36 / 163
4章 私のお店、開店します!
2)セディさんvs日・月の精霊 前哨戦
しおりを挟む
裏庭からねばねばの出るウトッナ草を両手に抱えた籠いっぱいに摘み取ると、桶に溜めた水で綺麗に洗い、とっても大きな乳鉢にいれて、一度風で魔法粗く刻んでから自分の手でゴリゴリと擦込んでいく。
擦れば擦るほどねばねばは白く強くなっていくので、そこから下級体力ポーション(ただし効果は200パーセント増)を少しずつ入れながらさらに丁寧にゴリゴリしていく。
しっかりとろとろの状態になったところで、今度は泡だて器でメレンゲを作るようにしっかりと泡立てていく。
じゃっかじゃっか、じゃっかじゃっか 泡立てる。
大変に地味~な上腕二頭筋の鍛えられるこの作業。
効率化できないものかとエーンートやシルフィードに手伝ってもらったけれど、求めるほどのキメの細かいホイップにはならず、あきらめて自分でたてることにした……のだが、なんたって疲れる。
「電動泡たて機が欲しいーっ!!」
泡立てながら、今度は少しずつ植物性で、低温度では固形になる油……あっちで言うところのワセリンみたいなものなんだけどこれを二匙ずつ足していく。
ちなみにこれは、材料に困ったときに、樹木の樹液にそういう性質があると聞いたので、早速エーンートが用意してくれた苗木を庭に植え、スキルで十分な大きさに育て、その樹液を漆やメープルシロップの要領で集めたものだ。
その樹液を火魔法のごく低温、溶けるギリギリの温度で温めながら、大匙で二杯ずつホイップと合わせては泡立て、いい感じの硬さになり始めたら、今度は匂い対策。
今のままでは青汁100%な匂いのままで絶対! 売れない(私は買わない)ので、ライネの皮から作った精油を入れて匂いも整えて……
「電動泡だて器を誰か作ってください―!」
必死!
超必死!
必死に泡立てて入れて泡立てて入れて……を繰り返し、青緑の透明な怪しい液体から、とろりとした良い香りの半固形になったところで、ようやく傷薬の完成である。
労力半端ない!
両腕がつる……明日筋肉痛決定……売れるのはものすご~く嬉しいけれど、一日限定何個! とかにしたい!
「こっちの人は並ぶのが苦痛とか、予約販売が苦痛とか言わないかな……。」
ちょっと考えて、私は首を振った。
「いや、無理だな……」
すぐほしい、今欲しい、予約待ちとか無理! って言うだろうな。
だって命に係わる冒険とかしてる人も多いし、職人さん達もすぐほしいよね。
「しかし……電動泡だて器がないと私のか細い腕だけがマッチョになってしまう……それだけは避けたい……。 それはそうと、出来上がるたびに思うよね……」
少し痙攣してそうな二の腕をなでながら、大きな乳鉢一杯に出来上がった淡い青緑色の傷薬を見る。
「何度見てもアズノ〇ル軟膏にしか見えん……。」
転生前のお仕事の時に、おむつかぶれや、火傷……軽度の炎症性の皮膚疾患に使っていた青い軟膏にそっくりなんだよなぁ、色はもう少し濃かったと思うけど。
あれは大変に良い薬だった、ありがとう、アズ〇ール……まさか転生先で思い出すことになるとは思わなかったよ。 転生するとも思わなかったけど。
つい拝んだりしながらも、それを今度はへらを使って瓶に詰めていく。
「大きい方がいっぱい売れたから、大きい瓶に詰めていこう……ポーションを市井に売らない代わりに傷薬にしろって、瓶一杯くれたの、ありがとう!」
まぁ、ポーション売らないって契約させられたのは許さないけどね! このあたりのことは今はあんまり思い出したくないので記憶の向こうにポイ!だ!
