魔窟で死にそうだったので最後にお願いをしてみました【改稿版】

緑虫

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2 減っていくパーティーメンバー

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 セルゲイが食われて、パーティーは残り四人になった。

 これは拙いんじゃないかと話し合った結果、一旦魔窟の外へ出ることにした。戦力が欠けてしまった以上、ぎりぎりで戦っていたパーティーがこのまま無事でいられる保証はどこにもない。

 だけど次々に襲い掛かってくる魔物と戦っている内に、パーティーは更に奥へ追いやられてしまった。

 次にやられたのは、シーフのアレクだった。

 アレクは全身黒尽くめの目つきの鋭い寡黙な男だ。だけど、花のように笑うエリザベータと話している時だけは、彼の雰囲気が和らぐのをみんな知っていた。

 魔物との攻防を続けている内に、魔窟の奥深くに真っ黒く禍々しい気を放つ魔法の門が開かれているのを発見する。

 どうやらここが、魔物の異常発生の原因なんじゃないか。門の近くに、光り輝く剣が転がっているのが見える。更に観察してみると、門の手前にある台座が朽ちているのが分かった。

 エリザベータが、得たり顔で頷く。

「劣化で台座が崩れたことで聖剣が倒れてしまって、封印していた魔界の入り口が開いちゃったのね!」
「さすがエリザベータ、鋭い観察眼だ」

 アレクが感心したように言った。

 みんなだってすぐに分かっただろうに、エリザベータに花を持たせたかったのかな――。

 どこか冷めた気持ちで、キリルは思った。勿論、そんなことはおくびにも出さず。

 原因が分かれば、後は簡単だ。台座に聖剣を突き立てて周りを固めて倒れないようにすれば、パーティーは英雄になれる。

 だけど台座はかなり高い位置にあって、身軽な人間じゃないと登れない。発見した自分がやると言い張るエリザベータをキリルに託したアレクは、身軽さを活かしあっさりとその場に到着すると、剣を深々と台座に差し込んだ。もう崩れないようにと周囲を土で盛り踏んで固めたところで、怪しげな昏い光を放つ門が徐々に閉じていく。

「これで大丈――」

 門に背中を向けたアレクは、きっと最期まで何が起きたか分かっていなかっただろう。

 門が光を失う直前、大きな毛むくじゃらの手が伸びてきた。手はアレクの身体を鷲掴みにすると、閉じかけている門の中に引き摺り込んでいく。

 魔物の手が中に消えた直後、まだ身体が半分こちら側に残っていたアレクが二つにされる瞬間を、キリルは見てしまった。

 門の閉鎖と同時に、アレクの下半身が地面にドチャリと落ちる。吹き出す鮮血と、ぴく、ぴく、という微かな身体の動きが、キリルに吐き気をもたらした。

 口許を押さえて、必死に戻すのを堪える。ルスランも、似たような状態だった。

 ――だけど、キリルにくっついている女は違った。

「ああ、アレク……!」

 涙を浮かべながらキリルに縋り付くエリザベータの頬が僅かにだけど上がったのを見て、キリルは「やっぱり……!」と怖気を覚える。と同時に、この女は自分がやると言えばアレクが代わるって分かってやった癖に、と苛ついた。

 知っている。元々エリザベータは、筋肉隆々の男は好みじゃない。だから筋肉隆々なパーティーメンバーの男たちがいくらエリザベータにすり寄っても、意味はなかった。

 エリザベータは嬉しそうにしながらも、本心では一切興味なんて持っていなかったんだから。

 幼馴染のキリルに白魔道士の職業を薦めたのも、当時まだ幼く美童と評判だったキリルがムキムキになるのを阻止する為だった。

 それでもやがて少しずつ背が伸び青年となったキリルを、エリザベータは可愛い可愛いと傍から離さなかった。この魔窟に入るまでは、夜な夜な夜這いをされては、その強い魔法でキリルの身体の自由を奪い、全身を弄んだ。

 意識がはっきりしてくるのは、いつも勝手に上に乗って腰を振りまくるエリザベータにイかされた後。

 ゾッとした。地獄だと思った。こんなこと、凌辱以外のなにものでもない。

 もうやめよう、どんなに俺を抱こうが弄ぼうが、俺はエリザベータには惹かれない――。何度も伝えたけど、無駄だった。

 エリザベータのキリルに対する執着は、異常だった。

 エリザベータは、美しい。だから人に褒められるのが常だったし、チヤホヤされるのが当たり前だった。でもそれが故にあまりにも自己中心的で、自分とはまた別の美しさを持っていたキリルに相手にされなかったことに、彼女の傲慢な矜持が刺激されたんだろう。

 周りの男たちはみんな、エリザベータを女神のように敬う。エリザベータとどうにかなりたいなどと烏滸がましいことは考えず、エリザベータが構い続けるキリルに対し、もっと優しく接してやれと諭してきたりもした。

 余計なお世話だった。キリルが毎晩のようにエリザベータに弄ばれていることなんて知らない癖に。好きでもない相手に好き勝手されて、キリルの精神は限界に近かったのに。

 そんな中、ルスランだけはキリルに何も言わなかった。街の宿屋で朝を迎えて人目のある場所でぐったり椅子にもたれるキリルの横までくると、何故か突然キリルの金髪を見て「俺の金髪とは色味が違うな」とつっけんどんに言った。

 ――こいつは、エリザベータに優しくしろとは言わないんだな。

 それが、ルスランに興味を覚えるきっかけだった。

 エリザベータとキリルの仲は半ば公然で、健気に追いかけるエリザベータと冷たいキリルの構図になっている。

 エリザベータが可哀想だ。そんなことを言われても、傲岸不遜なエリザベータの本性を知っているキリルは、どうしてもエリザベータを好きになんてなれなかった。

 毎晩、知らない間に犯される屈辱。このままこの女から逃げられないなら、いっそ死にたいとすら思った。

 実際に、行動に移してもみた。だけど失敗した。キリルの行動を知ったエリザベータは、キリルの腹部に魔法の刻印を刻んだ。死のうとすると、キリルの白魔法が発動してキリルを生かしてしまう刻印を。

 本来であればそこまで困らない技なので、自身に自己回復の刻印を刻む白魔道士は多い。だからみんな、キリルの腹に似たような刻印があっても怪しまなかった。

 解除方法は、エリザベータが解除するか死ぬしかない。自分の人生は終わったんだ、とキリルは絶望した。

 だけど。

 絶望が続く日々の中、ルスランだけはキリルにエリザベータの話をしてこなかった。

 だからだろうか、気付けばキリルはルスランの横にいるようになった。無愛想なルスランだけど、話してみれば気のいい奴だ。事ある毎に、「お前はもうちょっと食え」とか色々心配してくれる。

 くすぐったくて、心が温かくなった。

 これが純粋な思いやりというものなんだ――。これまで、粘着質な呪いとすら言えるエリザベータの愛情しか知らなかったキリルは、次第にルスランに惹かれていった。

 だけど結局、ルスランだってエリザベータの表の顔に騙されて惚れ込んでいる。エリザベータと衝突はするものの、やり過ぎたと思うと後で謝罪する場面を何度も目撃していたから、間違いないだろう。

 結局はみんな、エリザベータだけが好きなんだ――。

 キリルに親切なのも、エリザベータにいい奴だと思われたいから。邪推すると、虚しさに襲われた。

 それでも毎晩、エリザベータはやってきてはキリルを好きに扱う。

 無限に続く地獄に、気が狂いそうになっていた。
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