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2 グイード
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俺、ほっかほか。
目を覚まして最初に思ったことだ。
俺の家の布団はさ、もうかなり草臥れてぺらっぺらなんだよ。冬は激さむだし、何だったら春でも肌寒い。冷気が布団を通して伝わってくるぺらぺら具合って言えば伝わるかな。
で、この温かさ。そこから導き出される答えは――俺は家以外の布団に寝かされてるってことだ。
しかも、妙に肌触りがもふもふしている。まるで毛皮に包まれているかのような心地よさ。
「ふふ……えへへ……気持ちいいなあ……」
半分寝ぼけながら、俺の身体の前にある、中心が棒みたいに硬くて周りがもふもふした物を抱き寄せた。あっれー? なんかパタパタ動いてない? えー、まさか死んじゃった愛犬の太郎が迎えに来てくれてんのかな? へへ……なんかいいなそれ……。
「太郎……寂しかったんだぞ……」
すると。
「タロウとは誰のことだ」
……ん? 男の人の声が、頭の上あたりから聞こえてきた。低くて若めな印象の涼やかな声だ。あれ、太郎じゃない? ならどこの子だろう。
「――ふわああ……っ」
大きな欠伸が出る。すっごいよく寝た気がした。ぽかぽかが気持ちよくて、頭が覚醒を拒否してる。だけどもしかして、この声の主って俺を助けてくれた人なんじゃないか。挨拶とお礼はちゃんとしなさいと亡き両親に教えられた俺は、抵抗する瞼を必死で開いた。
半分開いた瞼の先に最初に見えたのは、黒に近い焦げ茶の毛皮だ。あ、やっぱり毛皮に包まれてたのか。なんてふわふわ。今すぐ瞼を閉じて顔面を擦り付けて満喫したいところだけど、ここは我慢だ。
「言葉を喋っていたようだが、オレの言葉は分かっているか?」
「ふえ……?」
オレってどなた? まだ頭がぼんやりしていて、働いてない。
俺は自分がしっかと身体の前で抱き締めている物を、じっくり眺めた。鬼の棍棒くらいありそうな大きさのこれは――やっぱり尻尾だよな。
もふもふな尻尾が、パタパタと忙しなく動いている。動いているってことはつまり生きてるってことで、この大きさから考えると俺を包んでいるこの毛皮は――。
いやまさかな、と思いながら、ゆっくり顔を上げていく。もっふもふの、他の場所よりも少し色素が薄い犬っぽい顎の毛が見えた。マズルっていうの? すらっと伸びた口と鼻は、シベリアンハスキーっぽい。
「犬……」
なんだろうけど、頭が異様にでかい。というか、よく見たらこの犬自体がとんでもなくでかい。犬の前足に腕枕してもらって腹の前に寝そべっているらしい俺の身体が、丸くなっている犬の身体にすっぽり覆われているじゃないか。
「うわ、でっかー」
キラキラした金色の目が、俺をじっと見下ろしている。なんだろう、守られてる感が半端なくて、不思議と恐怖心は起きない。まあ俺は犬の太郎を飼ってた経験があるし、目を見れば動物とだってなんとなく心が通じ合えると思ってる派だからな!
すると、犬が口を開いた。
「犬じゃない」
「へ?」
あれ? 今犬が喋ったように聞こえたんだけど。いやまさかそんなこと、ねえ。
キョロキョロと周囲を見渡しても、ちょっとした洞穴らしきところの床に落ち葉を敷き詰めた上に犬と寝ているってこと以外、情報は得られなかった。人の影は見当たらない。
再び、犬が口を開く。
「……やはりオレの言葉を理解していないのか? 意味のある言葉を喋ってはいるようだが」
小さく首を傾げる犬。
「え、あの、言葉は分かるけど……え、今喋ったのってどなたですか?」
「オレ以外に誰がいる」
べろん、と長い舌が俺の頬を舐めていった。うひゃ、擽ったい!
「いやだって犬が喋る訳ないし」
俺の言葉に、犬がハア、と溜息を吐く。
「……犬ではないと言っているだろう。オレは狼だ。狼のグイードという」
犬――いや、狼って言った? 狼ってこんな大きさだっけ? という疑問は残っているものの、金色の瞳から感じられる知性のせいか、やっぱり怖くはない。
……神様っぽい奴の言う通り、俺がかなりの動物好きなせいが多分にあると思う。ていうかさ、普通憧れない? 大きな犬の背中に乗って野山を駆け回るとか、子供の時に一度は想像したよね? ね?
