異世界転移して岩塩を渇望していたらイケメン冒険者がタダでくれたので幸せです

緑虫

文字の大きさ
12 / 21

12 高鳴り

しおりを挟む
 廊下を歩きながら、風呂に入っているローランさんにユージーンさんが声を掛ける。

「親父、俺たち寝るから! おやすみ!」
「ローランさん、おやすみなさい」
『おー! 早く寝るんだぞー』

 くぐもったローランさんの声が返ってきた。いつもより沢山飲んでいたからか、声がかなり眠そうだった。

 なんとなく僕の部屋に向かおうとしたら、「俺の布団の方が広いから」という理由でユージーンさんの部屋に招き入れられる。

 言われるがままに奥側に横になると、ユージーンさんはごく自然に手前側に横向きに寝転んだ。

 三角の肘枕をすると、興味津々なことがありありと分かる表情で「ん」と僕を急かす。こういうところも子供みたいで、なんだか可愛い。思っていることが顔に出る素直な人なんだろうと思う。

「じゃあイクト、異世界にいた時のイクトのことを教えて」

 あれ? 異世界の話じゃなくて、僕の話? と思ったけど、確かに漠然と異世界の話をしろと言われても僕だって答えにくい。国がいくつあってとか文明がどうだとかいう話を始めたら、間違いなくひと晩じゃ終わらなくなるだろうし。

 僕のつたない話で分かってもらえるかは不安が残る。だけどユージーンさんはキラキラした目で待っているし、冒険者だから曖昧な情報を聞いて回って集めることもあるだろうし……と、話を始めることにした。

「ええと……そんな楽しい話じゃないかもしれませんけど」
「いーの。これまでイクトがどうやって生きてきたのかを教えて?」
「じゃ、じゃあ、」

 促されるまま、僕は自分が元の世界でどう暮らしていたのかを語り始めた。義務教育があることや魔法の代わりに様々な文明の利器があることを話すと、ユージーンさんは「すげー!」と感動しながら「それで? それで?」とどんどん話題を引き出す。

 そのお陰だろう。自発的に喋るタイプではないのに、気が付けばあまり言うつもりのなかった母さんの病気の話や死別の話までしてしまっていた。

 料理をするようになったきっかけも、それこそ言う予定がなかった学校でのいじめのことも、ユージーンさんが「イクトは頑張ったんだな」とか「そいつらを殴ってやりたいよ」とか優しい感想ばかり挟むから、聞かれるがままに全部喋った。

 でも、いじめの発端になった「恋愛対象が男性」なことだけは、どうしても言えなかった。それを知ったローランさんとユージーンさんがサーッと潮が引くように距離を置く未来を想像したら、口が裂けても言える筈がない。

 僕の秘密がばれても、僕は異世界人でローランさんは監督者のままだ。きっとこの先簡単に離れるなんてことは許されない筈だから、ローランさんと息子のユージーンさんに居心地が悪い思いをさせたくはない。

 母さんの葬儀が全部終わり、あの世界に何も未練がないと思ったまま寝たらいつの間にか異世界に来ていたことも話した。ユージーンさんはハッと息を呑んだ後、無言で僕の頭を抱き寄せ撫でる。

 子供扱いされてるのかなって思わなくもなかったけど、暫く鼻をすすっていたから、もしかしたら涙ぐんでしまった顔を見られたくなかっただけなのかもしれない。

 正直、ベッドの上で抱き合うのってどうなのとは思った。ユージーンさんは格好いいし、優しくて明るい性格も好ましくて、今日会ったばかりだというのにどうしたって意識してしまうじゃないか。

 僕があれこれ経験済みだったら、もしかしてこの状況を「ラッキー」くらいには思えたかもしれない。でも、お世話になっている人の息子さんを邪な目で見ちゃさすがに駄目だろう。

 それに僕は――自分の性癖は、今度こそ誰にも漏らさないで生きていこうって決めたから。

 ユージーンさんの距離の近さは、犬猫に対する可愛がりと近いものがあるんじゃないか。そう、きっとそうだ。だからこれは彼にとって、何気ない色気なんてないこと。

 そんな風に必死で冷静になろうと努めた。

 いつもより大分早い僕の心臓の音が、どうかユージーンさんに聞こえていませんようにと祈りながら。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。

音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。 親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて…… 可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

処理中です...