42 / 45
42 イェレミアスとキーニの関係
「……あー、そろそろいいかな?」と言う皇帝イェレミアスに先導され、宮殿の中に入る。
イェレミアスは立派な紙にサラサラと何かを書くと、指輪として身につけている玉璽をポンと押した。ぺらりと紙の表面を見せる。
「キーニ、これでいいか?」
「ああ」
キーニが受け取った紙を隣から覗き込み読んでみた。『結婚承諾書』と書いてある。キーニとディーウィットの名前の後に、この二人を皇帝の名の下において夫婦と認める、とあった。
こんなに簡単に済ませていいのか? というのがディーウィットの率直な感想だったが、天下の皇帝とその義弟がいいというならいいのだろう。
それにしても、とんでもない人の伴侶になってしまったものだ。まあもう集落を出る時には伴侶になっていたらしいので、今更だが。改めて考えると脳みそが爆発しそうだったので、今はこれ以上深く考えるのはやめることにした。
「これで名実ともにディトは俺の伴侶だ」
笑顔のキーニに言われ、ディーウィットはただ頷くに留めた。後で必ず隠していたことを全て話してもらおう、と心の中で誓いながら。
イェレミアスが「さて」と二人を見る。
「では至宝を臣下として迎えるにあたり、条件を詰めていこうじゃないか」
眼光の鋭いキーニが、守るようにディーウィットを抱き込む。
「ディトは俺の『ムウェ・ラデ』だぞ。お前の元に置き続けることは絶対に許さない」
「だがしかし、至宝はアーべラインの現状をどうにかしたいのだろう?」
飄々としたイェレミアスの言葉に、ディーウィットは身を乗り出し大きく頷いた。
「は、はい! 是非ともお力をお貸しいただきたく……!」
「ほらなキーニ」
「く……っ」
ニッと歯を見せるイェレミアスの笑い方は、肌の色も何もかも違うというのに、何故かキーニの笑顔を思い起こさせた。
◇
長い話し合いが終わり、ディーウィットたちは迎賓館の部屋に戻っていた。
キーニが不貞腐れた表情でぼやく。
「年の半分もこちらにいるのか……くそ、ジュ・アルズの常識を知らん奴らがディトに近付くことを考えると、腹立たしくて仕方ないぞ。言っておくが、俺は片時も離れないからな」
キーニの懸念はそこらしい。思わずくすりと笑ってしまった。
「キーニ。僕はあの陰謀だらけのアーべラインで生き延びてきた人間ですよ? 多少勝手は違うでしょうが、そう簡単に陥れられたりはしませんから大丈夫ですよ」
むしろ、あの賢帝と名高い男の宮廷だ。アーべラインよりも遥かに公正で統制されているだろう。
だが、何故かキーニが頭は抱えてしまった。
「そうじゃないディト、お前の魅力にやられる奴が現れるのが嫌なんだ……!」
「まさか。心配しすぎですよキーニ」
ディーウィットが軽く返すと、今度は深い溜息を吐かれてしまう。何がどうあってもキーニはディーウィットのことが心配で仕方ないらしい。
だがそれも、ジュ・アルズでも南部で生まれ育ったキーニにしてみれば当然のことなのかもしれなかった。
以前屋台の主人にも言われたように、南部の男は非常に愛情深く、一度伴侶と決めた相手に対しては、常に離れず細やかな世話を焼くことで愛の深さを伝えるのだという。キーニが行っていた給餌行為や排泄の補助も全て、愛情表現の一環だったらしい。
イェレミアスに「外から来た人間には驚きの連続だっただろうな」とそのことを説明された時には、開いた口が暫くの間閉じてくれなかった。
「――それにしても、まさか皇帝と過ごしていた時期があるなんて思いもしませんでした」
「イェレミアスに暗殺の危機があったことは表に出していないからな」
そう。何故キーニとイェレミアスが気安い仲なのかについては、義理の兄弟という以外にも理由があったのだ。
二人の説明によると、彼がまだ十代の頃、先帝が突然病に伏した。イェレミアスは最も皇帝の座に近い、継承権の筆頭保持者だった。だがその為、皇帝の座を狙う親族に命を狙われ続けていた。彼らは権力を振り翳す部類の人間だったらしいが、あちこちと癒着しており、ただ排除すればいいというものではなかったらしい。
だが悠長なことを言っている間に、度重なる襲撃によりイェレミアスが怪我を負ってしまう。イェレミアス派の臣下らは信頼できる伝手を辿り、帝国の勢力に左右されない独自の規律により秩序が守られているジュ・アルズに、療養も兼ねて熱りが冷めるまでイェレミアスの身を隠すことにした。
とはいえ、帝国に近い北部では、余所者が入り込んでも間者かどうか判別できない懸念がある。そこで選ばれた地が、ジュ・アルズでも一番帝国の干渉を受けていない南部の部族だった。
イェレミアスはそこで南部を統べる首長、つまりキーニの父の庇護の下、かつてないほどの自由を満喫する。反対勢力が一掃されるまではここから出ることは叶わないが、それでもいいと思えるほど、南部での生活は常に神経を尖らせていたイェレミアスの身も心も癒してくれた。