ちなみに俺が飼ってた太郎は、雑種だ。中型犬で、若干メタボ体型になってはきていたけどお茶目で元気な可愛い奴だった。
アイツの病院の帰り、両親が乗っていた車が事故に遭い、家族全員が一気にこの世からいなくなった。その時、太郎の背中に二人とも乗って一緒に天国に行ったのかなって考えて、気持ちを紛らわせたりしたもんだ。
散歩中もちっとも言うことを聞かない奴だったから、天国に辿り着くまでに散々寄り道して母さんに「太郎、こら!」て怒られて、父さんに「まあまあ、太郎は楽しいんだよなあ」って甘やかされてるんだろうなって想像すれば、涙と一緒にではあったけど、ちゃんと笑えた。
太郎は、そういう明るい奴だったんだ。俺が後追いするほど追い詰められなかったのは、太郎を筆頭とした家族の根明によるものだと思っている。
とここで、俺は素朴な疑問を口にした。
「狼って喋るの?」
「喋らない狼は出会ったことがない。まあ同族の姿は暫く見かけていないが」
「狼って喋るんだ……知らなかった」
さすがに嘘じゃね? と俺の中の常識が言っているけど、でも確かに先程から声は狼の口から聞こえてきている。あ、でもここってもしかしてやっぱり異世界だったりする? それなら犬、じゃないや狼が喋る世界があっても不思議じゃないかもしれない。
グイードと名乗った狼が、スンスンと俺の首の匂いを嗅ぐ。
「お前は何者だ? 頭にしか毛が生えていない種族など見たことがない。耳の形から見るに、変種の猿か?」
狼に変種の猿って言われた何とも言えない気持ちは、狼に変種の猿って言われた奴にしか分からないかもしれない。
「俺は人間だよ。人間」
「ニンゲン? 聞いたことがないな。こんな警戒心のない生き物は見たこともない」
胡散臭そうに俺をじろじろ見るグイード。警戒心がなくて悪かったな。ちょっとムカつく。
だけどそこで、ふと俺は神様っぽい奴に言われたことを思い出したんだ。
「そういや、真っ白い場所で勝手に喋ってた奴が言ってたかも」
「真っ白い場所? 勝手に喋ってた奴? 意味が分からん」
「俺もさっぱりなんだけどさ、言われたんだよ。人間は俺ひとりだって」
「なるほど……?」
二人して、首を傾げた。
目を覚まして最初に思ったことだ。
俺の家の布団はさ、もうかなり草臥れてぺらっぺらなんだよ。冬は激さむだし、何だったら春でも肌寒い。冷気が布団を通して伝わってくるぺらぺら具合って言えば伝わるかな。
で、この温かさ。そこから導き出される答えは――俺は家以外の布団に寝かされてるってことだ。
しかも、妙に肌触りがもふもふしている。まるで毛皮に包まれているかのような心地よさ。
「ふふ……えへへ……気持ちいいなあ……」
半分寝ぼけながら、俺の身体の前にある、中心が棒みたいに硬くて周りがもふもふした物を抱き寄せた。あっれー? なんかパタパタ動いてない? えー、まさか死んじゃった愛犬の太郎が迎えに来てくれてんのかな? へへ……なんかいいなそれ……。
「太郎……寂しかったんだぞ……」
すると。
「タロウとは誰のことだ」
……ん? 男の人の声が、頭の上あたりから聞こえてきた。低くて若めな印象の涼やかな声だ。あれ、太郎じゃない? ならどこの子だろう。
「――ふわああ……っ」
大きな欠伸が出る。すっごいよく寝た気がした。ぽかぽかが気持ちよくて、頭が覚醒を拒否してる。だけどもしかして、この声の主って俺を助けてくれた人なんじゃないか。挨拶とお礼はちゃんとしなさいと亡き両親に教えられた俺は、抵抗する瞼を必死で開いた。
半分開いた瞼の先に最初に見えたのは、黒に近い焦げ茶の毛皮だ。あ、やっぱり毛皮に包まれてたのか。なんてふわふわ。今すぐ瞼を閉じて顔面を擦り付けて満喫したいところだけど、ここは我慢だ。
「言葉を喋っていたようだが、オレの言葉は分かっているか?」
「ふえ……?」
オレってどなた? まだ頭がぼんやりしていて、働いてない。
俺は自分がしっかと身体の前で抱き締めている物を、じっくり眺めた。鬼の棍棒くらいありそうな大きさのこれは――やっぱり尻尾だよな。
もふもふな尻尾が、パタパタと忙しなく動いている。動いているってことはつまり生きてるってことで、この大きさから考えると俺を包んでいるこの毛皮は――。
いやまさかな、と思いながら、ゆっくり顔を上げていく。もっふもふの、他の場所よりも少し色素が薄い犬っぽい顎の毛が見えた。マズルっていうの? すらっと伸びた口と鼻は、シベリアンハスキーっぽい。
「犬……」
なんだろうけど、頭が異様にでかい。というか、よく見たらこの犬自体がとんでもなくでかい。犬の前足に腕枕してもらって腹の前に寝そべっているらしい俺の身体が、丸くなっている犬の身体にすっぽり覆われているじゃないか。
「うわ、でっかー」
キラキラした金色の目が、俺をじっと見下ろしている。なんだろう、守られてる感が半端なくて、不思議と恐怖心は起きない。まあ俺は犬の太郎を飼ってた経験があるし、目を見れば動物とだってなんとなく心が通じ合えると思ってる派だからな!
