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27 宿へ
キーニが言っていた換金とは、キーニが背負っていた革袋に詰められていた鮮やかな織物を市場で売ることだった。
これは、キーニの住む集落近辺でしか採れない植物で染色された糸を使って細やかな模様が編まれた特産品である。他所のものよりも肌触りが滑らかでかつ頑丈だと、人気が高いそうだ。
実際にかなりの高値で取引されている現場を見て、成程、売買とはこうして行われているのかと、キーニの横から覗き込みながら感動ひとしおだった。
現金を手にした後に向かったのは、港湾事務局だ。ディーウィットが統制されている入出港情報を見て「素晴らしいです!」と興奮している間に、キーニはさっさと帝都までの直行便の旅券を購入していた。キーニは終始呆れ顔だ。
港湾の事務員に壁の掲示板に書かれた内容について尋ねていたら、「今日はここまでだ。戻るぞ」と、とうとうキーニに腕を引っ張られてしまった。そのまま、宿がある町の中心へと向かう。
宿はすぐに取れた。というよりも、キーニが顔を見せただけで、宿の者は二人を宿の最上階にある部屋へ案内してくれたのだ。
喋る言葉はジュ・アルズの言葉だった為ディーウィットには理解できなかったが、宿の者がキーニに対しかなり恐縮している風だったのが印象的だった。キーニが次期首長だからだろうな、と理解する。
姉が帝国に嫁いでいるということもあってよく行き来しているようで、これまでの道中も町に到着した後も、キーニが何かに手間取う場面には一度たりとて遭遇しなかった。気軽に案内を買って出てくれるだけの根拠はあったのだ。
「ディト、少し休もうか」
「はい」
一歩踏み入れると、爽やかな風が室内を流れていくのを感じた。木造の広々とした部屋には全体的に落ち着いた色合いの家具が置かれており、キーニの家の居間を思い起こさせる。背の低い寝台には柔らかそうな寝具が敷かれており、ここにくるまで基本キーニの胡座の上で寝ていたディーウィットは、キーニには悪いと思いながらも思わず目を輝かせてしまった。
「キーニ、今夜は足を伸ばして寝られますよ!」
キーニがやや不貞腐れた顔になる。
「俺の腕の中では不服か」
「いえ、決してそういう訳では……っ、キーニはいつも僕を抱えて身動きも取れなかったでしょうし……」
ディーウィットがモジモジしていると、キーニが顔をくしゃりとさせて笑った。
「ふは、冗談だ。ディトが俺を思って言ってくれていることくらい承知している」
キーニはディーウィットの頬を撫でると、露台の方に向けて顎をしゃくる。
「あそこで湯浴みができるようになっている。入るか?」
「えっ! 入ります! 入りたいです!」
道中は「水場は何がいるか分からないからな」と入ることは許可されず、結局はキーニの手で隅々まで洗われていた。つまり、もう長いこと湯浴みなどしていないのだ。これは是非とも入らねば、と全体的にどこか燻んで見える自分を見下ろしながら、幾度も頷く。
「では宿の者に準備させる。そこで足でも伸ばして待っていろ」
キーニはチュッと唇に軽いキスを落とすと、颯爽と部屋を出ていってしまった。ひとり残されたディーウィットは、言われた通り寝台に腰掛けて待つことにする。寝具は、思った通りふかふかだった。
広い部屋に、ディーウィットただひとり。これまで片時も離れることのなかったキーニの突然の不在に、僅かな間だと頭では理解しているのに、胸が締め付けられるような寂しさを覚えた。
膝の上に置いた自分の手をキュッと握り締める。
「……しっかりしろディーウィット。帝都に着いたらキーニとはさよならなんだ。こんなことで不安になってどうする」
これまで誰にも寄りかからず自分の足で立っていた筈なのに、いつから自分はこんなにもキーニに全幅の信頼を寄せ甘え切っていたのか。
気付いてしまった事実に、キーニが笑顔で戻ってくるまで、ディーウィットはその場から一歩も動けないでいた。
これは、キーニの住む集落近辺でしか採れない植物で染色された糸を使って細やかな模様が編まれた特産品である。他所のものよりも肌触りが滑らかでかつ頑丈だと、人気が高いそうだ。
実際にかなりの高値で取引されている現場を見て、成程、売買とはこうして行われているのかと、キーニの横から覗き込みながら感動ひとしおだった。
現金を手にした後に向かったのは、港湾事務局だ。ディーウィットが統制されている入出港情報を見て「素晴らしいです!」と興奮している間に、キーニはさっさと帝都までの直行便の旅券を購入していた。キーニは終始呆れ顔だ。
港湾の事務員に壁の掲示板に書かれた内容について尋ねていたら、「今日はここまでだ。戻るぞ」と、とうとうキーニに腕を引っ張られてしまった。そのまま、宿がある町の中心へと向かう。
宿はすぐに取れた。というよりも、キーニが顔を見せただけで、宿の者は二人を宿の最上階にある部屋へ案内してくれたのだ。
喋る言葉はジュ・アルズの言葉だった為ディーウィットには理解できなかったが、宿の者がキーニに対しかなり恐縮している風だったのが印象的だった。キーニが次期首長だからだろうな、と理解する。
姉が帝国に嫁いでいるということもあってよく行き来しているようで、これまでの道中も町に到着した後も、キーニが何かに手間取う場面には一度たりとて遭遇しなかった。気軽に案内を買って出てくれるだけの根拠はあったのだ。
「ディト、少し休もうか」
「はい」
一歩踏み入れると、爽やかな風が室内を流れていくのを感じた。木造の広々とした部屋には全体的に落ち着いた色合いの家具が置かれており、キーニの家の居間を思い起こさせる。背の低い寝台には柔らかそうな寝具が敷かれており、ここにくるまで基本キーニの胡座の上で寝ていたディーウィットは、キーニには悪いと思いながらも思わず目を輝かせてしまった。
「キーニ、今夜は足を伸ばして寝られますよ!」
キーニがやや不貞腐れた顔になる。
「俺の腕の中では不服か」
「いえ、決してそういう訳では……っ、キーニはいつも僕を抱えて身動きも取れなかったでしょうし……」
ディーウィットがモジモジしていると、キーニが顔をくしゃりとさせて笑った。
「ふは、冗談だ。ディトが俺を思って言ってくれていることくらい承知している」
キーニはディーウィットの頬を撫でると、露台の方に向けて顎をしゃくる。
「あそこで湯浴みができるようになっている。入るか?」
「えっ! 入ります! 入りたいです!」
道中は「水場は何がいるか分からないからな」と入ることは許可されず、結局はキーニの手で隅々まで洗われていた。つまり、もう長いこと湯浴みなどしていないのだ。これは是非とも入らねば、と全体的にどこか燻んで見える自分を見下ろしながら、幾度も頷く。
「では宿の者に準備させる。そこで足でも伸ばして待っていろ」
キーニはチュッと唇に軽いキスを落とすと、颯爽と部屋を出ていってしまった。ひとり残されたディーウィットは、言われた通り寝台に腰掛けて待つことにする。寝具は、思った通りふかふかだった。
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膝の上に置いた自分の手をキュッと握り締める。
「……しっかりしろディーウィット。帝都に着いたらキーニとはさよならなんだ。こんなことで不安になってどうする」
これまで誰にも寄りかからず自分の足で立っていた筈なのに、いつから自分はこんなにもキーニに全幅の信頼を寄せ甘え切っていたのか。
気付いてしまった事実に、キーニが笑顔で戻ってくるまで、ディーウィットはその場から一歩も動けないでいた。
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