14 / 21
14 幸せな時間
しおりを挟む
それからというもの、ユージーンさんはトイレとお風呂以外はほぼ僕の隣にいるようになった。
ちょっとセンチメンタルになるような話をしちゃったから、気を遣ってくれているんだと思う。余程僕が寂しがっていると思われたのか、毎晩同じ布団で寝ようと誘われている。さすがにそれは拙いんじゃないかと思ったけど、考えてみればユージーンさんにとって僕は犬か猫のようなものだ。
「だって可愛がりたいだろ?」と言われたら、「そういうものなのかもな」と確かに納得できた。なので、以降大人しくユージーンさんの腕の中で寝ている。
こっちの世界は仲がいいとこうやってくっついて寝るのが常識だよと言われたら、そうなのかと思うしかない。それにユージーンさんは僕より体温が高いので、ほかほかで寝られるのが実は気に入っていたりして。
ユージーンさんの貴重な自由時間を奪ってしまって悪いなあとは思う。でもローランさんの一歩引いて見守ってもらえているような感じとは違って、ユージーンさんの「一緒に楽しむ」立ち位置が僕にとっては新鮮で、単純に嬉しかった。
なんだか自分がユージーンさんの特別になった気持ちになれたから。
市場に一緒に行けば、これまで用途不明だった物をひとつひとつ説明してくれたりする。僕の質問にユージーンさんが答えられないと、周りの人に尋ねてくれたり一緒に調べたりしてくれた。
答えが分かると、「俺たちひとつ賢くなったな!」なんて満面の笑みを向けられて――好きになるなって方が無理な話だ。
ユージーンさんの隣にいると、これまでは穏やかなパステル調だった世界が原色に輝いて見えることに気付いたんだ。この世界でもこんなにワクワクできたんだと思う度、ユージーンさんから離れ難くなる。
いつものように二人並んで市場を歩いていると、ユージーンさんが小さな出店に並ぶ商品を指差す。
「イクト! あれは食べたことあるか?」
「いえ。というか、それって食べ物だったんですね?」
手作り石鹸かなあとなんとなく予想していたオレンジ色をした四角い物体を、ユージーンさんがパッと買ってきた。僕の口許に近付けると、にっこりと笑う。
「じゃあまずは情報なしに試食だな。ほらイクト、あーんして」
すっかり慣れてしまった「あーん」に条件反射的に口を開けると、ぱくりと口に含んだ。……甘い。柑橘系の果汁が入ってるのか、仄かな酸味と蜂蜜らしき甘味が口の中に広がった。もちもちとした食感は、膨らまなかった失敗パウンドケーキに似ている。でも美味しい。素朴なお菓子って感じだ。
しばらく飲み込めなくてもぐもぐしている僕を、ユージーンさんが目を弓形に細めながらじっと見つめている。
僕が新しいものを食べる時、ユージーンさんはよくこの表情をした。……貧相な筈の顔を見られる度、毎回心が乱されてしまう。ユージーンさんは人の顔を凝視するのは、ただの癖なのに。
「かわ……やば」
「?」
何か付いてるのかな、と口元に手を伸ばした。と、ユージーンさんが先に僕の頬に手を当てる。
「じっとして」
「は……はい」
親指で下唇をなぞられると、ユージーンの親指に食べかすが付いていた。あ、やっぱり付いてたんだ。それを躊躇なく舌で舐め取ったユージーンさんが、にこやかに尋ねる。
「……美味しいか?」
「は、はい」
ドギマギしてしまって、思わず目を逸らした。……顔、赤くなってないかな。こういう時こそ、何か話題だ。ええと――。
「こ、これって何からできてるんですか?」
「ん? これの材料はな――」
そんな風に、表情をくるくる変えながら、僕になんでも教えてくれる優しくて格好いいユージーンさん。
僕の心臓は、ユージーンさんの笑顔を見る度に高鳴っていった。
こっちの世界では絶対恋なんてしないと決めてたのに、気がつけばいつもユージーンさんを目で追っている自分がいる。
ユージーンさんと目が合うだけで幸せだった。
勿論男同士だから、僕がユージーンさんに惹かれつつあるなんて、口が裂けても言えない。だけど思ってしまったんだ。こんなに幸せな気持ちになれるなら、想うだけなら許されないだろうか、と。
だけど、とうとう恐れていた日は訪れてしまった。
