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〖第34集〗
しおりを挟む初めて心から愛しいと思えたものは范蠡の家の者によって作られていた、憐れな『傾国』そして作られた『暗殺者』だった。それだけが役目の飼い殺しの人生を陸香は送ってきた。
范蠡の眼から音もなく涙が伝った。陸香は、呟くように語り続けた。
「まず教えられました。心を殺せと、感情などは必要ないと。相手を見て何を望むかを見抜けと。私は誰かを籠絡する為の道具だと教えられてきました。若しくは誰かを確実に一瞬で殺める為の道具です。私は着実に任務をこなしましたが、大きな過ちを犯しました。范蠡様を不相応にお慕いしたことです。私は気持ちをひた隠し、任務にあたりました。使い物にならない『傾国』は黒花の者に処分されますから。昔から、この計画はあったものなのです。だから今は、お別れの形見に范蠡様を眼に焼き付けておきたい。忘れないように。眉も、涼やかな眼も、鼻梁も、意思の強そうな口唇も………」
陸香が言い終わる前に范蠡は陸香をかき抱いて、口づけた。押し倒し、潤んだ声で首筋に口づけながら、『陸香』と呼んだ。
「哀しく、愛しい、そなたが愛しい。夢を………見せてくれ。陸香」
「……ええ、范蠡様」
まだ、夜にもならないうちから范蠡は陸香を抱いた。
陸香の首筋は蒼白かったが徐々に淡い紅色に染まっていった。与える快楽に忠実に悦ぶ素直な身体も気に入った。傷もない、白い四肢。乱れるお互いの長い黒髪がうねり、絡み、河のような流れを作った。
吐息を重ねると湿度が生まれる。身体を繋げば甘い声が。心は繋げられただろうか。だから范蠡は陸香の髪を撫で、口づけを繰り返し「愛している」と言った。何故だろう。范蠡は涙が止まらなかった。
ずっと傍にいてくれとは、言えなかった。
──────────
「桂花を憶えていますか?」
情事のあとの、乱れた衣服の中、范蠡が差し出した温かな腕枕の中で陸香は訊いた。肩口に収まる簪もないまっさらな陸香の髪はやわらかだ。
「そなたが、私の前で使った名では?」
范蠡は不思議そうに言うと、陸香は可笑しそうに、『植物の方です』と言った。秋に甘い匂いを霧のように漂わせるあの花かと范蠡は今頃になって思い出す。
「何故私が范蠡様の前で桂花と名乗ったかおわかりですか?あの花を私が『九里香』とも呼ぶのですよと、幼い范蠡様に教えたら、次の日、桂花の匂袋を作らせたものを私に下さり『九里以上離れていても、私は陸香を見つける。だから持っていて。花は私が摘んだ』そう言って下さったのです」
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