今日は贅沢にカクテルはいかが?〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
24 / 27
人魚の恋と蒼い月

ブルームーン〖6〗

しおりを挟む

 少し間があった後、君は、

「さっきの奴、気にしなくていいから。いい奴だよ。音大でピアノ専攻してる。芸術家ってのはわかんねぇな。あいつ綺麗な子が大好きだから海月には近寄らせないようにしなきゃな」

 海月は、綺麗だよ。ずっと変わらないな。そう君は軽く笑いながら言い、君は僕に綺麗な薄紫色のカクテルの入ったグラスをスッと差し出した。僕は君の指先の繊細さに見とれた。

「俺から。ブルームーン。まあ《蒼い月》っていうんだ。『叶わぬ恋』って意味があるんだって。でも美味しいよ。香りが凄く良いんだ。ジン使ってあるからゆっくり飲んで」

 薄い紫色の綺麗な液体。ゆっくり飲む。叶わぬ恋か、今の僕だ。

「海月は好きなひといるのか?」
 
 君の唐突な問いに僕は俯いて『いるよ』と答えた。顔を上げて、目があった。君の瞳が、僕の中身を見透かすように見つめる。手が、震えた。君は僕の震える手に心配そうに手を重ねた。

 長い長い初恋。君に焦がれて僕は海を捨てた。『何を今更』と皆言うだろうね。でも、改めて思う。僕は君に『恋』をしていた。父上が言っていた言葉も、今なら全て解る。

 ああ、消えてしまう。一瞬の泡沫うたかたの恋。僕の恋は、伝えることはないと思っていた想いは、口にすることもなく、ほんの数秒の間、君と視線を合わせるだけで終わってしまった。
 
 一生気づかれることはないと思っていた。傍にいられるだけで幸せだった。そうするつもりだった。

君の眼差し、
君の声、
君の温度。

 僕はこれから泡となって消えるけれど、後悔はない。

 明日は丁度、君の誕生日だったね。『死の穢れ』も完全に切れる。


 最高のバースデープレゼントもあげられる。君の願いを叶えてあげるよ。君のお洒落な部屋の掛け時計を見る。

 ああ、もうすぐだ。
 

 僕は君を見つめ返した。こんなに長く君を視線を合わせたのは初めてかもしれない。

「──君が好きだよ、だから忘れないで。僕を忘れないで」

 僕が消えても、ずっと覚えていて。

「海月!本当、なのか?俺の目見て、もう一回言えるか?その、俺を………好きだって………」

 両手首を掴まれ逃げられない。最後の最後に酷いことを言うんだね。

 どうしよう、時間がない。泡沫となってしまう。一抹の水になって消えてしまう。
こんな風に終わりたくなかったな。

 君は僕が泡沫として消えたら驚いて、怖がってしまうよね。『化物』に騙されていたとは思われたくないな。

 僕は君が本当に好きだったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

処理中です...