あなたを追いかけて【完結】

カシューナッツ

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第9章

ライオンの『恋』②

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「谷崎くん、脱いで」

 秋彦がそう言い谷崎が戸惑ってると、

「僕に全部脱がされたくなかったらパンツだけになって椅子に座って」

 と言うのであくせくしなから谷崎は服を脱ぎ椅子に腰かける。
秋彦はカーキのパンツをまくり、

「やっぱり!足も刺されてる。薮蚊かな。洗ってあげるから足だして」

「…ご、ご飯のお礼にですか?」

その言葉に秋彦はつらそうな顔をして言った。

「…谷崎くんがそう思いたかったら、そう思えばいいよ」

「ち、違うんです、だって、理由が見つからない。先輩…俺は先輩の何ですか?
恋人ですか?
確かにキスもしたし、
同じベットで寝たけど…。
俺は先輩の友達でいることはもう無理です。
葉山先輩と先輩が一緒に居ることが幸せだと思ってました。
でも、葉山先輩は身を引いた。
内心欲が出ました。
先輩はやさしいから。
俺が『好きだ』と言えば先輩は断れない。
そう思いました。
先輩、本気で好きじゃない奴にこんなこと、しちゃだめだ。
俺、つらいです。
俺は先輩のこと…好きなんだよ?
ごめん。無理だ。
先輩の前で、泣きたくない。
独りに、独りにしてください」

谷崎は視界がぼやけるのを感じた。
秋彦は何も言わずTシャツを脱ぎ始めた。
脱いだTシャツを放り投げると、
カーキのパンツに手をかけた。
谷崎は秋彦の細い両手首を掴む。

「な、何してるんですか!」

秋彦は震える声で言った。

「抱いたら、抱いたら、解ってくれる?伝わる?」

「どうして…」

秋彦は、か細い声で呟いた。

「谷崎くん…僕は谷崎くんが好きだよ。
谷崎くんは僕の真っ暗な世界の灯りみたいだって、昨日、そう言ったよ?
祥介の手紙は本当。
祥介を好きな気持ちも本当。
谷崎くんを好きな気持ちも本当。
苦しくて、板挟みで、
どちらかを選べない自分がもどかしくてつらかった。
…谷崎くん。谷崎くんは、いつもあったかくて、明るくて。
一緒にいると、しあわせな気持ちになるよ。
信じてよ。少しだけでもいいから、僕の気持ちも、信じようとしてよお!」

その場に力無く座り込む小さな仔ウサギは黒い大きな瞳からポロポロ涙をこぼし、
滲んだ視界でやさしいライオンを探して両手は宙をさまよう。

やっと見つけたやさしい空色の瞳のライオンに仔ウサギは、しがみつくように抱きついた。
ライオンは仔ウサギを力一杯抱きしめた。
ライオンは幸せだった。
暫くして、谷崎は口を開く。

「…先輩」
「何?」
「俺、先輩の『好き』を信じますから」
「恋人、だね」
「恋人ですね」



─────────続
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