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〖第8話〗
しおりを挟む振り返って手を振り笑う。何で私は泣いているの?悲しくない。悲しくない!
「次長、探しましたよ。泣いて──」
「泣いてないっ!」
この国の夕焼けは、綺麗じゃない。ごちゃごちゃしていて、見たくもなかったブルーのベビー服を着た男の子がおもちゃ箱をひっくり返したようだ。
待っててくれるなんて、好きでいてくれるなんて、都合の良いことばかり考えて。
「本当に馬鹿だな、私も」
*
長い執着もおしまい。薔薇のピアスを外してアイスクリームを食べた。涙が止まらない。
「おはぎ、アイスクリーム美味しい?美味しいね」
幸せをもらった。後悔なんかしていない。なのに何で悲しいんだろう。それは共に歩めない喪失感だろうか。それとも賢治は私を選ばなかったことに自尊心が傷ついたのか。
「おはぎ、ワインも美味しいよ。でも、おはぎはワイン飲めないからな。………この会社、会長の奥さんが小さなハンドメイドの作品を売る社長だったな、確か」
私の頭は冴える。頭の中のパソコンを立ち上げ、人事、家の周辺を探る。
*
その日から変わった。自分以外を見る。自分のスキルを上げるだけではなくて、周りをみて、誰に恩を売っておくか、このひとは落ち目だとか、判断する力をつけた。
誰につけば得か損か。
派閥、お気に入り。
過去の女性遍歴、また、男性遍歴。
趣味、趣向。
調べることは調べ尽くして人と会う。心理学や語学力をつける勉強しこの人とまた会いたいと思わせる話し方を身に付けた。
家ではいつも片手にアイスクリーム。彼が最後にくれたアイスクリーム。
*
時間は少しかかったが、私はついに、平からのたたき上げで初、女性で初の常務取締役になった。
あの日見たくもなかった屋上から見た夕焼け。見たくもない子供。今日のきっかけになったアイスクリーム。とても感謝している。
夜中、パソコンをいじり、膝にはおはぎ。おはぎもおじいさんだ。でも、彼の変わりはいない。暖かい、私の大切なおはぎ。片手にアイスクリームを右手で持ちながら、おはぎを撫でる。その左手でキーのタイプもお手の物だ。
秘密ファイルの私の鍵は『ICE_KENJI』彼との思い出。おはぎはうたた寝をしていた。私はアイスを食べ終わり、おはぎをだっこして、一緒にベッドに入る。いつも通りおはぎは微睡みながら、するすると私の首もとで寝て、髪をなめる。
「こんなおばさんの、面倒見てくれるの?おはぎ」
涙目になりながら私はおはぎをやさしく撫でた。
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