穏やかで且つ刺激的な生活を送る中、イェレミアスは首長の子らとも交流し、やがてリャナンと恋仲になる。だがそこに臣下らが現れ、政敵は粛清されたので戻ってほしいと言われてしまった。
イェレミアスは最初、断ろうとした。このままここで骨を埋め、リャナンだけを愛する一生を送ろうと。するとリャナンは、イェレミアスを文字通り殴りつけた。情けないことを言うなら別れると言い放ち、責任から目を逸らすなと叱り飛ばした。
イェレミアスは目を覚ました。覚悟を決めると、リャナンに共に生きてほしいと口説き落とし、帝都へ戻り皇帝の座につく。
「イェレミアスはうちの部族の愛し方を間近で見てきたからな。他の人間にうつつを抜かすなどあり得ないと思っている男なんだ」
「そういうことだったんですね」
道理でキーニが皇配の話を嘘だと一蹴できる筈だと、ディーウィットは納得するしかなかった。
「俺の帝国語は、イェレミアスに教わった。元々首長の家系は帝国と関わることが多い為、読み書きは必須だった。最高の教師がいて助かったぞ」
「は、はは……」
それはそうだろう。帝国一の教育を受けた人に教わる機会など、そうある話ではない。
興味津々で話を聞いていると、キーニがフ、と気の抜けた笑みを浮かべた。
イェレミアスは立派な紙にサラサラと何かを書くと、指輪として身につけている玉璽をポンと押した。ぺらりと紙の表面を見せる。
「キーニ、これでいいか?」
「ああ」
キーニが受け取った紙を隣から覗き込み読んでみた。『結婚承諾書』と書いてある。キーニとディーウィットの名前の後に、この二人を皇帝の名の下において夫婦と認める、とあった。
こんなに簡単に済ませていいのか? というのがディーウィットの率直な感想だったが、天下の皇帝とその義弟がいいというならいいのだろう。
それにしても、とんでもない人の伴侶になってしまったものだ。まあもう集落を出る時には伴侶になっていたらしいので、今更だが。改めて考えると脳みそが爆発しそうだったので、今はこれ以上深く考えるのはやめることにした。
「これで名実ともにディトは俺の伴侶だ」
笑顔のキーニに言われ、ディーウィットはただ頷くに留めた。後で必ず隠していたことを全て話してもらおう、と心の中で誓いながら。
イェレミアスが「さて」と二人を見る。
「では至宝を臣下として迎えるにあたり、条件を詰めていこうじゃないか」
眼光の鋭いキーニが、守るようにディーウィットを抱き込む。
「ディトは俺の『ムウェ・ラデ』だぞ。お前の元に置き続けることは絶対に許さない」
「だがしかし、至宝はアーべラインの現状をどうにかしたいのだろう?」
飄々としたイェレミアスの言葉に、ディーウィットは身を乗り出し大きく頷いた。
「は、はい! 是非ともお力をお貸しいただきたく……!」
「ほらなキーニ」
「く……っ」
ニッと歯を見せるイェレミアスの笑い方は、肌の色も何もかも違うというのに、何故かキーニの笑顔を思い起こさせた。
◇
長い話し合いが終わり、ディーウィットたちは迎賓館の部屋に戻っていた。
キーニが不貞腐れた表情でぼやく。
「年の半分もこちらにいるのか……くそ、ジュ・アルズの常識を知らん奴らがディトに近付くことを考えると、腹立たしくて仕方ないぞ。言っておくが、俺は片時も離れないからな」
キーニの懸念はそこらしい。思わずくすりと笑ってしまった。
「キーニ。僕はあの陰謀だらけのアーべラインで生き延びてきた人間ですよ? 多少勝手は違うでしょうが、そう簡単に陥れられたりはしませんから大丈夫ですよ」
むしろ、あの賢帝と名高い男の宮廷だ。アーべラインよりも遥かに公正で統制されているだろう。
だが、何故かキーニが頭は抱えてしまった。
「そうじゃないディト、お前の魅力にやられる奴が現れるのが嫌なんだ……!」
「まさか。心配しすぎですよキーニ」
ディーウィットが軽く返すと、今度は深い溜息を吐かれてしまう。何がどうあってもキーニはディーウィットのことが心配で仕方ないらしい。
だがそれも、ジュ・アルズでも南部で生まれ育ったキーニにしてみれば当然のことなのかもしれなかった。
以前屋台の主人にも言われたように、南部の男は非常に愛情深く、一度伴侶と決めた相手に対しては、常に離れず細やかな世話を焼くことで愛の深さを伝えるのだという。キーニが行っていた給餌行為や排泄の補助も全て、愛情表現の一環だったらしい。
イェレミアスに「外から来た人間には驚きの連続だっただろうな」とそのことを説明された時には、開いた口が暫くの間閉じてくれなかった。
「――それにしても、まさか皇帝と過ごしていた時期があるなんて思いもしませんでした」
「イェレミアスに暗殺の危機があったことは表に出していないからな」
そう。何故キーニとイェレミアスが気安い仲なのかについては、義理の兄弟という以外にも理由があったのだ。
