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37 懺悔
アルフォンスが、今度は頬や鼻先をディーウィットの指に擦り付ける。
「申し訳ございません、本当に申し訳ございません……! 私は殿下を信じたかった。ですから船の中で何があったのか、どこかに遺体が流れ着いてはいないか、帝国に渡れば確認できる機会もあるのではと考え、帝国行きについて行くことを了承したのです!」
「その割には随分な態度だったじゃないか?」
キーニの呆れ声に、アルフォンスは泣き顔を上げ頷く。
「申し訳ございません。――船の中でも、デアーグ様に毎日囁かれました。『ディーウィットは僕のことを嵌めようとしてるんだ、助けて、慰めて』と。デアーグ様の嘆き方が嘘のようには思えず、私の気持ちはどんどん揺らいでいきました。もしデアーグ様が仰っているのが真実なら、自分は騙されたのかと」
「アルフォンス……」
元々多忙すぎて精神的に追い詰められていたところに、連日のデアーグからの呪文のような刷り込みだ。時間が経つにつれ、確固たる信念を保つことが難しくなったのだろう。
その状況にアルフォンスを置き去りにしてしまったのは自分であるだけに、ディーウィットは申し訳なさに俯いた。
アルフォンスが絞り出すように続ける。
「無論、何か証拠を掴むまでは結論は出すまいと思っていました。ですが帝都に到着して早々に、幸せそうに笑うディーウィット殿下の姿を見た瞬間――自分は嘘を吐かれていたのかと、怒りで真っ白になってしまったのです」
「……そういうことだったのか」
あの憎悪に満ちた眼差しは、そういう意味だったのか。ようやく腑に落ちた。
「なのに殿下は私と話したいという。正直、どういうことかと混乱しました。ですがこうして話を聞いて、私はなんと愚かだったのかと己を恥じております……!」
ボロボロと涙を流すアルフォンスの姿は、これまで見たどの時よりも頼りなさげなものだった。誤解とはいえ敵意を向けられた苛立ちは全くなかったとは言えなかったが、この姿を見て残されていたものが急速に萎んでいく。
「アルフォンス、僕は君を裏切ったりはしていない。それさえ分かって貰えたならもういいから」
「――いえ! よくありません!」
アルフォンスはガバッと面を上げると、ディーウィットの手を両手で包み込み自分の胸に押し当ててきた。
「殿下、まだ間に合います! 今度こそ殿下をお守りすることを誓います! ですから私と一緒に逃げていただけませんか! 生涯貴方を愛することを許してはいただけませんか……!」
「……は?」
アルフォンスは何を言っているのか。理解が追いつかず、ディーウィットはポカンとした。愛する? アルフォンスが愛しているのはデアーグではなかったのか。
「ちょ、ちょっと待ってくれアルフォンス。君はデアーグと恋仲なのだろう?」
今度はアルフォンスがポカンとする番だった。
「は? 恋仲? 私とデアーグ様がですか? まさか」
「ええ……?」
互いに不思議そうな顔でポカンとしていると、キーニが憮然とした表情で助け舟を出す。
「あの小うるさいのはお前に毎晩抱かれていると言っていたようだぞ」
途端、アルフォンスの顔が蒼白になった。
「は……? そんなことある訳がございません! 私はずっとディーウィット殿下のことを――」
キーニが「……ハアー」と苛立たしげな息を吐く。
「あの小うるさいのは全て嘘で作られているな。だがいずれにせよ、ディトがお前と共に逃げる未来などない」
「な、何故貴方がそんなことを決め――!」
キーニは眉間に深い皺を寄せると、アルフォンスに手を掴まれたままのディーウィットをひょいと抱き上げ、苛立たしげにアルフォンスを見下ろした。
「そこまで愛していたのならば、アーベラインにいる時に無理やりにでも連れ去るべきだったな。それをせず、今更のこのこやってきて愛してますとどの口が言う」
「……!」
「ディトはお前があの小うるさいのを説得し国に連れ戻すことを望んでいる。お前と添い遂げることなど微塵も望んではいない」
キーニに言われ、アルフォンスが悔しげに唇を噛み締める。
キーニはフウ、と息を吐くと告げた。
「謁見には、俺が『アーベライン王家の至宝、夜の光石の化身』を連れて行くという話で通してある」
「貴方が、ですか?」
訝しげに問い返すアルフォンスに、キーニが眼光鋭く睨みつけながら、言い放った。