すると、犬が口を開いた。
「犬じゃない」
「へ?」
あれ? 今犬が喋ったように聞こえたんだけど。いやまさかそんなこと、ねえ。
キョロキョロと周囲を見渡しても、ちょっとした洞穴らしきところの床に落ち葉を敷き詰めた上に犬と寝ているってこと以外、情報は得られなかった。人の影は見当たらない。
再び、犬が口を開く。
「……やはりオレの言葉を理解していないのか? 意味のある言葉を喋ってはいるようだが」
小さく首を傾げる犬。
「え、あの、言葉は分かるけど……え、今喋ったのってどなたですか?」
「オレ以外に誰がいる」
べろん、と長い舌が俺の頬を舐めていった。うひゃ、擽ったい!
「いやだって犬が喋る訳ないし」
俺の言葉に、犬がハア、と溜息を吐く。
「……犬ではないと言っているだろう。オレは狼だ。狼のグイードという」
犬――いや、狼って言った? 狼ってこんな大きさだっけ? という疑問は残っているものの、金色の瞳から感じられる知性のせいか、やっぱり怖くはない。
……神様っぽい奴の言う通り、俺がかなりの動物好きなせいが多分にあると思う。ていうかさ、普通憧れない? 大きな犬の背中に乗って野山を駆け回るとか、子供の時に一度は想像したよね? ね?
ちなみに俺が飼ってた太郎は、雑種だ。中型犬で、若干メタボ体型になってはきていたけどお茶目で元気な可愛い奴だった。
アイツの病院の帰り、両親が乗っていた車が事故に遭い、家族全員が一気にこの世からいなくなった。その時、太郎の背中に二人とも乗って一緒に天国に行ったのかなって考えて、気持ちを紛らわせたりしたもんだ。
散歩中もちっとも言うことを聞かない奴だったから、天国に辿り着くまでに散々寄り道して母さんに「太郎、こら!」て怒られて、父さんに「まあまあ、太郎は楽しいんだよなあ」って甘やかされてるんだろうなって想像すれば、涙と一緒にではあったけど、ちゃんと笑えた。
太郎は、そういう明るい奴だったんだ。俺が後追いするほど追い詰められなかったのは、太郎を筆頭とした家族の根明によるものだと思っている。
とここで、俺は素朴な疑問を口にした。
「狼って喋るの?」
「喋らない狼は出会ったことがない。まあ同族の姿は暫く見かけていないが」
「狼って喋るんだ……知らなかった」
さすがに嘘じゃね? と俺の中の常識が言っているけど、でも確かに先程から声は狼の口から聞こえてきている。あ、でもここってもしかしてやっぱり異世界だったりする? それなら犬、じゃないや狼が喋る世界があっても不思議じゃないかもしれない。
グイードと名乗った狼が、スンスンと俺の首の匂いを嗅ぐ。
「お前は何者だ? 頭にしか毛が生えていない種族など見たことがない。耳の形から見るに、変種の猿か?」
狼に変種の猿って言われた何とも言えない気持ちは、狼に変種の猿って言われた奴にしか分からないかもしれない。
「俺は人間だよ。人間」
「ニンゲン? 聞いたことがないな。こんな警戒心のない生き物は見たこともない」
胡散臭そうに俺をじろじろ見るグイード。警戒心がなくて悪かったな。ちょっとムカつく。
だけどそこで、ふと俺は神様っぽい奴に言われたことを思い出したんだ。
「そういや、真っ白い場所で勝手に喋ってた奴が言ってたかも」
「真っ白い場所? 勝手に喋ってた奴? 意味が分からん」
「俺もさっぱりなんだけどさ、言われたんだよ。人間は俺ひとりだって」
「なるほど……?」
二人して、首を傾げた。
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