13 / 21
13 目標
しおりを挟む
大分しばらくしてから、ユージーンさんが顔を上げた。ゆるりとだけど、彼の腕に包まれたままだ。
「ごめん。……じゃあこっちに来てからは?」
ユージーンさんの声は、少し掠れていた。
「泉で寝ていたら兵隊さんに連れて行かれて、あれこれ聞かれた後はローランさんに引き合わせてもらいました」
初対面のユージーンさんにこうもあっさり深い話をしてしまったのは、ユージーンさんの反応が感情豊かで、かつ年が近くて気安いこともあったのかもしれない。
そう、きっとだからだ。
本音がぽろりと漏れてしまったのは。
「母さんを亡くしてから、正直何を目標に生きていったらいいか分からなくなってたんです」
「イクト……」
青い目が、悲痛そうに揺れる。
「でも、今日ユージーンさんが色んな話をしてくれて……」
しまった、こんなつまらない話は聞きたくないかも。
どうしよう……と言い淀んでいると、ユージーンさんが囁き声で促してきた。
「……うん。聞いてるよ。聞かせて」
ユージーンさんの柔らかい声に、勇気をもらう。腕に包まれた安心感も相まって、続きの言葉がするすると出てきた。
「僕、こっちの世界の色んな味を知りたいなって思ったんです」
「うん」
「それで、お世話になってるローランさんやユージーンさんに美味しいって言って笑ってもらいたいなって……。目標、というにはあれかもしれないですけど……へへ」
老若男女や善人悪人を問わず、どんな人だって美味しいものを食べたらきっと笑顔になる。僕はいまいち覇気も足りないし異世界で偉業を成すような逞しさもきっと持ってないけど、どんな人でも笑顔になれるお手伝いができたら嬉しいなって思ったんだ。
ユージーンさんが、潤んだ瞳で至近距離から僕を見つめる。
「ぐっときた……なにこの尊さ……てゆーかキュンてきた、俺の心臓は今日鷲掴みにされっ放しだ」
小声でぶつぶつ言ってるからよく聞き取れないけど、どうしたんだろうか。
「ユージーンさん?」
すぐ近くにあるユージーンさんの顔を見上げる。ユージーンさんは何だか切羽詰まったような表情をしていた。あ、もしかしてトイレかな。
「……イクト」
これまでにない真剣そのものの声色に、どきりとする。
「は、はい?」
「俺がイクトの願いを叶えてみせるから」
「へ……っ」
「嘘じゃない、本気だ」
「は、はあ……?」
調味料を一緒に探してくれるってことだろうか。それは願ったり叶ったりなので、よく分からないまま曖昧に頷く。
するとそれを見たユージーンさんはパアアッ! と笑顔に変わり、僕のおでこにチュッとキスを落とした。――えええっ!?
「ユ、ユージーンさん!?」
「イクトもイクトの夢も俺が守るから」
「え、あの、」
「こうなったら片時も目を離せないな……よし、このまま寝よう!」
僕の脳みそが状況判断できずにフリーズしている間に、ユージーンさんは僕に腕枕をしてきゅっと抱き寄せ僕の首まで布団をかける。
当たり前のように囁く。
「おやすみイクト」
「へ……っお、おやすみなさい……?」
え、このままここで寝るの? 嘘だろう、心臓がドキドキして痛くて寝られなさそう。
そう、思っていたのに。
ユージーンさんの温かい腕の中は優しくて、なんだかホッとしてしまい。
次に目を開けると、窓の外から朝日が差し込んでいた。
視線を感じ、そちらを何気なく見る。
「純粋だった俺のイクトが、ユージーンに汚されてしまった……!」
部屋の入り口で、ローランさんがムンクのあの有名な絵画みたいなポーズをとっていた。
「ごめん。……じゃあこっちに来てからは?」
ユージーンさんの声は、少し掠れていた。
「泉で寝ていたら兵隊さんに連れて行かれて、あれこれ聞かれた後はローランさんに引き合わせてもらいました」
初対面のユージーンさんにこうもあっさり深い話をしてしまったのは、ユージーンさんの反応が感情豊かで、かつ年が近くて気安いこともあったのかもしれない。
そう、きっとだからだ。
本音がぽろりと漏れてしまったのは。
「母さんを亡くしてから、正直何を目標に生きていったらいいか分からなくなってたんです」
「イクト……」
青い目が、悲痛そうに揺れる。
「でも、今日ユージーンさんが色んな話をしてくれて……」
しまった、こんなつまらない話は聞きたくないかも。
どうしよう……と言い淀んでいると、ユージーンさんが囁き声で促してきた。
「……うん。聞いてるよ。聞かせて」
ユージーンさんの柔らかい声に、勇気をもらう。腕に包まれた安心感も相まって、続きの言葉がするすると出てきた。
「僕、こっちの世界の色んな味を知りたいなって思ったんです」
「うん」
「それで、お世話になってるローランさんやユージーンさんに美味しいって言って笑ってもらいたいなって……。目標、というにはあれかもしれないですけど……へへ」
老若男女や善人悪人を問わず、どんな人だって美味しいものを食べたらきっと笑顔になる。僕はいまいち覇気も足りないし異世界で偉業を成すような逞しさもきっと持ってないけど、どんな人でも笑顔になれるお手伝いができたら嬉しいなって思ったんだ。
ユージーンさんが、潤んだ瞳で至近距離から僕を見つめる。
「ぐっときた……なにこの尊さ……てゆーかキュンてきた、俺の心臓は今日鷲掴みにされっ放しだ」
小声でぶつぶつ言ってるからよく聞き取れないけど、どうしたんだろうか。
「ユージーンさん?」
すぐ近くにあるユージーンさんの顔を見上げる。ユージーンさんは何だか切羽詰まったような表情をしていた。あ、もしかしてトイレかな。
「……イクト」
これまでにない真剣そのものの声色に、どきりとする。
「は、はい?」
「俺がイクトの願いを叶えてみせるから」
「へ……っ」
「嘘じゃない、本気だ」
「は、はあ……?」
調味料を一緒に探してくれるってことだろうか。それは願ったり叶ったりなので、よく分からないまま曖昧に頷く。
するとそれを見たユージーンさんはパアアッ! と笑顔に変わり、僕のおでこにチュッとキスを落とした。――えええっ!?
「ユ、ユージーンさん!?」
「イクトもイクトの夢も俺が守るから」
「え、あの、」
「こうなったら片時も目を離せないな……よし、このまま寝よう!」
僕の脳みそが状況判断できずにフリーズしている間に、ユージーンさんは僕に腕枕をしてきゅっと抱き寄せ僕の首まで布団をかける。
当たり前のように囁く。
「おやすみイクト」
「へ……っお、おやすみなさい……?」
え、このままここで寝るの? 嘘だろう、心臓がドキドキして痛くて寝られなさそう。
そう、思っていたのに。
ユージーンさんの温かい腕の中は優しくて、なんだかホッとしてしまい。
次に目を開けると、窓の外から朝日が差し込んでいた。
視線を感じ、そちらを何気なく見る。
「純粋だった俺のイクトが、ユージーンに汚されてしまった……!」
部屋の入り口で、ローランさんがムンクのあの有名な絵画みたいなポーズをとっていた。
26
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。
音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。
親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて……
可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる