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〖第23話〗溺れる夜
しおりを挟む巌は、ぼんやり白い肺を上下させる咲也を心配そうに見つめる。巌は、もう一度「大丈夫?」と訊いた。咲也はやわらかに微笑んで、
「大丈夫だよ。巌さん、そんな顔しないで。俺、巌さんと『する』の、好きだよ。すごく、気持ちいいし、満たされる感じがする」
咲也は無邪気に笑い、巌の首に腕を絡め、しがみつくように抱きついて、巌に口づける。何度もじゃれるような口づけを繰り返す。咲也が我を忘れた巌に抱かれ、絶頂を迎える感覚は、言葉に言い尽くせないほどの快楽だ。
「身体、つらくないの?無理……させた気がする」
心配そうに見つめる巌に軽く口づけ、咲也はまるく微笑む。
「平気だよ。良かったよ。巌さん……」
「何?」
「……好き」
──────────
抱き合った後、必ず巌は咲也の身体に腕を絡め咲也の髪を撫でる。そうすると咲也が安心した様子で眠りに落ちるのを巌は知っている。もう咲也が眠るのに薬もアルコールもいらない。巌がいればいい。
抱き合うこともせず、ただ寄り添い眠ることもある。お互いの体温を確かめあって、眠る。
咲也は計ったように巌の胸の中に納まる。いつもじっと咲也を見つめる巌に、咲也は言った。
「何を見てるの?」
そう言うと、巌は、
「咲也くんのこと、憶えておこうと思って。うなじとか、声とか。髪、良い香りだね。シャンプーと咲也くんの匂いと混じって。俺の一番好きな香りだよ」
「ありがとう。俺も巌さんの匂い好き。甘い匂いがするね。すごく、安心する……」
咲也は短かく、巌に口づけた。
「右目の下に、小さなほくろがあるんだね。泣きぼくろ」
「今、眼鏡かけてないから。いつもは眼鏡で隠れてる」
節ばった大きな左手で、巌は咲也の頬を包み、親指でほくろに触れた。咲也は巌を見つめた。
「泣きたいときは、我慢しないで泣かなきゃだめだよ」
「ありがとう。水、飲んでくるね」
下着を身に着け、台所へ行く。足の裏が冷たい。
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