ちょっとセンチメンタルになるような話をしちゃったから、気を遣ってくれているんだと思う。余程僕が寂しがっていると思われたのか、毎晩同じ布団で寝ようと誘われている。さすがにそれは拙いんじゃないかと思ったけど、考えてみればユージーンさんにとって僕は犬か猫のようなものだ。
「だって可愛がりたいだろ?」と言われたら、「そういうものなのかもな」と確かに納得できた。なので、以降大人しくユージーンさんの腕の中で寝ている。
こっちの世界は仲がいいとこうやってくっついて寝るのが常識だよと言われたら、そうなのかと思うしかない。それにユージーンさんは僕より体温が高いので、ほかほかで寝られるのが実は気に入っていたりして。
ユージーンさんの貴重な自由時間を奪ってしまって悪いなあとは思う。でもローランさんの一歩引いて見守ってもらえているような感じとは違って、ユージーンさんの「一緒に楽しむ」立ち位置が僕にとっては新鮮で、単純に嬉しかった。
なんだか自分がユージーンさんの特別になった気持ちになれたから。
市場に一緒に行けば、これまで用途不明だった物をひとつひとつ説明してくれたりする。僕の質問にユージーンさんが答えられないと、周りの人に尋ねてくれたり一緒に調べたりしてくれた。
答えが分かると、「俺たちひとつ賢くなったな!」なんて満面の笑みを向けられて――好きになるなって方が無理な話だ。
ユージーンさんの隣にいると、これまでは穏やかなパステル調だった世界が原色に輝いて見えることに気付いたんだ。この世界でもこんなにワクワクできたんだと思う度、ユージーンさんから離れ難くなる。
いつものように二人並んで市場を歩いていると、ユージーンさんが小さな出店に並ぶ商品を指差す。
「イクト! あれは食べたことあるか?」
「いえ。というか、それって食べ物だったんですね?」
手作り石鹸かなあとなんとなく予想していたオレンジ色をした四角い物体を、ユージーンさんがパッと買ってきた。僕の口許に近付けると、にっこりと笑う。
「じゃあまずは情報なしに試食だな。ほらイクト、あーんして」
すっかり慣れてしまった「あーん」に条件反射的に口を開けると、ぱくりと口に含んだ。……甘い。柑橘系の果汁が入ってるのか、仄かな酸味と蜂蜜らしき甘味が口の中に広がった。もちもちとした食感は、膨らまなかった失敗パウンドケーキに似ている。でも美味しい。素朴なお菓子って感じだ。
しばらく飲み込めなくてもぐもぐしている僕を、ユージーンさんが目を弓形に細めながらじっと見つめている。
僕が新しいものを食べる時、ユージーンさんはよくこの表情をした。……貧相な筈の顔を見られる度、毎回心が乱されてしまう。ユージーンさんは人の顔を凝視するのは、ただの癖なのに。
「かわ……やば」
「?」
何か付いてるのかな、と口元に手を伸ばした。と、ユージーンさんが先に僕の頬に手を当てる。
「じっとして」
「は……はい」
親指で下唇をなぞられると、ユージーンの親指に食べかすが付いていた。あ、やっぱり付いてたんだ。それを躊躇なく舌で舐め取ったユージーンさんが、にこやかに尋ねる。
「……美味しいか?」
「は、はい」
ドギマギしてしまって、思わず目を逸らした。……顔、赤くなってないかな。こういう時こそ、何か話題だ。ええと――。
「こ、これって何からできてるんですか?」
「ん? これの材料はな――」
そんな風に、表情をくるくる変えながら、僕になんでも教えてくれる優しくて格好いいユージーンさん。
僕の心臓は、ユージーンさんの笑顔を見る度に高鳴っていった。
こっちの世界では絶対恋なんてしないと決めてたのに、気がつけばいつもユージーンさんを目で追っている自分がいる。
ユージーンさんと目が合うだけで幸せだった。
勿論男同士だから、僕がユージーンさんに惹かれつつあるなんて、口が裂けても言えない。だけど思ってしまったんだ。こんなに幸せな気持ちになれるなら、想うだけなら許されないだろうか、と。
だけど、とうとう恐れていた日は訪れてしまった。
32
あなたにおすすめの小説
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる