【超不定期更新】アラフォー女は異世界転生したのでのんびりスローライフしたい!

猫石

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4章 私のお店、開店します!

2)セディさんvs日・月の精霊 前哨戦

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 裏庭からの出るウトッナ草を両手に抱えた籠いっぱいに摘み取ると、桶に溜めた水で綺麗に洗い、とっても大きな乳鉢にいれて、一度風で魔法粗く刻んでから自分の手でゴリゴリと擦込んでいく。

 擦れば擦るほどは白く強くなっていくので、そこから下級体力ポーション(ただし効果は200パーセント増)を少しずつ入れながらさらに丁寧にゴリゴリしていく。

 しっかりとろとろの状態になったところで、今度は泡だて器でメレンゲを作るようにしっかりと泡立てていく。

 じゃっかじゃっか、じゃっかじゃっか 泡立てる。

 大変に地味~な上腕二頭筋の鍛えられるこの作業。

 効率化できないものかとエーンートやシルフィードに手伝ってもらったけれど、求めるほどのキメの細かいホイップにはならず、あきらめて自分でたてることにした……のだが、なんたって疲れる。

「電動泡たて機が欲しいーっ!!」

 泡立てながら、今度は少しずつ植物性で、低温度では固形になる油……あっちで言うところのワセリンみたいなものなんだけどこれを二匙ずつ足していく。

 ちなみにこれは、材料に困ったときに、樹木の樹液にそういう性質があると聞いたので、早速エーンートが用意してくれた苗木を庭に植え、スキルで十分な大きさに育て、その樹液を漆やメープルシロップの要領で集めたものだ。

 その樹液を火魔法のごく低温、溶けるギリギリの温度で温めながら、大匙で二杯ずつホイップと合わせては泡立て、いい感じの硬さになり始めたら、今度は匂い対策。

 今のままでは青汁100%な匂いのままで絶対! 売れない(私は買わない)ので、ライネの皮から作った精油を入れて匂いも整えて……

「電動泡だて器を誰か作ってください―!」

 必死!

 超必死!

 必死に泡立てて入れて泡立てて入れて……を繰り返し、青緑の透明な怪しい液体から、とろりとした良い香りの半固形になったところで、ようやく傷薬の完成である。

 労力半端ない!

 両腕がつる……明日筋肉痛決定……売れるのはものすご~く嬉しいけれど、一日限定何個! とかにしたい!

「こっちの人は並ぶのが苦痛とか、予約販売が苦痛とか言わないかな……。」

 ちょっと考えて、私は首を振った。

「いや、無理だな……」

 すぐほしい、今欲しい、予約待ちとか無理! って言うだろうな。

 だって命に係わる冒険とかしてる人も多いし、職人さん達もすぐほしいよね。

「しかし……電動泡だて器がないと私のか細い腕だけがマッチョになってしまう……それだけは避けたい……。 それはそうと、出来上がるたびに思うよね……」

 少し痙攣してそうな二の腕をなでながら、大きな乳鉢一杯に出来上がった淡い青緑色の傷薬を見る。

「何度見てもアズノ〇ル軟膏にしか見えん……。」

 転生前のお仕事の時に、おむつかぶれや、火傷……軽度の炎症性の皮膚疾患に使っていた青い軟膏にそっくりなんだよなぁ、色はもう少し濃かったと思うけど。

 あれは大変に良い薬だった、ありがとう、アズ〇ール……まさか転生先で思い出すことになるとは思わなかったよ。 転生するとも思わなかったけど。

 つい拝んだりしながらも、それを今度はへらを使って瓶に詰めていく。

「大きい方がいっぱい売れたから、大きい瓶に詰めていこう……ポーションを市井に売らない代わりに傷薬にしろって、瓶一杯くれたの、ありがとう!」

 まぁ、ポーション売らないって契約させられたのは許さないけどね! このあたりのことは今はあんまり思い出したくないので記憶の向こうにポイ!だ!

