魔窟で死にそうだったので最後にお願いをしてみました【改稿版】

緑虫

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1 『魔の森』の魔窟

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 王都から少し離れた平和なこの地域が、隣接する『魔の森』から出てくる大量の魔物に襲われ始めてはや数ヶ月。

 命も生活も脅かされ続け、人々の恐怖は限界に近付いていた。

 このままでは、街が滅びてしまう――。

 街の代表者らは王都に助力を求めると同時に、多額の資金を投入し、ギルドに調査依頼を申し込んだ。

 幾人もの冒険者たちがしらみつぶしに『魔の森』一帯を調査した結果、ポッカリ空いた穴の奥深くに広がる魔窟が原因らしい、と突き止める。

 王都では魔物の討伐隊が編成され、現在こちらに向かっている最中らしい。できれば討伐隊の到着を待ちたいところだが、到着まではまだ日数がかかる。

 ――悠長になど待っていられない。討伐隊が来るまで街の被害が拡大するのを指を咥えて見ていられないところまで、状況は差し迫っていた。

 ギルド連盟は苦渋の決断を下し、冒険者の中でも選りすぐりのパーティーを先行で送り込んでいく。

 だが、魔物のあまりの強さに、殆どの冒険者たちは生還することなく魔物の餌食と化していった――。



 そして、ここにも崩壊が始まったパーティーがひと組。

「エリザベータ! 死ぬな、死んでは駄目だっ!」

 悲痛な叫び声を上げているのは、剣士のルスランだ。逞しい彼の腕の中でぐったりしているのは、彼が密かに惚れていた美しきエリザベータ。

 エリザベータの身体は魔物に食われ、半分が欠損している状態だった。吹き出す鮮血で汚れるのも厭わず、地面に膝を突いたルスランは、彼女の欠けた身体に泣き縋っている。

 悲しみに暮れるルスランの背中を見て、白魔道士のキリルは同情せざるを得なかった。できることなら、最期の別れをきちんとさせてあげたい。でも可哀想だけど、もう言わないといけない。

「ルスラン、ここは危ないよ……残念だけど、エリザベータとはここで別れるしか……!」

 パーティーメンバーの死を次々目の当たりにして、キリルの身体だって震えていた。いずれは自分もみんなと同じように食われて死ぬんじゃないかという恐怖に、今にも押し潰されそうになっている。

 ……それと同時に、身体の奥深くに歓喜の感情がチラリと覗いている自覚があった。

「エリザベータ……ああ、ああああーっ!」

 エリザベータの目線は、ルスランの背後――キリルに向けられている。

「……っ」

 キリルは唇を噛み締めると、何ひとつ見落とすまいと、星空のように輝やかしいと褒め称えられた瞳を半ば睨むように見つめ返した。



 エリザベータは、パーティーの紅一点だ。明るく美しく聡明なエリザベータに他の男たちが嬉々として従う中、無愛想且つ照れ屋で素直じゃないルスランはいつも反発していた。だけど、どう見てたってエリザベータに気があるようにしか見えない。

 好きなら言っちゃえばいいのに。そうしたら諦めもつくだろうに。

 キリルはいつもそう思いながら、ルスランの背中をただ眺めていた。同じ熱さの目で自分を見てくれたらいいのに、と願いながら。

 キリルが所属しているパーティーの崩壊は、不幸と偶然、それと慢心から起きた。

 魔窟の入り口付近は、他の冒険者たちの犠牲のお陰か、弱い魔物しかいなくて楽勝だったのだ。

 これは案外いけるんじゃないか、魔物が湧く原因を突き止めてこれ以上の被害を阻止したら俺たちは英雄だな。そんな風に笑い合いながら、奥に進んだ。

 よせばよかったんだ。だけど、パーティーの中心人物である黒魔道士のエリザベータが、明るくパーティーメンバーを励まし、調子に乗らせてしまった。

 最初にやられたのは、武曽のセルゲイだった。

 高い信仰心と極めた体術、大人の分別を持つ、突っ走りがちで血気盛んなパーティーの方向修正を行なう重要人物。

 まだ年若く美しいエリザベータが、突然襲ってきた魔物に噛みつかれそうになった。その時セルゲイは咄嗟にエリザベータと自分の位置を入れ替え、自分の身体を魔物に喰わせたのだ。

 魔物に屠られながら自分を見て泣くエリザベータを見たセルゲイは、満足そうな表情を浮かべていた。

 皆、知っていたんだ。恋愛がご法度とされてる武曽のセルゲイが、若きエリザベータに心底惚れ込んでいたことを。
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