その腕で眠らせて〖完結〗

華周夏

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〖第4話〗

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『巌さんこの前『鍋食べたい』って言っていたから、今日は約束通り鍋だよ』

 でも、欲を出したら、出してしまったら、やさしい色の電球が弾けて割れてしまう。巌も嫌なはずだ。そんな目で見られていたと、もう二度とこの部屋に来てくれないかもしれない。

「つらいな………」

 呟きは、グツグツという鍋の音に紛れて消える。聞こえない方がいい。
  
    左手の薬指、それが外されたことは、一度もない。内心、咲也は自分に小さく笑ってしまう。当たり前じゃないか。自分と巌の間には何の関係もない。友達でもない。約束すらない。監督者が一番近いところだ。

「あのさ、咲也くん、一つ言っていい?」

「何?」

    白菜や豆腐をつつきながら、無表情で咲也は答えた。巌はやさしい声で、

「どうして海老、食べないの?」

「え?」

    巌は少し余り気味の豚肉に手をつけながら言った。咲也が手元の空の取り皿から目をあげると、巌の困ったような顔にぶつかる。

「若い子は海老が好きなんでしょ?」

 ほら、味が染みてるよ、と言い、咲也の取り皿に巌は海老を丁寧に入れた。

「巌さん。俺、もう三十四だよ?若くない」

    巌はやわらかに微笑んで、

「俺より八つ下なら、十分若いよ。ほら。白菜ばっかり食べてないで、さ」

    と言って穏やかに言った。急に不機嫌をぶつけた自分が恥ずかしくなる。

このひとの、こういう所が好きなのかもしれない。だから、待っていない顔をして待っているんだ。咲也は、泣きたくなった。

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