「フィラン、ご飯ができた……これはまた、ずいぶんたくさん作ったんだね。」

「セディ兄さま、どうかしましたか?」

 一心不乱に瓶の中に傷薬をつめていたら、声を掛けられて顔を上げると、少々驚いた顔をしていたセディ兄さまはすぐに笑った。

「いや、この量に少し驚いて……。 夕食の準備ができましたから、エプロンを脱いで顔と手を洗ってきてください。 シチューが冷める前に。」

「はぁい!」

 手洗いうがいを推奨するなんて、やっぱりお母さんだ! とおもいつつ、エプロンをスポーンと脱いだ私は乳鉢にカバーを掛けてつめ終わった瓶に蓋を全部閉めてからご飯を食べに水回りの部屋に足を速め……たら、埃が立つから薬やご飯のところでは走らない! と、怒られました。

 セディ兄さま、おかん属性強めです。






「いっただきま~す!」

「いただきます。」

 お皿にたっぷりと盛られたシチューと、柔らかい丸いパン、それから兎肉のハムを焼いたものとサラダが並び、食卓になっているテーブルの上はとても賑やかだった。

 ところどころできらり、きらりと光が落ちてくるのは、出ずっぱりのままの精霊たちで、今日は日の精霊日――つまり精霊たちの安息日ということでアルムヘイムとヴィゾウニル以外はこの空間に出てきていて、神の木の傍で寝ているコタロウにくっついて寝ている。

 ちなみにあとの二人は何が気に入らないのか、言葉は聞こえるけどここ一週間一度も出てきていない……何かしたかなぁ……いや、したな、大騒ぎして迷惑かけたんだった、反省。

 パンをちぎって口に入れてもぐもぐしながら反省する。

「精霊も、あんなふうにして寝るんだね。」

「え? そういうものじゃないんですか?」

 不思議そうな顔をしながら神の木のたもとを見ているセディ兄さまに、私はシチューを口に運びながら聞いた。

「契約してからずっとあんな感じなので、おかしいと思ったことはないんですが……」

『まぁ、違うわね。』

 ふわりと声だけがその場に落ちてくる。

「アルムヘイム、まだでてこないの?」

『まだそこの花樹人を信用してませんもの。』

 ん? 私に怒ってるんじゃなくてそっちなの? とびっくりする。

「え? 無茶した私に怒ってるんじゃないの?」

『もちろん! それはとっても怒っていますわよ! でもそちらに行かないのはそこの花樹人が気に入らないから! ですわ!』

 わぉ、歯に衣着せぬあからさまな嫌悪のお言葉!

 精霊のモットーは、人にやさしく!じゃなかったの?

「アルムヘイム、えっと、ちゃんと紹介した通りセディ兄さまだよ? ご飯もおいしいし、優しいし、強いし、ラージュ陛下からの紹介だから身元もしっかりしているし、それに他の子達は仲良くなってるよ? アルムヘイムも、ヴィゾヴニルも、仲良くなってほしいなぁ~。」

 お願い~、と声をかけると大きなため息? が聞こえた。

『フィラン!』

 しゅるん! と、勢いよく腕輪の光から飛び出した輝く黄金の美女は、突き出した人差し指でつんー! つんー! と私の鼻を強めに押しながら目を吊り上げた。

『貴女は人を信用しすぎですのよ! そもそも空来種なのだからもう少し自分の希少価値を考えなさいな! それと、もう少し人を疑うことをなさい! いくらラージュが連れてきた人間だからって、この人が悪い人だったらどうするの!? 寝てる彼女が本当はそれがフリだったらどうするの! 私は心配で心配で!』

 ……アルムヘイム、力説してるけど私が心配でしょうがないー! って。 よくわかるー! かわいいー!

『だからもう少し……って、フィラン! ちゃんと聞いているの!? 何をそんなににやにやしていますの!?』

「聞いてるよ、気をつけます。 それよりも、出てきてくれてうれしい~。」

 怒ってるのはわかる、解るけれども!

