世界樹の贄の愛が重すぎる

緑虫

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48 代表集結

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 ファトマさんの手前、逃げられたと思われると拙い。

「悪いけど鍵は閉めていくからね、時折様子を見にくるから!」

 と言い残し、ニッシュさんは守り人たちを説得する為に村の中心へと駆け戻って行った。

「説得……できますかね?」
「さて、半々といったところだろうな。ここでのアレの立場は決して高くない」

 ワドナンさんが、やれやれとばかりに肩を竦める。ユグの話をしたら動揺していたけど、それ以外となるとワドナンさんはとても落ち着いていて、つい慌ててしまう僕からみたらとても頼りがいがあった。言い方はキツイけど。

 先程は僕がニッシュさんに伝えようとして、ワドナンさんに止められた。何かしら理由があっての静止だと思って慌てて止めたけど、ニッシュさんに気付かれてないかヒヤヒヤした。

「ワドナンさん、どうして僕がニッシュさんに言おうとしたのを止めたんですか?」

 ワドナンさんは、険しい表情を寝ている足許の二人に向けたまま、あっさりと答える。

「あいつは慌てると余計なことまで口に出す。ファトマを止められるという確約がない状態で、あの子の生存を知られるのは拙いからな」
「……殺そうとする可能性がある、と?」
「ああ。『贄』としてな。元々ファトマはあの子を早く『贄』にさせたがっていた」

 嫌な気持ちになりながらも、僕は頷いた。

「ユグに聞きました。ユグが『贄』として捧げられるきっかけは、ローニャさんがシュバクくんを身籠ったからだって」
「……何故あそこまで声を聞くことに拘るのか、俺には分からん」

 忌々しげに、吐き捨てるようにワドナンさんが言った。

「自分の弟の後には、自分の血を分けたたったひとりの子供を差し出す? どういうつもりか」
「それこそ、ワドナンさんが言っていたものの可能性はないですか?」
「どれだ?」

 ワドナンさんが訝しげな目を僕に向ける。

「……世界の覇者になりたいと思っているとしたら」

 睨むようなワドナンさんの黄金色の瞳に怯みそうになったけど、逸らしたって意味はない。じっとワドナンさんを見つめていると、ワドナンさんはハアー、と長い息を吐いてヨルトの横にしゃがみこんだ。

「俺が一向に族長にならないことに痺れを切らしたのだろう。血縁者は世界樹の声を聞き、古代語も引き継ぐからな。ローニャだけが古代語を学んでいるのも面白くないのかもしれない」

 そうか、ローニャさんは長老の孫だから、当然古代語も学んでいるのか。

 次期族長と言われた父は一向に声が聞こえず、年月だけが経つ。伴侶のローニャさんが産んだ子供のシュバクくんも、もしかしたら少しは聞こえるのかもしれない。

 本来は聞こえる筈だったのに、家族の中で聞こえないのは自分だけ。矜持の高そうなファトマさんにとって、その事実は耐え難かったのかもしれないと思った。

「本音は分からんが、ファトマはあの子を弟として見てはいなかったように見えた。これで生きていることが知れたら、躊躇なくあの子を殺そうとするだろうな」
「く……っ」

 悔しくて唇を噛み締めていると、ワドナンさんが僕を見上げる。静かな目だった。

「俺はファトマに後を継がせたいとは思わない。ファトマは危険すぎる」

 ふ、と笑う。

「だから、声を聞く手段はファトマ以外が知っていればいい。それが先程俺がお前を止めた理由だ」
「ワドナンさん……」
「さ、こいつらを起こすぞ。その上でお前が知ったことを元に作戦を練ろう」
「――はいっ!」

 下ろされる前に縄を解いてもらっていたので、扉が閉まっている以外は僕らはほぼ自由だ。力のあるヨルトやマナが扱えるドルグを起こせば、いざとなればここから出ることも可能だろう。

「じゃあ、僕はドルグを起こしますね!」
「俺はこっちのでかい方を起こそう」
「お願いします!」

 すやすやと寝ているヨルトとドルグを起こしにかかる。まずは猿ぐつわを外し、手足を縛り付けている縄を解いた。

「ドルグ、起きて! ドルグ!」

 だけど、揺すってもちっとも反応がない。

「ワドナンさん、この状態って大丈夫なんですか!?」
「使われているのはそうキツイものではない。せいぜいが数刻眠るだけだ。ただ単に寝不足だったんじゃないか」

 ワドナンさんの言い方はあっさりとしたものだった。うん、じゃあ頑張って起こし続けよう。

 ワドナンさんの言葉を信じて、ワドナンさんはヨルトを、僕はドルグを揺すりに揺すった。

「起きてー! 一大事だよ! 大変なことになってるよ!」

 あまりにも起きなくて口をむにゃむにゃして微笑んでいるドルグを見て、少し苛ついたのはここだけの話だ。

 耳元に口を近付け、怒鳴る。

「ドルグ! 起きてよ!」
「ううーん……アーウィン、可愛いです……」
「何の夢見てるのさ! ――ああもう! ドルグ! 起きないと嫌いになるよ!」

 と言った瞬間、ドルグがガバリと起き上がった。目が大きく見開かれていて、ちょっと怖い。

「嫌いになるなんて言わないで下さい!」
「あ、聞こえてたの? ――ワドナンさん、ヨルトは起きましたか?」

 ワドナンさんはぶすっとした顔のまま、首を横に振る。ヨルトは自由になった手で呑気に胸元をガリガリと掻いている。本当にただ寝ているだけだな、これ。

 すると、欠伸をひとつしたドルグが「私に任せて下さい」と言うなり、手のひらをヨルトに向けた。旋律のようにしか聞こえない古代語を唱えると、突然どこからともなく現れた水がヨルトの顔面にザバァッ! 落ちる。

 うん、これは起きるな。

「ブハアッ! な、なんだ!?」
「おはようございます、ヨルト」
「ヨルト、起きた!」
「マナとは便利なものだな……」

 驚いた顔で飛び起きたヨルトの周りを囲んだ。

「寝起き早々で悪いんだけど、一大事なんだ。今から僕が話すことを聞いた上で助けてほしい」

 真剣な顔で伝えると、ヨルトとドルグはこくりと頷いてくれた。
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