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狸と狐のピーチとオレンジのキャンディ

ファジーネーブル〖9〗

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 ただ思うのは、馬鹿にされたくないくらい綺麗になりたかった。

 そう思いながらも、私は今日もヘラヘラした顔をしておどけてみせる。こんな風に。あっという間の放課後、体育館倉庫。

 西日が、暑い。現れた木津根くんに、

「またまた!ドッキリ告白?やだぁ、恥ずかしいよ。でも丸解りだよ!次は、前もって言ってよ。やだ!本当恥ずかしい!」

『わかってるよ、撮ってるんでしょ?木津音くんも断んなよ。こういうの、本当に趣味悪いよ。最低。信じらんない。これから二度と話しかけないで。私は木津音くんみたいなひと、遊びでもこういうこと出来る人好きになれない』
 
 私はやっと今漸く、拙い初恋に終止符を打てた。真実を、あの恋い焦がれたあと、抉るような傷をつけた狐が木津音くんだと知っていて本音が言えた。

『獣の声』で話した。

 人には聞こえない声。木津音くんも何故か穏やかだった。

『最低か。二度と話しかけないでって、きっついな。ずっと、好きだったからさ。俺、立貫のことずっと、好きだったよ。カメラは俺がフラれる所を撮るための奴。テレビで立貫そっくりの女性官僚が出てて立貫、男子の中で『官僚』って言われてる。勉強できて、格好良いって。顔もスタイルも完璧じゃないところが可愛い。でも何か、凛として摘めそうで、摘めない花だって。俺、本気だよ?遊び扱いされて、ちょっと失礼じゃない?』

 風が吹く。寒い。もう陽は翳って、足元から冷えてきている。

『後ろ向きで立ってないで、こっち座りなよ』

 振り向くと心配そうな木津音くんの心配そうな顔があった。日差しが金色に部屋を染めあげていく。

 あれから人の世界で暮らすのが怖くて。誰から構わず疑って構えないと話せなくて。みんな、振り向いたらお化けみたいに本音と建前を使い分けて、心では意地悪な化物を飼っているように思えた。自分も侵食されるみたいに、いずれそうなっていくんだろうなって思っていた。
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