 一番はそこ。

 アルムヘイムもヴィゾヴニルも、推しかけ精霊の上に出会って2日目の大騒ぎとはいえ、こちらでは無条件に私の味方をしてくれる私の大切な家族って認識だから、一週間も会えないと寂しかったのだ。

 顔を引き締めながら答えるが、何とも言えない顔になっているアルムヘイムは顔を照れているような、怒っているような、複雑な表情をしたうえで、もう! 知りませんわ! と消えてしまった。

「あ、アルムヘイム」

  残念、もう少し話をしたかったし、セディ兄さまの事を話したかったんだけどな……。

『フィラン、アルムヘイムで遊ぶのはほどほどにね。』

 そんなやり取りを見ていたヴィゾヴニルが苦笑いをしながら現れて、私に向かって言う。

「遊んでないよ、心配してくれてるのが嬉しくて、ついつい。」

『それを遊んでいるというんだけれど……。 でもね、僕もアルムヘイムと同じ意見なんだ、あそこまであからさまにはしないけどね。』

 はぁ、とため息をつくようなしぐさをしながら、横目でセディ兄さまを見たヴィゾヴニルは腕を組んだ。

 いや、その態度はあからさまなのでは?

 ここは黙っているのがいいかもしれなけれど、契約主の私が何か言わないとだめなのでは……?

「ヴィゾヴニル。 アルムヘイムもだけど、セディ兄さまの何がそんなに……」

『センダントディ・イトラ……。』

 私が言い終わる前に、ヴィゾヴニルがゆっくりとセディ兄さまに向かって口を開いた。

『上で寝ている妹もだけど、君、花樹人の割に木の精霊の祝福があまりにも少なすぎやしないかい?』

「……」

 何にも答えずに困ったように微笑んだままヴィゾヴニルの言葉を聞いているセディ兄さま。

 ヴィゾヴニル的にはそれも気に入らないみたい。

『なるほど。 黙っているところを見ると、自覚をしているというわけか。 フィランが聞かないことをいいことに、何も言わないのは誠実とはいいがたい。 日の精霊は誠実を貴ぶからな。 二つ目の安息日にも何も言わないからこそ、あのように言ったのだと思うぞ。 お前が、フィランと同じくラージュあいつの末席におらねばこの家に入れなかったことだけは、自覚しておくといい。』

 セディ兄さまから顔をそらしたヴィゾヴニルは今度は私の方を見た。

『お前が繊細なのか豪胆なのかわからないが、アルムヘイムの身にもなってやってくれ。 お前に従順であれと言いくるめられている五つの子達と違い、私とアルムヘイムはお前の為ならばお前の命令に反する。 それを許されているからな。』

「え?」

 誰に?

 私がそれを聞く前に、なでなで、と私の頭をなでてヴィゾヴニルはするりと消えた。

 残された変な空気の私とセディ兄さま。

「……もう、わけわからない……。 けど、セディ兄さま、二人がごめんなさい。」

 とりあえず謝っておく。

 誰だって、相手が人じゃないものだと分かっていても、あんなふうに言われたら自分でも気分悪いもん。

「本当にごめんなさい。」

 すると、セディ兄さまはまた、困ったように笑った。

「いえ、言われている意味はよくわかりますから。 あちらの反応のほうが、正しいのだと思います。 むしろフィランは日の精霊が言ったように警戒心がなさすぎますから、気を付けたほうがいいかと。 最初の頃の様に兄さまが抜けなくなったのは良いと思いますが、お気をつけください。」

「……善処します。 それじゃあセディ兄さまも、敬語、やめてくださいね。」

「……すみません、善処します。」

「……それが敬語です。」

「……あ。」

 私たちは顔を見合わせて、吹き出した。

 いや、けどなぁ……まさか、セディ兄さまにまで警戒心がないとそんなこと言われるとは。

 私、あっちでは警戒心バリバリのアラフォー女だったはずなんだけど、もしかして警戒心がばがばだった?

 と、悩んでいたら、シチュー冷めてしまいますよ、と変わらぬ笑顔のセディ兄さまに夕食を促され、私はスプーンを動かして食事を勧めた。

 あの二人の乱入で、話しかける機会を失って黙々と進む食事……うぅ、食べた気がしない……。

 どうにか仲良くなってくれないかなぁ……。

 私は溜息をついた。

「フィラン?」

「あ、だいじょうぶ、です! ごめんなさい。」

 まぁ、薬を作ってる最中でもあったし、精霊たちにも、セディ兄さまにも、落ち着いてからでもいいから、ちゃんと話し合いの場を設けよう!

 私はちょっと心に決めて、パンをちぎった。
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