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枯れたジキタリスの花
〖第8話〗
しおりを挟むデザートに先輩は僕に内緒で珈琲ゼリーを作ってきてくれた。坂の上にあるパン屋さんは定休日だった。
「すごく美味しそう」
銀のカップの中で、ゼリーがプルプル揺れる様は何だか可愛らしい。
「カロリーオフのシロップとポーション。ちゃんと固まったか大丈夫だとおもうけど、食べてみるね」
まるで毒味のように、先輩はゼリーを食べた。
「美味しいよ。大丈夫そう。はい、明彦の」
渡される、冷えたアルミの型。ヒヤリと手に冷たさが伝わる。柔らかな口当たり。あっという間に食べ終わる。
「………先輩の、一口下さい」
上目遣いで、僕は先輩をじっと見つめる。
「目、瞑って」
温かい、先輩の味が混じったゼリーが口うつしで運ばれる。
「甘いです。美味しい」
「明彦は可愛らしいくて、あどけなさも含めて、すごく、艶っぽくなった………。蛹から蝶にかえったな。綺麗なやさしい姿の蝶々だ」
「………僕が蝶々なら捕まえていてください。ちゃんと、ちゃんと捕まえていて。僕はもう、高校生の『相模』じゃない。好きになる花を選べます」
「………相模?」
「………あなたは、あなたはっ!………ずっとあなたを追いかけ続けた僕を捨てた!」
ああ、こんなこと言っても無意味なのに。散々飲み込んできたことだ。
それが今頃になって。僕はどうして膝に置いた手を震わせているんだろう。
「あなたに追い払われて、僕はあなたに捨てられた蝶々ですよ。あの頃、T大の頃のあなたの前では、何もかも無意味でした。新しい恋を見つけたあなたにとって僕は騒音でしかなかった。覚えてます?あなたは、僕にこう言った。あのやりとりは一言一句忘れない!」
──────────
『佐伯、光宏さんですよね?相模です。相模明彦です!やっと、追いつきました』
『誰?忙しいんだけど。見て解らないかな』
「そのあと、肩にかかったごみを払うように、舌打ちまでして、僕を視線で追い払って、早川さんと愉しそうに話し込んでいました。高校時代、先輩の表情は僕を見る瞳は優しいのに、それ以外のひとには冷たかった………大学生のあの瞬間、僕はその他大勢でした。僕はその日のうちにイギリスへの奨学金つきの留学を決めました。大学にはトップで入学したから箔がつきましたよ!」
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