孤独な王子は部族の青年の献身で愛を知る

緑虫

文字の大きさ
32 / 45

32 味方

 デアーグのあまりに自己中心的な考えに、頭がくらくらした。

 だが、なんとしてでも最悪の事態は止めねばならない。

『待ってくれデアーグ! 落ち着いて今後の話を――』

 だがデアーグはくるりと背中を向けると、船舶から下りてくるところだった見覚えのある佞臣の元に向かって駆け出してしまう。

『今日はどこに泊まるの!? 綺麗な所じゃないと嫌だよ!?』

 佞臣はディーウィットの姿を見てギョッとした様子だったが、すぐにデアーグに目線を戻すと「勿論、迎賓館にお泊りいただきますよ。ご心配なく」と答えた。

『ちょ、ちょっと待て、デアーグ……!』

 拙い。迎賓館などという高貴な場所に行かれてしまっては、身分を証明するものが何もないディーウィットは、追いかけて説得することが叶わなくなってしまう。

 慌てて追いかけようとしたが、キーニにひょいと抱き上げられてしまった。ジタバタと暴れる。

「キーニ、離して下さい! 追いかけないと、話をしないと、迎賓館に行かれたら全てが遅くなってしまう!」
「迎賓館? あいつらは迎賓館に泊まるのか?」

 ディーウィットはブンブンと首を縦に振る。

「そうらしいです! 僕は何もかも船に置いてきてしまったから王族の証明がないんです! だからデアーグを止めるのは今しか……っ」
「そうか」

 キーニは縦に持ち上げていたディーウィットをくるりと横抱きに抱え直すと、にこりと笑った。

「迎賓館なら割と顔が利くから問題ないぞ」
「え……? あ、次期首長だからですか?」
「まあそんなところだ」

 キーニは言葉を濁したが、これは朗報だった。迎賓館にさえ入れれば、デアーグを説得する機会を得られるかもしれない。

「よかった……!」

 ひとまず最悪の事態は先延ばしにできた。安堵の息を吐くと、キーニが横目でデアーグが去っていった方向を睨みつける。

「ではディト。俺の質問に答えてもらおう」
「は、はい?」
「あの小うるさいのはなんと言っていたんだ」

 あの小うるさいの。どう考えてもデアーグのことを指している。これまでずっとディーウィットを悩ましてきた存在のことを小うるさいのひと言で片付けたキーニがおかしくて、思わず小さく笑ってしまった。すると、強張っていた身体の力が抜けていく。

 やはりキーニはディーウィットにとって安らぎを与えてくれる愛しい存在なのだと、改めて実感した。

「あの……あれが例のデアーグなんです」
「成程、あれがか。言ってる言葉は分からなかったが、裏表が激しそうだということは見てすぐに分かったぞ」
「ふ……ふふっ」

 淡々と感想を述べるキーニに、今度こそ毒気を抜かれてつい吹き出してしまった。こんなこと、祖国では誰ひとりとしてディーウィットに言ってくれなかった。許せない自分が優しくないのか、悪いのは自分がいけないからかと考えさせられる日々は、ディーウィットの神経を削り続けてきた。

 だが、ろくに事情を知らないキーニは、素直な印象を伝えてくれた。ずっとずっと、ディーウィットは味方が欲しかった。ディーウィットが不快に感じるのはディーウィットのせいではないのだと言ってくれる存在を求めていた。

 それが今、自分の隣にいてくれる。こんな幸せなことが他にあるだろうか。

「ふふ……そうですね、僕の前では裏の顔ばかり見せてくれますが、確かに二面性がありますよ」

 ディーウィットがデアーグに対する素直な感想を口にできたのは、今が初めてだった。言ってみたら、簡単なことだった。祖国ではデアーグに逆らうことは王家に逆らうことだった。王家に逆らうことは、家族に捨てられるという意味だった。

 最初から家族には捨てられたも同然だったというのに、何を恐れていたのだろう。

 キーニが肩を竦めた。

「あれに騙されるのがいるとしたら、お前のところの家族は随分と脳みそが足りないのだな」
「ぶ……っ、ちょ、ちょっとキーニってば、笑わせないで下さいよ」

 家族のことを貶されているというのに、ディーウィットの心には爽快な風が吹いていた。

 するとキーニが今度は、こちらを睨みつけながら立ったままのアルフォンスを見て顎をしゃくる。アルフォンスはギッとこちらを睨むと、背を向けて駆け足で去っていってしまった。

「……ふん。で、あれが例のお前の部下だとかいう男か。アルフォンスという名が聞こえたぞ。随分と嫌な目つきで見ているが、どういうことだ? あれも騙されている口か? だからといってあの目つきは臣下としてあり得ないと思うが」

 穏やかな口調ではあっても、有無を言わさない雰囲気だった。眉尻を下げながら、ディーウィットが呟きを返す。

「……聞いても不快になるだけだと思いますよ」
「構わない。あの小うるさいのが言っていた言葉を通訳しろ。隠し立ては許さない」
「……はい」

 こうしてディーウィットは、先程デアーグがディーウィットに投げつけた言葉をひとつひとつ訳して伝える羽目に陥ってしまったのだった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

【完結】星に焦がれて

白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け 「お、前、いつから…?」 「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」  僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。  家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。  僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。  シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。  二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。  配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。  その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。  初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。 「…シリウス?」 「アルはさ、優しいから」  背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。  いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。 「──俺のこと拒めないでしょ?」  おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。  その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。    これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)