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〖第7話〗
しおりを挟む「私は、あなたが一番。もう後悔したくないから素直になることに決めたの。会社で、あの社会で、全ての人に可愛い女とそう思われるのは無理。でも、あなたがいればいい。昔みたいにはなれないかな、もう、遅いのかな」
「やっぱり、直属じゃないけど、部下だから。しかも、三輪は出世街道まっしぐらだ。お見合いとかの話も来るだろ」
私は頷く。
「違う世界の人なんだよ、今となっては、さ。朝ごはん、ご馳走さま。もうここには来ない。これ、鍵。三輪のこと、好きだったよ。ありがとう。でも俺、やっぱりお前に釣り合わないよ」
彼は、声が潤んで震えてた。首を傾けて、白い歯を見せて。閉まるドアを見送る。
私は一ヶ月後、海外支局に自ら転勤を願い出た。
~三年後~
あの頃、輸出検疫なんてあると知らなかったから、事前に知ることができて流石のインターネット様々だと思う。
おはぎと共に、フランスへ行った。チーズ、ワイン、アイスクリーム。でも、足りない。あのひとが足りない。心の穴はアルコールでは中々うまらない。かつての恋の影を追いかけているだけだよと言ったひともいた。何となく解ってはいる。賢治に『俺そんな御大層なもんじゃないよ』とでも、言われそうだ。
つらい思い出は消えていく、幸せな思い出だけ残して。人は狡いなと思うけれど、人間上手くできている。
身につけたのは、英語とフランス語。物怖じしない対人スキル。帰ってきたら私の隣のオフィスの上座の方に賢治がいた。課長の席だった。目が合う。
『おかえり』
『ただいま』
屋上で『美味しいよ』とアイスクリームを渡された。私は苦笑して棒をつまむ。チョコレートアイス。
「あ、美味しい」
「だろ?なめらかでカミさんもつわりのときこれだけは食えた」
私の時間が止まった。ピシッと音を立てて。
「結婚、したんだ」
「チビもいる。男の子。これ、写メ。俺似かな。とにかくヤンチャ。ごめん。連絡何もしなくて。カミさん怖くて、飲みに行くのも全部申告制。面子も」
疲れた、ただのサラリーマンの顔があった。私の好きな、私が愛した賢治はいなかった。
「何で謝るの?後悔なんかしてないんでしょ?私は逃げたの。それだけよ。結婚おめでとう。幸せになれたらいいね。じゃあね。アイスクリームご馳走さま。これ、気に入っちゃった。覚えとく。さよなら」
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