17 / 46
17 天気は俺の気分
しおりを挟む
その日の残りは、ずっとベッドに横になって過ごした。
宝珠の効果のお陰か、夜にはかなり回復していた。だけど元気になったのがバレちゃったら、エリンが止めてくれたとしても強引に部屋の外に連れ出されるかもしれない。なんせ獣王は有無を言わさず俺を拘束、拉致した張本人だ。この先の扱いが丁寧なものになるなんて楽観的な考えはしたら危険だってことくらい、単細胞の俺にだって分かった。
それに俺は、人攫いの獣人と馴れ合う気はない。だから「まだ具合がよくない」と主張して、せいぜいか弱い神子をアピールすべくベッドの住人になっていた。エリンには悪いけど、エリンにも体調が戻ったことは極力言いたくなかった。油断した隙に逃げられる機会があるかもしれないから、チャンスはひとつだって潰したくなかったんだ。
翌日になって例の宰相の使いが来て「是非ご挨拶を」と言ってきた。だけど俺が無言でふるふると首を横に振ると、エリンははっきり「神子様はお会いできません」と断ってくれた。獅子族に対して尊敬の念ってもんなんてなさそうなのは何となくだけど伝わってきたので、これは安心材料のひとつになった。
食事もベッドの上で取り、ひたすらゴロゴロする。布団に包まって雨の音を聞いていると、グイードにすっぽり包まれながら聞いた雨が地面を叩く優しい音が思い出されて、涙が滲んできた。
元の世界ですり減りながら生きてきた俺を、「変種の猿」と呼びながらも守ってくれていたグイード。両親と太郎を一度に失って以来、あんなに幸せ一杯に安心して過ごせたのは初めてのことだった。
俺が何者であろうとまるっと受け入れてくれた心優しい彼は今、何を思い、何をしてるんだろう。今はとにかく、俺が無事でいることを一秒でも早く伝えてあげたかった。
グイードがちょっとばかり興奮してしまってあれれな感じにはなっちゃったけど、あのせいで俺が出ていったと思ってないかな。そりゃまあびっくりはしたけど、言ってみれば生理現象だし。グイードがやっちまったって思ってるのは間違いないから、早く安心させてあげたい。あんなことでグイードと距離を置きはしないって。俺はやっぱりグイードの隣にいたいんだって。
「グイード……」
用意された部屋には壁一面の大きな窓が付いていて、ベランダに出られる仕様になっていた。窓の向こう側に見える景色は、一面の灰色。見事な土砂降りだ。
ベッドに横になりながら雨をぼんやりと眺めている俺を見て、エリンが目尻をそっとエプロンの端で拭った。
「神子様、お可哀そうに……」
エリンの話だと、俺がこっちの世界に来たくらいからずっと、時折小雨はあっても基本的には穏やかな晴天が続いてたらしい。俺がワイルドなスローライフを送って毎日もふもふー! て言いながらグイードにじゃれついてた期間のことだろう。
だけど、昨日俺が目覚めてから天候ががらりと変わって、突然大雨が降り始めたんだって。エリンは「神子様が狼族のお方と引き離され嘆き悲しんでおられるのが伝わり、心が痛いです」って言ってた。気候が穏やかに整うのは何となく分からなくはないけど、え、まさかその日の天気も俺の気分に左右されるの? どんだけ凄いんだよ、宝珠の効果。
俺の感情がダダ漏れでプライバシーゼロな天気だけど、いいこともあった。俺の気分が全然晴れてないアピールができるんだよな。現に、食い下がる大臣の使いに「神子様のご心痛は天候を見れば一目瞭然でしょう。お引き取り下さい」ってエリンも言えてたから、是非とも今後も同じ理由で断ってほしい。
ちなみに、部屋に閉じこもっていても生活になんら問題はなかった。貴賓室なのか、風呂もトイレも完備。久々に川の水じゃない風呂に入れたのは悪くはなかった。悔しいけど。
トイレはすっかりオープンエアに慣れ切っていたので、照準を合わせるのがちょっと懐かしく思った。自分で土を掘り起こして被せる手間暇がかからないのも、まあ楽っちゃ楽だ。
ちなみにやっぱりボットンでした。終わったら樽から手桶で水を汲んで、中に水を流すタイプ。エリンが流してくれるって言ったけど、俺はその役目を絶対に譲らなかった。無理だから。人に見られるって絶対ないよね、うん。
昨晩の内に、エリンは帝国騎士団に所属しているお兄さんに約束通り話を聞いてくれていた。
「獣王様が真っ先に神子様の元へ向かいすぐさま保護されたので、狼族と会うことはなかったと申しておりました」
「保護じゃないよね、拉致だよね?」
「……申し訳ありません」
エリンを責めたい訳じゃないけど、俺にだって言い分はある。足が二本見えたなーと思った瞬間に襲われたんだぞ。おかしいだろ、お前らのところの獣王。
「それでご相談なのですが」
急に真面目な顔になったエリンが、寝転がっている俺の横に来てしゃがみ込み、顔を近付けて声を潜める。
「なに?」
よく分からないながらも、俺も声を潜めた。こういうのってついやっちゃうよね。何でだろう?