「フィラン、ご飯ができた……これはまた、ずいぶんたくさん作ったんだね。」
「セディ兄さま、どうかしましたか?」
一心不乱に瓶の中に傷薬をつめていたら、声を掛けられて顔を上げると、少々驚いた顔をしていたセディ兄さまはすぐに笑った。
「いや、この量に少し驚いて……。 夕食の準備ができましたから、エプロンを脱いで顔と手を洗ってきてください。 シチューが冷める前に。」
「はぁい!」
手洗いうがいを推奨するなんて、やっぱりお母さんだ! とおもいつつ、エプロンをスポーンと脱いだ私は乳鉢にカバーを掛けてつめ終わった瓶に蓋を全部閉めてからご飯を食べに水回りの部屋に足を速め……たら、埃が立つから薬やご飯のところでは走らない! と、怒られました。
セディ兄さま、おかん属性強めです。
「いっただきま~す!」
「いただきます。」
お皿にたっぷりと盛られたシチューと、柔らかい丸いパン、それから兎肉のハムを焼いたものとサラダが並び、食卓になっているテーブルの上はとても賑やかだった。
ところどころできらり、きらりと光が落ちてくるのは、出ずっぱりのままの精霊たちで、今日は日の精霊日――つまり精霊たちの安息日ということでアルムヘイムとヴィゾウニル以外はこの空間に出てきていて、神の木の傍で寝ているコタロウにくっついて寝ている。
ちなみにあとの二人は何が気に入らないのか、言葉は聞こえるけどここ一週間一度も出てきていない……何かしたかなぁ……いや、したな、大騒ぎして迷惑かけたんだった、反省。
パンをちぎって口に入れてもぐもぐしながら反省する。
「精霊も、あんなふうにして寝るんだね。」
「え? そういうものじゃないんですか?」
不思議そうな顔をしながら神の木のたもとを見ているセディ兄さまに、私はシチューを口に運びながら聞いた。
「契約してからずっとあんな感じなので、おかしいと思ったことはないんですが……」
『まぁ、違うわね。』
ふわりと声だけがその場に落ちてくる。
「アルムヘイム、まだでてこないの?」
『まだそこの花樹人を信用してませんもの。』
ん? 私に怒ってるんじゃなくてそっちなの? とびっくりする。
「え? 無茶した私に怒ってるんじゃないの?」
『もちろん! それはとっても怒っていますわよ! でもそちらに行かないのはそこの花樹人が気に入らないから! ですわ!』
わぉ、歯に衣着せぬあからさまな嫌悪のお言葉!
精霊のモットーは、人にやさしく!じゃなかったの?
「アルムヘイム、えっと、ちゃんと紹介した通りセディ兄さまだよ? ご飯もおいしいし、優しいし、強いし、ラージュ陛下からの紹介だから身元もしっかりしているし、それに他の子達は仲良くなってるよ? アルムヘイムも、ヴィゾヴニルも、仲良くなってほしいなぁ~。」
お願い~、と声をかけると大きなため息? が聞こえた。
『フィラン!』
しゅるん! と、勢いよく腕輪の光から飛び出した輝く黄金の美女は、突き出した人差し指でつんー! つんー! と私の鼻を強めに押しながら目を吊り上げた。
『貴女は人を信用しすぎですのよ! そもそも空来種なのだからもう少し自分の希少価値を考えなさいな! それと、もう少し人を疑うことをなさい! いくらあのラージュが連れてきた人間だからって、この人が悪い人だったらどうするの!? 寝てる彼女が本当はそれがフリだったらどうするの! 私は心配で心配で!』
……アルムヘイム、力説してるけど私が心配でしょうがないー! って。 よくわかるー! かわいいー!
『だからもう少し……って、フィラン! ちゃんと聞いているの!? 何をそんなににやにやしていますの!?』
「聞いてるよ、気をつけます。 それよりも、出てきてくれてうれしい~。」
怒ってるのはわかる、解るけれども!
一番はそこ。
アルムヘイムもヴィゾヴニルも、推しかけ精霊の上に出会って2日目の大騒ぎとはいえ、こちらでは無条件に私の味方をしてくれる私の大切な家族って認識だから、一週間も会えないと寂しかったのだ。
顔を引き締めながら答えるが、何とも言えない顔になっているアルムヘイムは顔を照れているような、怒っているような、複雑な表情をしたうえで、もう! 知りませんわ! と消えてしまった。
「あ、アルムヘイム」
残念、もう少し話をしたかったし、セディ兄さまの事を話したかったんだけどな……。
『フィラン、アルムヘイムで遊ぶのはほどほどにね。』
そんなやり取りを見ていたヴィゾヴニルが苦笑いをしながら現れて、私に向かって言う。
「遊んでないよ、心配してくれてるのが嬉しくて、ついつい。」
『それを遊んでいるというんだけれど……。 でもね、僕もアルムヘイムと同じ意見なんだ、あそこまであからさまにはしないけどね。』
はぁ、とため息をつくようなしぐさをしながら、横目でセディ兄さまを見たヴィゾヴニルは腕を組んだ。
いや、その態度はあからさまなのでは?
