここのところ格好よくなったのも嬉しかったんだよ! 何なんだ俺のこの気持ち!

 だけど俺の気持ちいいところを擦る度にゾワゾワゾクゾクきちまうし、クロイスが何となく嬉しそうに見えるのがああもう本当……こら俺、絆されるな!

 クロイスは俺を見下ろして気持ち良さそうな表情を浮かべていたけど、突然何を思ったか俺の両腕を引っ張って起こしてしまった。

 クロイスは頭を俺の腕の輪っかに通すと、俺の膝裏に腕を通して俺の腰を掴む。

 クロイスの上に跨る形になってしまった俺を、クロイスはダン! と思い切り奥まで突いた。

「んっ!」
「奥まで入るね。こっちの方が近くていいや」
「ば、馬鹿! もういい加減に――んむぅっ」

 トントンされている最中に唇を奪われた俺は、こんなの駄目だ早く退かなくちゃと焦るけど、身体はちっとも言うことを聞いてくれない。少しでも快楽を多く拾おうとして、角度を変えようとする始末だ。

「ビイ、気持ちいい?」

 は、は、と小刻みに楽しそうな息を吐かれながら尋ねられて、なんて答えりゃいいんだ。

「優しいのが好き? それとも激しい方が好き?」

 顔を背けて唇を離そうとしても、クロイスが引き寄せるから逃げられない。

 耐えろ俺、快感だと思わないで、これはロイクだと思えば――!

 そこまで考えて、俺の中に突然「絶対それだけはするな!」という俺の心の声が響き渡った。

「…… ビイ?」
「う……っ」

 ――無理だよ。だって俺の目の前にいるのはクロイスなんだから。俺、クロイスが大好きなんだよ。そういう目で見られてたのはびっくりだったけど、おかしいかもしれないけどちっとも嫌じゃなかったんだよ。

 無理やり突っ込まれてる今だってそうだ。こんなリボン、引き千切ることなんて簡単にできた。だけど俺はクロイスを悲しませたくなかったんだ。

 だって俺は、好きだって言われて、求められて嬉しいと思っちゃったんだから。

 抱かれて嬉しい。俺を好きでいてくれて嬉しい。

 ――だけどやっぱり、ロイクのことは言えない。だってあいつはクロイスの親なんだから。

「――あっ、あ、あっ」

 快楽が行き過ぎて、喘ぎ声を抑え切れなくなってくる。

 どうしよう、どうしたらいいんだよ。

 ぐるぐる考えながら、辿り着けない答えを前に、俺はただクロイスにしがみつくしかできなかった。
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