「正直なところ、城務めばかりの私では外の状況をいまいち把握できないのです。お恥ずかしながら、帝都の外に出たこともなくて……」
「へー、そうなんだ。で?」
「ですので、もし神子様がお許しになられるのであれば、直接兄をこちらに呼んだ上でお話しされた方が早いかと思いまして」
「……お兄さんて誰の味方?」
つい批難めいた口調で尋ねると、エリンは慌てた様子で胸の前で両手をブンブン振った。
宝珠の効果のお陰か、夜にはかなり回復していた。だけど元気になったのがバレちゃったら、エリンが止めてくれたとしても強引に部屋の外に連れ出されるかもしれない。なんせ獣王は有無を言わさず俺を拘束、拉致した張本人だ。この先の扱いが丁寧なものになるなんて楽観的な考えはしたら危険だってことくらい、単細胞の俺にだって分かった。
それに俺は、人攫いの獣人と馴れ合う気はない。だから「まだ具合がよくない」と主張して、せいぜいか弱い神子をアピールすべくベッドの住人になっていた。エリンには悪いけど、エリンにも体調が戻ったことは極力言いたくなかった。油断した隙に逃げられる機会があるかもしれないから、チャンスはひとつだって潰したくなかったんだ。
翌日になって例の宰相の使いが来て「是非ご挨拶を」と言ってきた。だけど俺が無言でふるふると首を横に振ると、エリンははっきり「神子様はお会いできません」と断ってくれた。獅子族に対して尊敬の念ってもんなんてなさそうなのは何となくだけど伝わってきたので、これは安心材料のひとつになった。
食事もベッドの上で取り、ひたすらゴロゴロする。布団に包まって雨の音を聞いていると、グイードにすっぽり包まれながら聞いた雨が地面を叩く優しい音が思い出されて、涙が滲んできた。
元の世界ですり減りながら生きてきた俺を、「変種の猿」と呼びながらも守ってくれていたグイード。両親と太郎を一度に失って以来、あんなに幸せ一杯に安心して過ごせたのは初めてのことだった。
俺が何者であろうとまるっと受け入れてくれた心優しい彼は今、何を思い、何をしてるんだろう。今はとにかく、俺が無事でいることを一秒でも早く伝えてあげたかった。
グイードがちょっとばかり興奮してしまってあれれな感じにはなっちゃったけど、あのせいで俺が出ていったと思ってないかな。そりゃまあびっくりはしたけど、言ってみれば生理現象だし。グイードがやっちまったって思ってるのは間違いないから、早く安心させてあげたい。あんなことでグイードと距離を置きはしないって。俺はやっぱりグイードの隣にいたいんだって。
「グイード……」
用意された部屋には壁一面の大きな窓が付いていて、ベランダに出られる仕様になっていた。窓の向こう側に見える景色は、一面の灰色。見事な土砂降りだ。
ベッドに横になりながら雨をぼんやりと眺めている俺を見て、エリンが目尻をそっとエプロンの端で拭った。
「神子様、お可哀そうに……」
エリンの話だと、俺がこっちの世界に来たくらいからずっと、時折小雨はあっても基本的には穏やかな晴天が続いてたらしい。俺がワイルドなスローライフを送って毎日もふもふー! て言いながらグイードにじゃれついてた期間のことだろう。
だけど、昨日俺が目覚めてから天候ががらりと変わって、突然大雨が降り始めたんだって。エリンは「神子様が狼族のお方と引き離され嘆き悲しんでおられるのが伝わり、心が痛いです」って言ってた。気候が穏やかに整うのは何となく分からなくはないけど、え、まさかその日の天気も俺の気分に左右されるの? どんだけ凄いんだよ、宝珠の効果。
俺の感情がダダ漏れでプライバシーゼロな天気だけど、いいこともあった。俺の気分が全然晴れてないアピールができるんだよな。現に、食い下がる大臣の使いに「神子様のご心痛は天候を見れば一目瞭然でしょう。お引き取り下さい」ってエリンも言えてたから、是非とも今後も同じ理由で断ってほしい。
ちなみに、部屋に閉じこもっていても生活になんら問題はなかった。貴賓室なのか、風呂もトイレも完備。久々に川の水じゃない風呂に入れたのは悪くはなかった。悔しいけど。
トイレはすっかりオープンエアに慣れ切っていたので、照準を合わせるのがちょっと懐かしく思った。自分で土を掘り起こして被せる手間暇がかからないのも、まあ楽っちゃ楽だ。
ちなみにやっぱりボットンでした。終わったら樽から手桶で水を汲んで、中に水を流すタイプ。エリンが流してくれるって言ったけど、俺はその役目を絶対に譲らなかった。無理だから。人に見られるって絶対ないよね、うん。
昨晩の内に、エリンは帝国騎士団に所属しているお兄さんに約束通り話を聞いてくれていた。
「獣王様が真っ先に神子様の元へ向かいすぐさま保護されたので、狼族と会うことはなかったと申しておりました」
「保護じゃないよね、拉致だよね?」
「……申し訳ありません」
エリンを責めたい訳じゃないけど、俺にだって言い分はある。足が二本見えたなーと思った瞬間に襲われたんだぞ。おかしいだろ、お前らのところの獣王。
「それでご相談なのですが」
急に真面目な顔になったエリンが、寝転がっている俺の横に来てしゃがみ込み、顔を近付けて声を潜める。
「なに?」
よく分からないながらも、俺も声を潜めた。こういうのってついやっちゃうよね。何でだろう?
「正直なところ、城務めばかりの私では外の状況をいまいち把握できないのです。お恥ずかしながら、帝都の外に出たこともなくて……」
「へー、そうなんだ。で?」
「ですので、もし神子様がお許しになられるのであれば、直接兄をこちらに呼んだ上でお話しされた方が早いかと思いまして」
「……お兄さんて誰の味方?」
つい批難めいた口調で尋ねると、エリンは慌てた様子で胸の前で両手をブンブン振った。
173
あなたにおすすめの小説
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる