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狸と狐のピーチとオレンジのキャンディ
ファジーネーブル〖10〗
しおりを挟む『ずっと、笑いたくもないのに笑ってきたの!私は!汚ないって木津音くんに言われたものを振り撒いて!あなたのせいで心から笑えなくなった!《笑顔が穢い》ってあなたに言われたから!』
木津音くんは、黙ってうなだれて『ごめん』と言った。心に意地悪な化物が住み着いた。今、悲しそうな顔をした木津音くんを見て心地いい。自分が怖くなった。でも、とまらない。
『家は貧乏で、花束すらあげれなくて。あなたが野菊が好きだって言ったから。弟と妹に手伝って貰って野菊の花束作ったの。ああ思い出した私、稲荷寿司も作ったんだよね。油揚げから、あなたが喜ぶと思って鍋で煮て、酢飯を詰めて………。それも、要らないって。………好きで、ずっと、憧れてたまらなかった人にね』
私は手を握りしめ、木津音くんを見据えて言った。私、笑っている。嫌な笑い方だ。ああ。汚い笑顔だ。
自分でも解る。私は、深呼吸して言った。今、私は汚い顔して笑ってる。
『私は二度と恋はしない、もう誰も好きになったりするヘマはしない』
体育館倉庫の窓から西日が沈む。残照に乱反射する、長いびっしりと生え揃った私の睫毛が綺麗だったと、木津音くんは、うつむきながら涙を拭う私を見て、思ったと後で聞いた。
『そんな、哀しいこと言うなよ。俺は──諦めるけど、心に誰かの居場所を思い描くって、幸せだよ。だから、恋はしろよ。いつか、良かったと思えるから』
私は、じんわり目蓋が熱くなっていくのを感じた。
『全部………全部、木津音くんのせいだよ!私だって思ってたよ!お母さんが倒れた時、話を聞いて貰って、元気になる薬を貰って、毎日が心細くて──あなただけが支えだった。ねぇ、なんであんなことしたの?花束も、稲荷寿司も。それに、あんな言葉……あんなこと言われなかったら、私は笑うことに苦しまなかった。それに、ずっとあなたを好きでいられた!』
木津音くんは、私の腕を引き寄せ、強引に隣に座らせた。
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