「そうだ。あれを今夜中に説得してみろ。それが叶わないなら、明日の謁見の場までは同行を許そう。その後のことまでは、俺は面倒を見ない」
キーニの発言の意図が分からず、問いかける。
「キーニ? それは一体どういう――」
「明日になれば全て分かる」
キーニは何を考えているのか。胸中を推し量ることができず、ディーウィットは不安げにキーニを見ることしかできなかった。
「申し訳ございません、本当に申し訳ございません……! 私は殿下を信じたかった。ですから船の中で何があったのか、どこかに遺体が流れ着いてはいないか、帝国に渡れば確認できる機会もあるのではと考え、帝国行きについて行くことを了承したのです!」
「その割には随分な態度だったじゃないか?」
キーニの呆れ声に、アルフォンスは泣き顔を上げ頷く。
「申し訳ございません。――船の中でも、デアーグ様に毎日囁かれました。『ディーウィットは僕のことを嵌めようとしてるんだ、助けて、慰めて』と。デアーグ様の嘆き方が嘘のようには思えず、私の気持ちはどんどん揺らいでいきました。もしデアーグ様が仰っているのが真実なら、自分は騙されたのかと」
「アルフォンス……」
元々多忙すぎて精神的に追い詰められていたところに、連日のデアーグからの呪文のような刷り込みだ。時間が経つにつれ、確固たる信念を保つことが難しくなったのだろう。
その状況にアルフォンスを置き去りにしてしまったのは自分であるだけに、ディーウィットは申し訳なさに俯いた。
アルフォンスが絞り出すように続ける。
「無論、何か証拠を掴むまでは結論は出すまいと思っていました。ですが帝都に到着して早々に、幸せそうに笑うディーウィット殿下の姿を見た瞬間――自分は嘘を吐かれていたのかと、怒りで真っ白になってしまったのです」
「……そういうことだったのか」
あの憎悪に満ちた眼差しは、そういう意味だったのか。ようやく腑に落ちた。
「なのに殿下は私と話したいという。正直、どういうことかと混乱しました。ですがこうして話を聞いて、私はなんと愚かだったのかと己を恥じております……!」
ボロボロと涙を流すアルフォンスの姿は、これまで見たどの時よりも頼りなさげなものだった。誤解とはいえ敵意を向けられた苛立ちは全くなかったとは言えなかったが、この姿を見て残されていたものが急速に萎んでいく。
「アルフォンス、僕は君を裏切ったりはしていない。それさえ分かって貰えたならもういいから」
「――いえ! よくありません!」
アルフォンスはガバッと面を上げると、ディーウィットの手を両手で包み込み自分の胸に押し当ててきた。
「殿下、まだ間に合います! 今度こそ殿下をお守りすることを誓います! ですから私と一緒に逃げていただけませんか! 生涯貴方を愛することを許してはいただけませんか……!」
「……は?」
アルフォンスは何を言っているのか。理解が追いつかず、ディーウィットはポカンとした。愛する? アルフォンスが愛しているのはデアーグではなかったのか。
「ちょ、ちょっと待ってくれアルフォンス。君はデアーグと恋仲なのだろう?」
今度はアルフォンスがポカンとする番だった。
「は? 恋仲? 私とデアーグ様がですか? まさか」
「ええ……?」
互いに不思議そうな顔でポカンとしていると、キーニが憮然とした表情で助け舟を出す。
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途端、アルフォンスの顔が蒼白になった。
「は……? そんなことある訳がございません! 私はずっとディーウィット殿下のことを――」
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「あの小うるさいのは全て嘘で作られているな。だがいずれにせよ、ディトがお前と共に逃げる未来などない」
「な、何故貴方がそんなことを決め――!」
キーニは眉間に深い皺を寄せると、アルフォンスに手を掴まれたままのディーウィットをひょいと抱き上げ、苛立たしげにアルフォンスを見下ろした。
「そこまで愛していたのならば、アーベラインにいる時に無理やりにでも連れ去るべきだったな。それをせず、今更のこのこやってきて愛してますとどの口が言う」
「……!」
「ディトはお前があの小うるさいのを説得し国に連れ戻すことを望んでいる。お前と添い遂げることなど微塵も望んではいない」
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