ここは黙っているのがいいかもしれなけれど、契約主の私が何か言わないとだめなのでは……?
「ヴィゾヴニル。 アルムヘイムもだけど、セディ兄さまの何がそんなに……」
『センダントディ・イトラ……。』
私が言い終わる前に、ヴィゾヴニルがゆっくりとセディ兄さまに向かって口を開いた。
『上で寝ている妹もだけど、君、花樹人の割に木の精霊の祝福があまりにも少なすぎやしないかい?』
「……」
何にも答えずに困ったように微笑んだままヴィゾヴニルの言葉を聞いているセディ兄さま。
ヴィゾヴニル的にはそれも気に入らないみたい。
『なるほど。 黙っているところを見ると、自覚をしているというわけか。 フィランが聞かないことをいいことに、何も言わないのは誠実とはいいがたい。 日の精霊は誠実を貴ぶからな。 二つ目の安息日にも何も言わないからこそ、あのように言ったのだと思うぞ。 お前が、フィランと同じくラージュの末席におらねばこの家に入れなかったことだけは、自覚しておくといい。』
セディ兄さまから顔をそらしたヴィゾヴニルは今度は私の方を見た。
『お前が繊細なのか豪胆なのかわからないが、アルムヘイムの身にもなってやってくれ。 お前に従順であれと言いくるめられている五つの子達と違い、私とアルムヘイムはお前の為ならばお前の命令に反する。 それを許されているからな。』
「え?」
誰に?
私がそれを聞く前に、なでなで、と私の頭をなでてヴィゾヴニルはするりと消えた。
残された変な空気の私とセディ兄さま。
「……もう、わけわからない……。 けど、セディ兄さま、二人がごめんなさい。」
とりあえず謝っておく。
誰だって、相手が人じゃないものだと分かっていても、あんなふうに言われたら自分でも気分悪いもん。
「本当にごめんなさい。」
すると、セディ兄さまはまた、困ったように笑った。
「いえ、言われている意味はよくわかりますから。 あちらの反応のほうが、正しいのだと思います。 むしろフィランは日の精霊が言ったように警戒心がなさすぎますから、気を付けたほうがいいかと。 最初の頃の様に兄さまが抜けなくなったのは良いと思いますが、お気をつけください。」
「……善処します。 それじゃあセディ兄さまも、敬語、やめてくださいね。」
「……すみません、善処します。」
「……それが敬語です。」
「……あ。」
私たちは顔を見合わせて、吹き出した。
いや、けどなぁ……まさか、セディ兄さまにまで警戒心がないと言われるとは。
私、あっちでは警戒心バリバリのアラフォー女だったはずなんだけど、もしかして警戒心がばがばだった?
と、悩んでいたら、シチュー冷めてしまいますよ、と変わらぬ笑顔のセディ兄さまに夕食を促され、私はスプーンを動かして食事を勧めた。
あの二人の乱入で、話しかける機会を失って黙々と進む食事……うぅ、食べた気がしない……。
どうにか仲良くなってくれないかなぁ……。
私は溜息をついた。
「フィラン?」
「あ、だいじょうぶ、です! ごめんなさい。」
まぁ、薬を作ってる最中でもあったし、精霊たちにも、セディ兄さまにも、落ち着いてからでもいいから、ちゃんと話し合いの場を設けよう!
