ツイノベ集

緑虫

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8 最初から受けロックオンで他は一切眼中ない鳥獣人xぽややんとしていそうで案外サバイバル能力高い人間(2023.06.30)

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交易で栄えている田舎町で薬師見習いをしている受け。

毎年春になると渡り鳥の鳥獣人の群れがきて番になり、生まれた子供が飛べる様になる秋に暖かい場所に移動する。

渡り鳥が持ち込む色んな場所の名産品を見るのが、受けの毎年の楽しみだった。

薬屋に毎回顔を出す鳥獣人の攻めがいた。

いつも傷だらけでやってきては、傷の手当てを受けにさせている。

「この俺が来てやってるんだ! 手当てしろ!」
「はいはい。あーまたこんな所に怪我して」

なんて感じの少年時代を過ごす。

そんな攻めもそろそろ番を作る年齢に。

メスの数の方が少ないので、オスはあぶれることも多い種族。

その場合オス同士で番うこともままあるらしい。受けが何気なく、

「相手は決まってるの?」

と聞くと、攻めは

「俺はいつも怪我ばかりしてるからメスには不人気なんだよ、うっせーな」

と怒る。

あ、触れちゃいけない話題だったかな、と以降は触れない様に気をつける受けだった。

でも、町に出ればどこもかしこも春真っ盛り。

あちこちで恋の駆け引きや番成立からの巣作りをしているのに、攻めは薬草を採取しにいく受けにいつもくっついていて、番探しをしている様子がない。

やっぱり心配になって聞くと、

「俺はもてないっていっただろ! うるせえな!」

と切れる攻め。

そんな風にぶっきらぼうな攻めだけど、うっかりな受けがちょっと危ない所にある薬草を取ろうとして落ちそうになると受け止めたりしてくれたりする。

実は攻めが優しいことを知っている受けは、

「まだ恋愛したくないのかな?」

なんて呑気に思っていた。

そんなある日。

師匠のお使いで薬を届けていた受け、町中で攻めの姿を見かける。

声をかけようと思ったけど、攻めの隣に女の鳥獣人がいるのを見て、

「話しかけちゃまずいかな?」

と気配を消して近付く。すると女は、

「私、攻めなら番っても……!」

なんて言っている。

「なんだ相手いるじゃん!」

とそーっとその場を離れる受け。

なんでか知らないけど胸が苦しくて、これはきっと盗み聞きしちゃった罪悪感だと自分に言い聞かせた。

その後、いつも通り店にやってきた攻め。

特に用もなくフラフラしているので、受けが、

「番が出来たんだろ? そっちに言ってやれよ」

と言ってしまう。

「は? 何言ってんだ、俺には番なんて」
「さっきたまたま見ちゃったんだ。普通にもててるじゃん、信じて心配して損しちゃったよ、あはは」

なぜか泣きそうな気分になってしまった受け。

「薬草の採取してくるから! もうついて来なくていいよ!」

と攻めを拒絶してしまう。

「ちょっと待てよ受け! お前なにか勘違いを……!」
「ついてくるなって!」

受けはずんずん山に入っていく。深い森だと、攻めは飛んで追ってくることができないからだ。

受けは脚力はあったので走っていき、攻めをまいた。

「なんで嘘つくんだよ……攻めの馬鹿」

自分の気持ちも理解できなくて奥へと進んでいる内に、魔物が多いから入っちゃ駄目って言われている場所に入り込んでしまったことに気付く。

急いで戻ろうとしたけど縄張りを荒らされたと怒る魔物に襲われ、絶体絶命の大ピンチ。

「食べられる! 意地を張らないで攻めと仲直りをしておけばよかった!」

死を覚悟した受けだったけど、いつまでたっても魔物が襲ってこない。

「あ、あれ?」

目を開けると目の前には槍を持って戦う攻めがいて、狭い場所だから羽根が邪魔になって怪我をしている。

「攻め! 危ない!」

受けは持っていた薬草を乾かして粉にしたすっごい目にしみやつをとっさに魔物に掛けると、攻めがとどめを刺した。

「大丈夫!?」
「駄目……受けがつきっきりで看病してくれないと死ぬ」
「ええ! 死なないで、攻め!」

てことで、受けが攻めを自宅で看病することに。(師匠は攻めの恋心を分かってるので色々融通してくれる)

