孤独な王子は部族の青年の献身で愛を知る

緑虫

文字の大きさ
28 / 45

28 帝都へ

 キーニが購入した乗車券は、帝都とジュ・アルズを往復している、旅客も乗せる貨物船のものだった。

 ジュ・アルズへの入港予定は三日後。そこから一日かけて積み荷を陸揚げし、空いた場所に今度は船積みしていく。積載量が一定数に達したところで旅客を乗船させ出港するのだが、積み荷が集まらないと波止場に停泊した状態が数日続くこともあるのだとか。

 そんな訳で、本船入港までぽっかりと時間が空いてしまった。だが焦ったところで船は早くやってこない。

「折角だ。色々と見て回ろう」というキーニの提案に乗り、町や港を散策する穏やかな日々を過ごした。

 その間、キーニと様々な話をした。打てば響くというのはこのことだろうか。キーニは見た目は森の戦士と呼ぶに相応しい原住民族の青年だったが、話せば話すほどその博識さと聡明さに驚かされるばかりだった。奇譚のない意見を交わせるキーニとの会話は楽しくて、やめられない。

 そもそも帝国語を操れる時点で、港町周辺の部族出身ならともかく、こんなに流暢に喋れること自体が謎なのだ。

 キーニ曰く「首長と次期首長は話せなければならないからな」ということだったが、だからといってこうも問題なく操るだろうか。相変わらずキーニは、色々と謎が多い。例の『ムウェ・ラデ』の意味についても再度訊いてみたが、「帝都に着いたら語ろう」と言うだけで、教えてくれなかった。

 だが自身を顧みれば、ディーウィットとて、王家の恥とも言える事実はキーニ以外にはアルフォンスにすら語っていないのだ。人には人の事情があるのだと、それ以上尋ねることを控えるしかなかった。

 それに知ったところで、キーニとの縁はあと少しで嫌でも切れてしまう。ならば最後まで不快な思いをさせずに穏やかに共に過ごしたいと思ってはいけないだろうか、と考えるようになっていた。

 そして今日、二人は幾度目かの港を訪れていた。昨夜本船が入港したと聞き、出港予定を確認しにきた帰りである。今日は風も少なく波も穏やかだった為、キーニに誘われて波止場に並んで座り、海風を受けながら他愛もないお喋りに興じていた。

「成程……定期船は空きが生じることがあるのが欠点でもあったんですよね。貨物が溜まるまで待つのはいい考えです」

 中には赤字が出ることもあったので、そこが悩みの種だったのだ。だが、キーニが返す。

「アーべラインの定期船の寄港は月に二便しかないのだろう? 青果などのなまものだと腐ることもある。待つのは得策とはいえないだろうな」
「なら本数を増やしてみたら?」
「全体の交易量が増えねば余計赤字が広がるだけだぞ」
「そうか、ですよねえ。ううん……」

 ディーウィットが唸っていると、キーニが男臭い顔に苦笑を浮かべながらディーウィットの腰を掴んで引き寄せた。

「アーべラインの部下に最後に手紙を送り役立てて貰いたいと思っているのはディトらしいといえばらしいが、見知らぬ男のことばかりを考えているのは気に食わん」

 キーニの言葉に、ディーウィットの顔がポッと赤くなる。

「な……っ、アルフォンスはそういった関係ではありませんからっ」
「こんな宝石を贈ってもらっておいてか?」

 キーニが不服そうに、自身の胸元にある『夜の光石』の首飾りに触れる。

「そっ、そうです! 彼はデアーグに振り回され路頭に迷いそうだったところを拾い上げた僕に忠義をですね!」
「まあそういうことにしておこうか」
「キーニ! ですから……んっ」

 視界が翳ったと思った次の瞬間、キーニに唇を奪われていた。キーニは下唇を軽く喰んだ後、少し意地悪そうな笑みを浮かべる。

「だが今は俺の物だ。誰にも渡さないぞ」
「キーニ……」

 上がってしまった息を整えることで精一杯で、それ以上言い返すことができなかった。これはまさかアルフォンスに対抗意識を燃やしているのか。聞いてみたいが、やはり聞くことはできない。

 結局はなんと言い返せばいいか分からなくなって、キーニの胸板に額を付けることしかできなかった。

 こうすることで、キーニから贈られた額飾りの存在を感じることができた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

【完結】星に焦がれて

白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け 「お、前、いつから…?」 「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」  僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。  家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。  僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。  シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。  二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。  配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。  その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。  初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。 「…シリウス?」 「アルはさ、優しいから」  背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。  いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。 「──俺のこと拒めないでしょ?」  おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。  その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。    これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)