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〖第13話〗
しおりを挟むこの職場は、過ごしやすい。彰はこの冬、何人かの偏差値を十以上押し上げ、自己流で作った模擬テストはセンターに当たり、塾で過去最多の志望校合格者に貢献し、周りの信頼も得た。
冬はそれから何度も来た。
首都圏は、あまり雪は積もらないし、周りの服装の割に気温は高い。
この温度でロングコートの必要性は感じない。冬初心者ばかりだ。彰は小さく笑った。
大学に通うために住んだ小さなアパートメントを離れ、塾に勤めて暫くして、郊外の、職場から近い場所に引っ越した。
慣れて働きやすい職場と仕事。スマートフォンも二度買い換えた。彼女は、出来たり別れたり。職場関連が多いが友達も出来た。彰は彼女や友達に料理を振る舞うのが楽しい。
少し前にリクエストを訊いて、冷蔵庫をチェックし手早くおつまみを作る。スーパーマーケットに夕食の買い物を彼女とするのも好きだ。
『夕飯何食べたい?俺、料理好きなんだ。リクエストして。“何でもいい”は無しで』
カートを押しながらの、のんびりとした会話。
──『パスタ、イタリアン!』
──『ちょっと恥ずかしいけど、唐揚げ。いっぱい食べてみたかったんだ』
──『五目あんかけやきそば、かな。大好きなんだけどお店じゃ高い上に、作れなくて………』
一手間、手早く、心を込めて。コンロの背中でする会話。幸せだった。
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