二人の説明によると、彼がまだ十代の頃、先帝が突然病に伏した。イェレミアスは最も皇帝の座に近い、継承権の筆頭保持者だった。だがその為、皇帝の座を狙う親族に命を狙われ続けていた。彼らは権力を振り翳す部類の人間だったらしいが、あちこちと癒着しており、ただ排除すればいいというものではなかったらしい。
だが悠長なことを言っている間に、度重なる襲撃によりイェレミアスが怪我を負ってしまう。イェレミアス派の臣下らは信頼できる伝手を辿り、帝国の勢力に左右されない独自の規律により秩序が守られているジュ・アルズに、療養も兼ねて熱りが冷めるまでイェレミアスの身を隠すことにした。
とはいえ、帝国に近い北部では、余所者が入り込んでも間者かどうか判別できない懸念がある。そこで選ばれた地が、ジュ・アルズでも一番帝国の干渉を受けていない南部の部族だった。
イェレミアスはそこで南部を統べる首長、つまりキーニの父の庇護の下、かつてないほどの自由を満喫する。反対勢力が一掃されるまではここから出ることは叶わないが、それでもいいと思えるほど、南部での生活は常に神経を尖らせていたイェレミアスの身も心も癒してくれた。
穏やかで且つ刺激的な生活を送る中、イェレミアスは首長の子らとも交流し、やがてリャナンと恋仲になる。だがそこに臣下らが現れ、政敵は粛清されたので戻ってほしいと言われてしまった。
イェレミアスは最初、断ろうとした。このままここで骨を埋め、リャナンだけを愛する一生を送ろうと。するとリャナンは、イェレミアスを文字通り殴りつけた。情けないことを言うなら別れると言い放ち、責任から目を逸らすなと叱り飛ばした。
イェレミアスは目を覚ました。覚悟を決めると、リャナンに共に生きてほしいと口説き落とし、帝都へ戻り皇帝の座につく。
「イェレミアスはうちの部族の愛し方を間近で見てきたからな。他の人間にうつつを抜かすなどあり得ないと思っている男なんだ」
「そういうことだったんですね」
道理でキーニが皇配の話を嘘だと一蹴できる筈だと、ディーウィットは納得するしかなかった。
「俺の帝国語は、イェレミアスに教わった。元々首長の家系は帝国と関わることが多い為、読み書きは必須だった。最高の教師がいて助かったぞ」
「は、はは……」
それはそうだろう。帝国一の教育を受けた人に教わる機会など、そうある話ではない。
興味津々で話を聞いていると、キーニがフ、と気の抜けた笑みを浮かべた。
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!
迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)
【完結】星に焦がれて
白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け
「お、前、いつから…?」
「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」
僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。
家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。
僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。
シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。
二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。
配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。
その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。
初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。
「…シリウス?」
「アルはさ、優しいから」
背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。
いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。
「──俺のこと拒めないでしょ?」
おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。
その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。
これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。