私はちょっと心に決めて、パンをちぎった。
擦れば擦るほどねばねばは白く強くなっていくので、そこから下級体力ポーション(ただし効果は200パーセント増)を少しずつ入れながらさらに丁寧にゴリゴリしていく。
しっかりとろとろの状態になったところで、今度は泡だて器でメレンゲを作るようにしっかりと泡立てていく。
じゃっかじゃっか、じゃっかじゃっか 泡立てる。
大変に地味~な上腕二頭筋の鍛えられるこの作業。
効率化できないものかとエーンートやシルフィードに手伝ってもらったけれど、求めるほどのキメの細かいホイップにはならず、あきらめて自分でたてることにした……のだが、なんたって疲れる。
「電動泡たて機が欲しいーっ!!」
泡立てながら、今度は少しずつ植物性で、低温度では固形になる油……あっちで言うところのワセリンみたいなものなんだけどこれを二匙ずつ足していく。
ちなみにこれは、材料に困ったときに、樹木の樹液にそういう性質があると聞いたので、早速エーンートが用意してくれた苗木を庭に植え、スキルで十分な大きさに育て、その樹液を漆やメープルシロップの要領で集めたものだ。
その樹液を火魔法のごく低温、溶けるギリギリの温度で温めながら、大匙で二杯ずつホイップと合わせては泡立て、いい感じの硬さになり始めたら、今度は匂い対策。
今のままでは青汁100%な匂いのままで絶対! 売れない(私は買わない)ので、ライネの皮から作った精油を入れて匂いも整えて……
「電動泡だて器を誰か作ってください―!」
必死!
超必死!
必死に泡立てて入れて泡立てて入れて……を繰り返し、青緑の透明な怪しい液体から、とろりとした良い香りの半固形になったところで、ようやく傷薬の完成である。
労力半端ない!
両腕がつる……明日筋肉痛決定……売れるのはものすご~く嬉しいけれど、一日限定何個! とかにしたい!
「こっちの人は並ぶのが苦痛とか、予約販売が苦痛とか言わないかな……。」
ちょっと考えて、私は首を振った。
「いや、無理だな……」
すぐほしい、今欲しい、予約待ちとか無理! って言うだろうな。
だって命に係わる冒険とかしてる人も多いし、職人さん達もすぐほしいよね。
「しかし……電動泡だて器がないと私のか細い腕だけがマッチョになってしまう……それだけは避けたい……。 それはそうと、出来上がるたびに思うよね……」
少し痙攣してそうな二の腕をなでながら、大きな乳鉢一杯に出来上がった淡い青緑色の傷薬を見る。
「何度見てもアズノ〇ル軟膏にしか見えん……。」
転生前のお仕事の時に、おむつかぶれや、火傷……軽度の炎症性の皮膚疾患に使っていた青い軟膏にそっくりなんだよなぁ、色はもう少し濃かったと思うけど。
あれは大変に良い薬だった、ありがとう、アズ〇ール……まさか転生先で思い出すことになるとは思わなかったよ。 転生するとも思わなかったけど。
つい拝んだりしながらも、それを今度はへらを使って瓶に詰めていく。
「大きい方がいっぱい売れたから、大きい瓶に詰めていこう……ポーションを市井に売らない代わりに傷薬にしろって、瓶一杯くれたの、ありがとう!」
まぁ、ポーション売らないって契約させられたのは許さないけどね! このあたりのことは今はあんまり思い出したくないので記憶の向こうにポイ!だ!
「フィラン、ご飯ができた……これはまた、ずいぶんたくさん作ったんだね。」
「セディ兄さま、どうかしましたか?」
一心不乱に瓶の中に傷薬をつめていたら、声を掛けられて顔を上げると、少々驚いた顔をしていたセディ兄さまはすぐに笑った。
「いや、この量に少し驚いて……。 夕食の準備ができましたから、エプロンを脱いで顔と手を洗ってきてください。 シチューが冷める前に。」
「はぁい!」
手洗いうがいを推奨するなんて、やっぱりお母さんだ! とおもいつつ、エプロンをスポーンと脱いだ私は乳鉢にカバーを掛けてつめ終わった瓶に蓋を全部閉めてからご飯を食べに水回りの部屋に足を速め……たら、埃が立つから薬やご飯のところでは走らない! と、怒られました。
セディ兄さま、おかん属性強めです。
「いっただきま~す!」
「いただきます。」
お皿にたっぷりと盛られたシチューと、柔らかい丸いパン、それから兎肉のハムを焼いたものとサラダが並び、食卓になっているテーブルの上はとても賑やかだった。
ところどころできらり、きらりと光が落ちてくるのは、出ずっぱりのままの精霊たちで、今日は日の精霊日――つまり精霊たちの安息日ということでアルムヘイムとヴィゾウニル以外はこの空間に出てきていて、神の木の傍で寝ているコタロウにくっついて寝ている。
ちなみにあとの二人は何が気に入らないのか、言葉は聞こえるけどここ一週間一度も出てきていない……何かしたかなぁ……いや、したな、大騒ぎして迷惑かけたんだった、反省。
パンをちぎって口に入れてもぐもぐしながら反省する。
「精霊も、あんなふうにして寝るんだね。」
「え? そういうものじゃないんですか?」
不思議そうな顔をしながら神の木のたもとを見ているセディ兄さまに、私はシチューを口に運びながら聞いた。
「契約してからずっとあんな感じなので、おかしいと思ったことはないんですが……」
『まぁ、違うわね。』
ふわりと声だけがその場に落ちてくる。
「アルムヘイム、まだでてこないの?」
『まだそこの花樹人を信用してませんもの。』
ん? 私に怒ってるんじゃなくてそっちなの? とびっくりする。
「え? 無茶した私に怒ってるんじゃないの?」
『もちろん! それはとっても怒っていますわよ! でもそちらに行かないのはそこの花樹人が気に入らないから! ですわ!』
わぉ、歯に衣着せぬあからさまな嫌悪のお言葉!
