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枯れたジキタリスの花
〖第9話〗
しおりを挟む先輩は、泣きそうな顔をしていた。一番怖れていた答えが返ってきた。
「憶えてない……相模……再会して十年以上だよな、相模のことを………会うまで、思い出すことも、無かった………ごめん。ごめん………。大学で、相模が会いに来てくれたのに。誰だか解らなかった。あの頃遊んでいたから、そのうちの誰かかなって。孝明には知られたくなくて話しかけてくる男子は追い払ったことは憶えてる。相模、ごめん」
先輩は早川さんへの想いに疲れて死のうとした。でも、助かった。イギリスから帰り、系列病院の患者リストに『佐伯光宏』の名前があった瞬間すぐさま立候補した。
僕の目からポロポロと涙がこぼれた。この選択は、間違っていたのだろうか?間違ってる?恋人になんかならなければ良かった?
「話を、話をさせてくれ」
「無いところから出てくる話は『嘘』しかないんです」
結局はすれ違い。 診察室で、一人で地味な手製のお弁当でも食べていればいい。
僕は料理は得意だ。
先輩は、男女問わず医師からも、看護師からも注目の的だ。そう思い、僕は先輩から顔を背けた。 未練たらしく涙が伝う僕を見せたくなかった。
「さよなら、先輩。早いうちに、荷物取りに来ます。今までありがとうございました。お元気で」
そう言い立ち去ろうとした僕の右手を先輩は掴んだ。
「相模は、俺が『先輩』じゃなければ好きになることはなかった?初恋の『先輩』じゃなかったら、相模は俺は必要なかった?」
「必要ありません。あなたがあの『先輩』だから意味があった。あなたが待ってなかったらT大にも医学部にも行かなかった。あなたが『特別』を作らなかったら、僕は苦しむ必要はなかった。あの惨めさを味あわせてあげたいですよ。僕の存在は要らないもの扱いされて、舌打ちの価値しかない。まだ短い人生ですが、僕にとって、つらい高校生活であの『先輩』以外に僕が必要としたひとはいませんでした。でも、今の僕には、あなたなんかいらない!」
僕は知っている。自分の高校時代に書いた下手くそなニッコウキスゲが先輩のファイルに綺麗にファイリングされていることを。
そして、先輩は、ただの同情や憐憫の恋人にもやさしい人だということだということも。
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