なんだけど、攻めの怪我はけっこう酷くて、この傷じゃ番探しも子作りも無理そう。

「この怪我じゃ女は嫌がる。番探しは無理だ」

とわざと落ち込んでみせる攻め。

「えっ大変じゃないか!」
「助けて受け」
「ぼ、僕にできることなら!」

てことで、気が付けば言い包められて攻めと番っちゃう受け。

すごく幸せで「好きだなあ」と思うけど、

「これは怪我が治るまでの暫定的なもの」

とも思っていたので、受けはのめり込みすぎない様にと自分の気持ちにブレーキを掛けていた。

攻めは怪我が治っても受けと住んで、受けの仕事も手伝うように。

そして季節は秋に変わり、雛が飛ぶ練習をしているのを見かけるようになってくる。

攻めは寒さに弱いから、冬が来る前に温かい場所に移動する。

少しずつ先行組が渡っていく中、攻めはなかなか行こうとしない。

だけど寒そうにして風邪を引いちゃったりして顔色もよくない。

「また春に会おう」

攻めの体調を心配した受けは、嫌がる攻めの背中を押す。

「春までちゃんと待ってて! 絶対お前の元に帰るから!」

そう言うと飛び立った攻め。

受けは涙ながらに見送ると、仕事に没頭することで寂しさを紛らわす。

季節は過ぎ、春。

鳥獣人たちが少しずつ集まってきていると聞き、受けはまだかまだかと待っていた。

薬屋に現れた鳥獣人を見て一瞬攻めだと思った受けだけど違くて、すごい綺麗な男の鳥獣人だった。

「春になったら、攻めは俺と番うことになったんだ。もし攻めが顔を出しても、去年間違ってお前に手を出した罪悪感からだから間違えるな」

と言われる。

「飛べない人間なんて一緒にいられないって笑ってた」

とまで言われ、思い切り落ち込む受け。

それから数日して攻めがやってきたけど、受けは男に言われたことがショックすぎて攻めが話していることもよく聞こえない。

「おい、どうしたんだよ受け。折角帰ってきたのに」
「もう会いに来なくていいよ」

顔を見ると好きだと思ってしまう。だったら会わない方がいいと思って言った受けだったが、攻めが怒り始める。

「他の相手ができたのかよ!」
「そ……そうだよ」

売り言葉に買い言葉で、相手なんていないのに言ってしまう受け。

攻めは怒って出ていく。

受けは沢山泣いた後、仕事を頑張ろう、と決めた。

町に出れば、攻めと男が仲睦まじく歩いている姿を目にする。

薬草摘みにいくと、空を飛んでいる攻めの姿を探してしまう。

早く冬になってしまえと願いながら、攻めをこっそりと見続けた。

苦しい思いを抱えながら薬草を摘んでいると、ある日目の前にあの男が立っている。

「なにか用ですか」
「あんたさ、上から見える場所で薬草を摘んでるのってわざと? 攻めがあんたを見て嫌そうな顔になって機嫌が悪くなるんだよね」

そんなこと言われても、と受けが思っていると、

「じゃあ穴場に連れて行ってあげるよ」

と突然抱え上げられ、山の崖の上にポンと置き去りにされてしまう。

「薬草一杯あるでしょ?」
「そ、そうだけど」

ひとりでは帰ることの出来ない断崖絶壁に立たされた受けの前で、男は

「じゃあ一生そこで薬草とってな!」

と飛んで行く。

一方攻めは、いつもなら薬草摘みをしている受けを上空から見ている時間なのに受けが昨日も今日もいないことに気付く。

具合が悪くなったのかな、でも……と迷いながらも薬屋に行くと、血相を変えた師匠が。

「受けを見なかったか!」
「え?」

聞けば、無断で休むことなんて一度もなかった受けが昨日薬草摘みに行ったきり帰って来なかったという。

いつもの場所を探しても、受けがいない。

そこで攻めがなにか知っていないかと、攻めを探しに行くところだったという。

「大方、番のところにでも行ってるんじゃないのか」

攻めが言うと、師匠が怪訝そうな顔で受けには番なんていない、と返す。

「番が出来たのは攻めの方だろう? 綺麗な男が春にやってきて、攻めと番う予定だからと受けに言いに来た」

と師匠が言うと、

「は……? 何言ってるんだ、俺の番は受けなのに」

と驚く攻め。

きれいな男、きれいな男……と考えて、そういや少し前からなんか気付くと近くに同じ奴がいるなーと気付く攻め。

そもそも受けしか眼中にないので、男の存在すら殆ど認識していなかった。

てことで男を問い詰めることにした攻め。

攻めが話しかけると(話しかけたことなかった)喜んだ男だったけど、

「受けに何をした! あいつをどこにやった!」

と怒られて、

「ふ、ふん! あの人間は今頃どこかの山で野垂れ死にしてるよ!」

と吐き捨てる男。

「受け……!」

と攻めは飛び立ち、受けを探し回る。でもどこにもいなくて、夜が近づいてくる。

夜になると見えにくくなるので、攻めは必死で受けの名を求愛の歌に乗せて呼ぶ。

すると、遠くから受けの呼ぶ微かな声が聞こえてきた。

攻めは飛んで飛んで、切り立った崖の頂上にいる人影を発見する。

「受け! 怪我は!?」

降り立った攻めは受けを抱き締めた。

「僕は大丈夫だよ。降りられなかっただけで、雨水もあったし、僕には食べられる草が分かるからね」

受けは薬師の知識を使ってその辺の草を食べていたから、元気だった。

それにしてもどうして探してたのかと受けが尋ねると、攻めは

「あんな男が番な訳がない、自分の番はずっと受けだけ」

と経緯を説明。お互いの誤解が解けて笑い合う二人。

暗くなってしまった空を見て、

「今日はもう飛べないな」

と言う攻め。

ということで一年ぶりに愛し合って、わだかまりはなくなる。

翌朝師匠の元に戻り、師匠に相談。

それは、秋になったら攻めと一緒に受けも温かい場所へ移動したいということ。でも師匠に迷惑を掛けるから薬師はやめる……と言う受けに、師匠は

「◯◯の辺りでしか採れない希少な薬草があるんだがなあ」

とにやりと笑う。

「◯◯には昔わしが修行していた家があってなあ~」

受けが可愛くて仕方ない師匠、至れり尽くせりで夏季はこっち、冬季は◯◯で薬師をやればいい、と薬師見習いから見習いの字を外す。

攻めは

「群れと一緒にいなくてもいい。中にはそういう奴もけっこういる」

とあっさりとしたものだった。

「受けがいれば俺はいいんだ」

と言う攻めに、受けは大号泣。

秋になり、荷物を背負った二人が旅立つ。

時には攻めが受けを抱えて空を飛び、時には受けと一緒に歩き、二人は晩年まで行き来を繰り返しつつ幸せに暮らしましたとさ。
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