精霊のモットーは、人にやさしく!じゃなかったの?
「アルムヘイム、えっと、ちゃんと紹介した通りセディ兄さまだよ? ご飯もおいしいし、優しいし、強いし、ラージュ陛下からの紹介だから身元もしっかりしているし、それに他の子達は仲良くなってるよ? アルムヘイムも、ヴィゾヴニルも、仲良くなってほしいなぁ~。」
お願い~、と声をかけると大きなため息? が聞こえた。
『フィラン!』
しゅるん! と、勢いよく腕輪の光から飛び出した輝く黄金の美女は、突き出した人差し指でつんー! つんー! と私の鼻を強めに押しながら目を吊り上げた。
『貴女は人を信用しすぎですのよ! そもそも空来種なのだからもう少し自分の希少価値を考えなさいな! それと、もう少し人を疑うことをなさい! いくらあのラージュが連れてきた人間だからって、この人が悪い人だったらどうするの!? 寝てる彼女が本当はそれがフリだったらどうするの! 私は心配で心配で!』
……アルムヘイム、力説してるけど私が心配でしょうがないー! って。 よくわかるー! かわいいー!
『だからもう少し……って、フィラン! ちゃんと聞いているの!? 何をそんなににやにやしていますの!?』
「聞いてるよ、気をつけます。 それよりも、出てきてくれてうれしい~。」
怒ってるのはわかる、解るけれども!
一番はそこ。
アルムヘイムもヴィゾヴニルも、推しかけ精霊の上に出会って2日目の大騒ぎとはいえ、こちらでは無条件に私の味方をしてくれる私の大切な家族って認識だから、一週間も会えないと寂しかったのだ。
顔を引き締めながら答えるが、何とも言えない顔になっているアルムヘイムは顔を照れているような、怒っているような、複雑な表情をしたうえで、もう! 知りませんわ! と消えてしまった。
「あ、アルムヘイム」
残念、もう少し話をしたかったし、セディ兄さまの事を話したかったんだけどな……。
『フィラン、アルムヘイムで遊ぶのはほどほどにね。』
そんなやり取りを見ていたヴィゾヴニルが苦笑いをしながら現れて、私に向かって言う。
「遊んでないよ、心配してくれてるのが嬉しくて、ついつい。」
『それを遊んでいるというんだけれど……。 でもね、僕もアルムヘイムと同じ意見なんだ、あそこまであからさまにはしないけどね。』
はぁ、とため息をつくようなしぐさをしながら、横目でセディ兄さまを見たヴィゾヴニルは腕を組んだ。
いや、その態度はあからさまなのでは?
ここは黙っているのがいいかもしれなけれど、契約主の私が何か言わないとだめなのでは……?
「ヴィゾヴニル。 アルムヘイムもだけど、セディ兄さまの何がそんなに……」
『センダントディ・イトラ……。』
私が言い終わる前に、ヴィゾヴニルがゆっくりとセディ兄さまに向かって口を開いた。
『上で寝ている妹もだけど、君、花樹人の割に木の精霊の祝福があまりにも少なすぎやしないかい?』
「……」
何にも答えずに困ったように微笑んだままヴィゾヴニルの言葉を聞いているセディ兄さま。
ヴィゾヴニル的にはそれも気に入らないみたい。
『なるほど。 黙っているところを見ると、自覚をしているというわけか。 フィランが聞かないことをいいことに、何も言わないのは誠実とはいいがたい。 日の精霊は誠実を貴ぶからな。 二つ目の安息日にも何も言わないからこそ、あのように言ったのだと思うぞ。 お前が、フィランと同じくラージュの末席におらねばこの家に入れなかったことだけは、自覚しておくといい。』
セディ兄さまから顔をそらしたヴィゾヴニルは今度は私の方を見た。
『お前が繊細なのか豪胆なのかわからないが、アルムヘイムの身にもなってやってくれ。 お前に従順であれと言いくるめられている五つの子達と違い、私とアルムヘイムはお前の為ならばお前の命令に反する。 それを許されているからな。』
「え?」
誰に?
私がそれを聞く前に、なでなで、と私の頭をなでてヴィゾヴニルはするりと消えた。
残された変な空気の私とセディ兄さま。
「……もう、わけわからない……。 けど、セディ兄さま、二人がごめんなさい。」
とりあえず謝っておく。
誰だって、相手が人じゃないものだと分かっていても、あんなふうに言われたら自分でも気分悪いもん。
「本当にごめんなさい。」
すると、セディ兄さまはまた、困ったように笑った。
「いえ、言われている意味はよくわかりますから。 あちらの反応のほうが、正しいのだと思います。 むしろフィランは日の精霊が言ったように警戒心がなさすぎますから、気を付けたほうがいいかと。 最初の頃の様に兄さまが抜けなくなったのは良いと思いますが、お気をつけください。」
「……善処します。 それじゃあセディ兄さまも、敬語、やめてくださいね。」
「……すみません、善処します。」
「……それが敬語です。」
「……あ。」
私たちは顔を見合わせて、吹き出した。
いや、けどなぁ……まさか、セディ兄さまにまで警戒心がないと言われるとは。
私、あっちでは警戒心バリバリのアラフォー女だったはずなんだけど、もしかして警戒心がばがばだった?
と、悩んでいたら、シチュー冷めてしまいますよ、と変わらぬ笑顔のセディ兄さまに夕食を促され、私はスプーンを動かして食事を勧めた。
あの二人の乱入で、話しかける機会を失って黙々と進む食事……うぅ、食べた気がしない……。
どうにか仲良くなってくれないかなぁ……。
私は溜息をついた。
「フィラン?」
「あ、だいじょうぶ、です! ごめんなさい。」
まぁ、薬を作ってる最中でもあったし、精霊たちにも、セディ兄さまにも、落ち着いてからでもいいから、ちゃんと話し合いの場を設けよう!
私はちょっと心に決めて、パンをちぎった。
22
あなたにおすすめの小説
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
処刑回避のために「空気」になったら、なぜか冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで。
チャビューヘ
ファンタジー
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の、すれ違い溺愛物語!
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー
心絵マシテ
ファンタジー
聖王国家ゼレスティアに彼の英雄あり!
貴族の嫡男、ギデオン・グラッセは礼節を重んじ、文武に励む若者として周囲から聖騎士として将来を有望視されていた。
彼自身もまた、その期待に応え英雄として活躍する日を心待ちにしていた。
十五歳になったその日、ギデオンは自身の適性職を授かる天啓の儀を受けることとなる。
しかし、それは彼にとっての最初で最後の晴れ舞台となってしまう。
ギデオン・グラッセの適性職はマタギです!!
謎の啓示を受けた若き信徒に対し、周囲は騒然となった。
そればかりか、禁忌を犯したとありもしない罪を押し付けられ、ついには捕らえられてしまう。
彼を慕う者、妬む者。
ギデオンの処遇を巡り、信徒たちは互いに対立する。
その最中、天啓の儀を執り行った司教が何者かによって暗殺されるという最悪の出来事が起きてしまう。
疑惑と疑念、軽蔑の眼差しが激怒ギデオンに注がれる中、容疑者として逮捕されてしまったのは父アラドだった。
活路も見出せないまま、己が無力に打ちひしがれるギデオン。
何もかも嫌なり自暴自棄となった彼の中で、突如として天性スキル・ハンティングが発動する。
神々の気まぐれか? はたまた悪魔の誘惑か? それは人類に終焉をもたらすほどの力を秘めていた。
・天啓の儀「一話~十六話」
・冒険の幕開け「十七話~三十九話」
・エルフの郷、防衛戦「四十話~五十六話」
・大陸横断列車編「五十七話~七十話」
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる